飛ばすからしっかり掴まっていなさい
ライバルキャラが登場しているので、まとめて人物紹介
コウセイ皇子
高円広成のこと。物語ではまだ臣籍降下していないので、身分は皇子。好きなウドンはニシン。ウドンの上に載るニシン旨煮の上品さがたまらない。
ヒロヨ皇女
高円広世のこと。史実では皇子だが、作者の独断で皇女にTS。理由は、その方が面白いから。好きなウドンはカレー南蛮。めんつゆという淡泊な味付けがどうしても許せない。
文武天皇の子である高円広成と高円広世とは、同一人物とするのが多数説のように感じますが、作中では別人物としました。これは、広世を皇女にしたのと同じく、その方が作品を構成しやすいと考えたからです。ご都合主義と言われればそれまでですが、そこはこの話が異世界のものということで、ご容赦ください。
アスカとヒロヨがオビトを連れて、妖怪を斃しながらクラハシの丘古墳に向かう一方、ヒロミ=ドグブリードが、ウィスタプラン家の邸宅にアスカとオビトがいないことに気が付いた(*1)。
侍女に聞いても、どこに居るのか知らないという。家来の一人から、朝の7時頃、2人で南に向かって出ていったという証言を得た。
まさか?
ヒロミは思った。
クラハシの丘古墳の探索は、ヒロヨの兄、コウセイ皇子が詫を入れて中止になった筈。しかしそれは、オビトの目付け役を自認するヒロミを除く罠であり、実際には古墳探索が決行されているのかもしれない。
真相を確かめるため、ヒロミは、コウセイが住むストンリベル家(*2)の邸宅へ行った。
ヒロミ
「コウセイ皇子! コウセイ皇子に伺いたいことがあります!」
コウセイ
「あぁ、ヒロミ君かい? 良いところに来てくれた。 ちょうど今、僕の方からウィスタプラン家に行こうとしていたところだったんだ」
ヒロミ
「どういうこと?」
コウセイ
「朝からヒロヨの姿が見えない。 ひょっとしたら、自分だけでクラハシの丘に向かったかもしれない」
ヒロミ
「そういうことなら、ウィスタプラン家も、オビトの姿が見えないの。 アスカもいないわ。 それに加えて、ストンリベル家ではヒロヨ皇女がいないとなると、これはいよいよ、3人はクラハシの丘に向かったとみるのが正しいようね」
コウセイ
「そいつはまずいな。 クラハシの丘は、昼間から強固に禍々しい霊気に覆われているんだ。 その上、そこに眠る御魂を我が物にしようと、危険な盗掘者も集まっているとも聞く。 迂闊に近づいて良い場所じゃないんだ!」
そしてコウセイは、話も途中で切り上げて、「馬!」と、邸宅中に響き渡るほど大きな声の号令をかけた。
3分もたたないうちに、門前に一頭の馬が引かれて来た。コウセイの愛馬『ヒュウガ号』である。
ヒュウガ号に飛び乗ったコウセイ、手綱を握る。
コウセイ
「僕は今から、妹たちを追いかける。 ヒロミ君、きみは、このことを、家の人に伝えてほしい」
ヒロミ
「待って! 私も行くわ。 オビトとアスカの不始末は、私の不始末でもあるから」
コウセイ
「ダメだ。 クラハシの丘は、本当に危険なんだ。 君のような12歳の女の子が近づいて良い場所じゃない」
ヒロミ
「馬鹿にしないで。 私は、守護霊を使えるのよ。 ひょっとしたら、3人の誰かがケガをしているかもしれない。 私の守護霊、白銅の獣聖『迷い犬』は、回復の特殊能力を持っているから、きっと役に立つわ」
これはどうしたものかと、3秒だけ思案するコウセイ。しかし、ここでヒロミと問答するのも時間の無駄と、馬上からヒロミの手をとって、ストンと彼女を自分の後ろ、ヒュウガ号の背中に乗せた。
コウセイ
「それでは飛ばすから、しっかり掴まっていなさい!」
掴まれと言われても、掴む場所が見当たらない。
とまどうヒロミを気遣うこともなく、コウセイは強くヒュウガ号の腹を蹴る。
乗馬が勢いよく躍動するものだから、こうしないと落馬してしまう。
ヒロミは、背中から、コウセイを強く抱きしめた。
コウセイとヒロミを乗せたヒュウガ号が、全速力で駆け出した。
*1 アスカとオビトは、フヒト=ウィスタプランの屋敷で同居しています。とはいっても、ウィスタプランの邸宅はとても大きいので、同居人というよりも、同じ寮に住んでいる者同士という感覚のようです。
*2 ヒロヨとコウセイは、ストンリベル家で養育されています。母親が、ストンリベル家だからです。この時代の皇族は、皇居ではなく、母親の居宅で養育されるようです。