第百五十一話:『ヒーロー』のお仕事
「次はこっち、3メートルぐらい先に……人間が4人、人間じゃないのが……2人」
「わかった。小春さん、こっち側に3メートルぐらい、穴を開けてもらっていいですか?」
「ん、わかった」
小春さんが魔法で地中に作り出したトンネルをぞろぞろと進み、突き当たりまでたどり着くと、グリーマルが右側を指し示した。
穴の中を進んでいるのは僕ら3人と、芦屋さんと特殊二課の警察官が4人。
剥き出しの土の壁は驚くほど滑らかで、足元も歩きやすい。
芦屋さんがなんかよくわからない道具で作り出した光が唯一の光源なのだけど、穴の中を真昼のように、均一に照らしている。
どういう原理か知らないけど、便利だなぁ。
――さて、『暗黒星間帝国バルデューム』だったか、今回の敵は。
宇宙連合に属さない星間帝国が母体で、地球を征服した上で地球人をすべて奴隷にするのが目的なんだとか。
うん、ろくなもんじゃないな。
普段は5人組のカラフルなヒーローが戦っているらしいけど、それも宇宙連合とは関係のない宇宙人と、それに選ばれた地球人の混成部隊らしく、もちろん彼らの活動も非合法だ。
それを理由に逮捕するほどの状況ではないけれど、今回のように警察が先に事件を察知してしまえば、非合法のヒーロー活動に期待して静観なんてできるはずがない。
ただ、残念なことに伊吹さんを含めた戦闘担当者がそれぞれ別の案件で忙しく、芦屋さんから僕とグリーマルに出動要請が出たというのがおおまかな経緯だ。
そんなことを考えていると、小春さんがぼこっと3メートルぐらいの穴を作り出した。
奥に、鈍く光る金属の壁が見える。
初めて扱う土の魔力をこれほどまでに容易く使いこなすとは……恐れ入る。
『魔力』の大きさでいえば、小春さんと、魔法少女に変身した僕とではかなりの差がある。
でも、魔力を扱うセンスが僕とは段違いだ。
属性を変更するなんて僕には思いつきもしなかったし、どうやっているのか想像もつかない。
「なにぼーっとしてるのよ」
「あ、ごめん小春さん」
「あとはお兄さんの仕事なんでしょ? しっかりしてよね」
「はい……変身」
危ない危ない、ぼけーっと考え事をしてしまっていた。
ここから先は、僕の仕事だ。
僕の身体を光が包み、メタリックブルーの装甲が装着されていく。
変身完了。
ヒーローとしての名前とかはないんだけど、あった方がいいのかなぁ。
「スターゲイザー、来い」
狭いトンネルの中を、紅の光が照らす。
『ヒーロー』のスキルで壁をぶち破ることもできるのはできるんだけど、なるべく静かにことを進めたいから、やはり使い慣れた武器を使うのが一番だ。
戦いの上でも、『ヒーロー』のスキルの中には『剣』を持っている場合にのみ使用できるものがあるし、ちょうどいいだろう。
「グリーマル、壁際に人はいないね?」
「うん、大丈夫。部屋の中央あたりに固まってる」
「わかった……よっと」
なんの手応えもなく、金属の壁に切れ目が入る。
人が通れるぐらいの大きさに切り抜き、最後の一辺を切り離す前に、左手で壁を支えた。
そのまま手前へ引き出し、倒れないようにトンネルの壁へ立てかける。
金属の縁が地面を擦り、小さな音がした。
開いた穴から部屋の中へ踏み込むと、1体の怪人がこちらを見た。
声をあげられるとまずい。
まずいので、最近覚えた『ヒーロー』の上位スキル、『オーバーアクセル』を起動。
――自分以外のすべてが、スローモーションに感じる。
『オーバーアクセル』は、一定時間、世界がほぼ静止したかのように感じるほどの超加速と、感覚加速を行うスキルだ。
1日に3回しか使えないのが難点だけど、これは猛烈に強い。
元々僕は常人を遥かに超えた速度で行動できるけれど、『五感』についてはレベルがいくら上がったって一般人と変わらない。
いくら『素早さ』や『器用さ』が高くても、それを制御する思考がついてこなければ、完全に扱いきることはできない。
でも、このスキルは感覚そのものを加速させ、僕以外のすべてが遅くなったように感じられる。
だから――怪人が声をあげる前に、急速接近。
その口が開き切るよりも早く、袈裟懸けに一刀両断。
返す刀で、こちらへ振り向こうとしていたもう1体を――唐竹割。
こんなことも、できてしまうのだ。
正確に、素早く。
スキルの効果が残っているうちに、周囲を確認。
見た感じ、宇宙人の施設というよりも、企業のオフィスみたいな広い部屋だ。
壁際に机と棚が並び、天井には白い照明。
中央には人質が4人、手足を縛られて固められている。
出入口付近では、一刀両断された怪人が2体、ゆっくりと、ゆっくりと倒れていく。
悪いけど、地球人をさらって奴隷にするような連中に、かける情けはないんだ。
っと、ここで時間切れ。
それぞれに2つに割られた怪人2体の死体が……床に落ちる。
どさりと、音を立てて。
『オーバーアクセル』の持続時間はどうやら魔力依存のようで、『魔法少女』から大幅に魔力の下がっている今の僕では、これぐらいが限界だ。
「ひぃっ!?」
「おっと、騒がないでください。警察の方から来た者です」
人質の女性が、恐怖の声をあげる。
まぁ、びっくりするのも無理ないよね。
気づいたら見張りの怪人2体が惨殺死体になってるんだからさ。
言うまでもなく、とてもぐろい。
「た、助かるんですか……?」
「はい、すぐに出られますよ」
年配の男性にそう答え、入ってきた方に目配せする。
ここは警察官に任せるのがいいだろう。
穴から入ってきた警察官たちが、人質のところへ駆け寄った。
小声で話しかけながら、手足の拘束を外していく。
「うぇっ……」
背後から、小春さんの声がした。
穴を抜けてきたところで、床の死体を見て足を止めている。
「しょうがないですよ、騒がれずに無力化するしかなかったので」
だから言ったのになぁ。
こんなぐろいものを、僕だって小春さんに見せたくなんてない。
「グリーマル、他の人質は?」
「うん。あと2か所、少し離れた部屋にいるよ」
2か所か……『オーバーアクセル』が使えるのはあと2回。
うーん、次の部屋で使って、その次の部屋では温存がいいかもしれない。
なにがあるかわからんからね。
「なら、今と同じように外から攻めた方がいいね」
「そうだね。コハル、お願いできる?」
「う、うん……」
怪人の死体を見て気持ち悪くなったのか、小春さんが青い顔をしている。
しょうがないので、彼女と死体の間に立って視線を遮り、先にトンネルへ戻るように促した。
考えてみれば、邪界獣は元々無機物に邪界魔法で命を与えたものだし、こんな惨殺死体を見る機会はあまりなかったんだろう。
そもそもが小学生の女の子だ。
……これで少しでも『現場』から離れてくれることを期待しよう。




