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オビトも僕と同じ皇子じゃないか

 ヒロヨ皇女は、オビトの異母妹である。彼女には、コウセイ皇子という同母兄がいる。

 この関係を文字で説明すると分かりにくいので、親族関係図を作ろう。

挿絵(By みてみん)

 オビトとコウセイ・ヒロヨとは、同居はなく、兄弟妹というよりも、従兄妹に近い関係だ。

 なにゆえヒロヨがオビトにきつく当たるかと言えば、すでに亡いカール皇帝の後継争いとして、オビトとコウセイとがライバル関係に立つからである。


 そのライバルのオビトが、古代の大王墓とも目されていたメスリ丘古墳(ダンジョン)を攻略したとの噂が立った。そこで、その武勇伝にみそをつけようと、オビトに新たな古墳(ダンジョン)攻略に挑戦してみよと、ヒロヨが挑発した。


 攻略する古墳(ダンジョン)は、キヨミハラ学院の南東、クラハシの丘古墳(ダンジョン)である。この地に古墳(ダンジョン)があるとは以前から知られていたが、周囲に禍々しい気があふれているといわれ、近づく者は少ない。怪異の古墳(ダンジョン)だ。


 オビトがその挑発に乗ったと、その日のうちに、ヒロヨは兄のコウセイに伝えた。


コウセイ

「お前、また、そんなつまらないことをしたのかい?」

ヒロヨ

「だってずるいじゃないですか。 証拠も何もないところで古墳(ダンジョン)を攻略したと吹聴するなんて! オビトたちが嘘をついていることは、明らかです!」

コウセイ

「そうは言うけれども、オビト君たちが『嘘』をついているなんて、そういう証拠はあるのかい?」

ヒロヨ

古墳(ダンジョン)攻略の証拠がないんです! それこそ、オビトたちが『嘘』をついている証拠です!」

コウセイ

「それは、違うな。 オビト君たちを『嘘つき』と言うためには、僕たちのほうで、オビトが古墳(ダンジョン)攻略ができなかったことを立証しなければならない。 でも、そういう証拠もないんだろう? それでオビト君たちを『嘘つき』というのは、言い過ぎではないだろうか」

ヒロヨ

「……」

コウセイ

「それに、クラハシの丘は、大人でも容易に近づくことができない、危険な場所だ。 今回の挑戦は、止めさせた方がよいね」

ヒロヨ

「ダメです。 それでは、お兄様が逃げたことになってしまいます!」

コウセイ

「ははは。 いけないことを取り下げて、傷つけられる名誉はないんだよ。 そうだ、ここは僕が、オビト君に(わび)をいれよう。 よし、そうしよう」





 キヨミハラ学院図書室――


 オビトは一人、読書にふける。書に向かっていれば、誰の声も聞こえない。誰の視線も気にならない。


 その筈だったのだが、この日は珍しく、声をかける者がいた。

 あまり交流はないものの、オビトにとっては異母兄の、コウセイ皇子だ。


コウセイ

「やぁ」

オビト

「?」

コウセイ

「あぁ、いきなり声をかけて、驚かしてしまったね。 いいんだよ。 その本、キリの良いところまで読んでしまってくれたまえ。 それまで僕は、待っているから」


 ここでオビトは、声をかけてきた主が、皇子のコウセイであることに気付いた。


オビト

「あ! 皇子様! 大変失礼しました。 何か、ご用でしょうか?」

コウセイ

「『皇子様』だなんて。 僕たちは、兄弟なんだぜ」

オビト

「それでは、どのようにお呼びすればよろしいでしょうか?」

コウセイ

「あはは。 オビト君は、面白いね。 呼び名なんて、どうでも良いじゃないか。 そうだね、僕の方が年上だから、『兄貴』とか『兄さん』とか、どうかな。 君さえその気なら、『コウセイ』って、呼び捨てにしたって良いんだよ」

オビト

「できません。 そんな、無礼な物の言い方」


 このオビトの返答に、笑をたたえたコウセイの眼が厳しくなる。


コウセイ

「『無礼』だって? オビト君も僕と同じ皇子(おうじ)じゃないか。 同格の皇子(おうじ)同士のやり取りで、『無礼』は問題にならないのではないのかい?」

オビト

「……」

コウセイ

「『無礼』と言えば、それは僕のほうだ。 昨日、妹が、君を肝試しに誘ったようだね。 妹が、君を試すような『無礼』なマネをして、済まなかった。 あれは、無かったことにしてほしい」

オビト

「『無礼』だなんて、そんな――でも、ムリな古墳(ダンジョン)探索をしなくて済むのなら、それはそれで――」

コウセイ

「そうなんだ。 古墳(ダンジョン)があるというクラハシの丘は本当に危険な場所なんだ。 だから、今回の件は見送った方が良いと思う。 それと――」

オビト

「?」

コウセイ

「妹のことなんだが、許してやってほしい。 アレは、寂しい奴なんだ。 僕の方から、よく言ってきかせるから、機会があれば、同じ皇族同士、仲良くしてやってほしい」

オビト

「――あ、はい。 承知いたしました。 それと、あ、ありがとうございます。 気を遣っていただいて」

コウセイ

「そこは『分かった』とか、『ありがとう』とかで十分なところだよ。 じゃぁ、そういうことだから、これからもよろしくね」

 そう言って、優しい顔に戻ったコウセイは、手を振って、その場を立ち去ろうとした。


 何か、言わなくては――


 直感的にそう思ったオビトは、コウセイを引き留める。


コウセイ

「どうしたんだい?」

オビト

「その、僕たち、これまで、朝賀(ちょうが)とかで時々会っている筈ですけれども、今日みたいに話すことは初めてだったから」

コウセイ

「そうだったかい? そう。 そうだったね。 少し、慣れなかったかな?」

オビト

「いや、あの、呼び名のことですけれども、なんだけど、これからは『兄さん』と呼んで良いですか、いいかな?」

コウセイ

「アハハハハ。 オビト君は、本当に面白いね。 良いに決まっているじゃないか。 それから、これからは同じ学院の生徒同士でもあるんだ。 タメ口にも慣れていこうね」

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