攻撃すれば数が増えるのだったら攻撃しなければ良いんです
クラハシの丘に向かうアスカ、ヒロヨ、オビトの3人。不定形の浮遊霊や小鬼のほか、川沿いを進んでいるためか河童も時々現れる。
いずれも守護霊使いのアスカやヒロヨの敵ではない。オビトも、メスリの丘で手に入れた陰陽劍を使って妖怪の霊気を斬り付ける。
その3人の前に、厄介な敵が舞って来た。
小さな人型――
本当に小さな人型で、ただの手拳一発で撃退することができる。
厄介なのはその後で、人型は撃退されると分裂し、数を増やしていくのだ。
アスカ
「こんな敵、どうやって戦えば良いの?」
ヒロヨ
「1体1体はそれほど強くないようだけど」
オビト
「攻撃すれば数が増えるのだったら、攻撃しなければ良いんです」
ヒロヨ
「攻撃しないで……どうするのよ?」
オビト
「あの人型、舞うように飛んでいるけれども、あまりスピードはないようです。 それがヒントです」
ヒロヨ
「なるほど、あのゆったりとした動き。 確かにスピードはアイツの弱点ね。 それで、どうするの?」
オビト
「素早さで勝負します。 こっちが出来る限りの速さを使えば、必ずうまくいくと思います」
アスカ
「オビト、アンタまさか……」
オビト
「そうさ、アスカ。 こういう時は、最後の手段で」
ヒロヨ
「オビト、それで、その最後の手段って?」
オビト
アスカ
「あー! やっぱり!」
アスカ、ヒロヨ、オビトの3人は、駆け出した。
全速力で走るものだから、すぐに息が上がる。
オビトが「待って」というから小休止。
そこへ人型が追いついて来た。
ヒロヨ
「追ってきたじゃない!」
アスカ
「休んでられないわね。 もっと走るわよ!」
オビト
「ハァハァ。 僕はちょっと走れない」
人型は、もうすぐそこまで来ている。
空舞う人型が大回転。 その足をドリルのように尖鋭化し、攻撃を仕掛ける。
その攻撃の先は、弱ったオビトではなく、アスカだ。
ヒロヨ
「アスカ! 危ない!」
ヒロヨが守護霊輝ける闘士『太陽の法衣』を召喚、火焔光で攻撃。
人型全滅。一息はついた。
だが、人型の数が、さらに2倍になって再生する。
アスカ
「ちょっとヒロヨ! 攻撃してはダメでしょう!」
ヒロヨ
「何言っているの? ここで攻撃しなければ、アスカがやられていたところよ!」
オビト
「ケンカしている場合じゃないよ! 人型は、攻撃態勢に入っている!」
アスカ
「紅蓮の戦士『不動の解脱者』!」
『不動の解脱者』の手拳ラッシュ。
いったん人型を全滅させるが、またすぐに再生、数を2倍にさせて。
オビト
「おかしい」
アスカ
「今度は何!」
人型のしつこい攻撃に、アスカが苛立つ。
オビト
「アスカばかりが狙われている。 しかも、かなり機械的に」
ヒロヨ
「確かに。 試してみるわ」
ヒロヨが再び『太陽の法衣』を召喚、人型の集団に近づけるが、無視される。
人型、回転を始め、攻撃態勢に入る。その狙う先は、アスカの守護霊、『不動の解脱者』である。
『不動の解脱者』の手拳ラッシュ。
人型、全滅。だがすぐに再生、増殖する。
アスカ
「狙いは……私ではなくて、『不動の解脱者』のようね」
オビト
「そうか! 霊気だ。 この辺りで、もっとも強い霊気を発揮しているのが『不動の解脱者』! この人型、『不動の解脱者』の強い霊気に惹かれて攻撃を仕掛けているんだ!」
ヒロヨ
「どうもそのようね。 そうだとしたら、アスカ! 『不動の解脱者』を動かし続けなさい!」
オビト
「ヒロヨ皇女! それはダメです。 いかに『不動の解脱者』でも、アスカ一人では耐えきれません!」
ヒロヨ
「オビト、アンタって本当バカね! 人型の動きが機械的だったら、これを生み出して様子を見ている術者が近くに居るとは思わないの? そうでなくても、クラハシの丘に眠る主を見つけて、その霊力を借りれば、この場を切り抜けることができるかもしれないじゃない。 アスカには、それまでの間、頑張ってもらうだけよ」
アスカ
「その言葉、信じてもいいのかしら? だったら、ここは私に任せて、アンタたちは先に行ってちょうだい!」
オビト
「ごめん、アスカ!」
ヒロヨとオビトは、クラハシの丘を目指して、さらに奥に進む。
残るアスカは、『不動の解脱者』で人型を攻撃。まだ多少の手拳ラッシュで叩き落せる数だ。人型全滅、そして増殖。
アスカ
「さてさて、あとはいつまで持ちこたえられることやら」