人がいる!
『キツネ男』を戦闘不能させたコウセイ、アスカ、ヒロミであったが、今度は多くの妖怪に襲われることになり、先に進めないでいる。
一方、コウセイとヒロミの加勢があったとは知らないヒロヨとオビトは、人型の攻撃を引き受けたアスカを救うため、クラハシの丘の古墳を目指し、森の奥へ入っていく。
ヒロヨ
「輝ける闘士『太陽の法衣』! 火焔光!」
突然現れた小鬼に、ヒロヨの守護霊がすかさず先制攻撃。撃退。
次に現れた浮遊霊は、オビトが陰陽劍で斬り払う。
このあたりは、一方でコウセイたちが相手にしているような戦闘力が高い妖怪はいない。このため、人型のような厄介な妖怪が現れなければ、12歳のヒロヨやオビトでも撃退可能だ。2人は、どんどん奥へ入っていく。
森に漂う悪気は、歩くほどに重くなっていく。
ヒロヨ
「オビト……戻らない?」
オビト
「いや、こっちで間違いないと思う。 この不快な悪気、どんどん重くなっていく。 クラハシの丘の古墳に近づいている証拠だよ」
ヒロヨ
「その悪気、これが重すぎるのが問題なのよ。 私は、耐えきれないわ」
オビト
「もう少しだけ頑張ってみようよ。 アスカだって頑張っているんだよ(注:ヒロヨとオビトは、人型を操る『キツネ男』がコウセイに敗れたことをまだ知らない)。 この辺りは、あの人型をあや操る人の気配がまったくしないよ。 だから、今はこのまま、クラハシの丘の古墳を目指すのが良いと思うんだ」
ヒロヨ
「そうは言っても、クラハシの丘の古墳がどこにあるのか、オビトは分かっているの?」
オビト
「正直言うと、よく分からない。 目指す古墳は、このテラ川沿いではなくて、アカサカ山の方にあるとも言われているんだ。 けれども、そこはこの悪気が手掛かりになると思う。 この悪気は、おそらく古墳の主が発しているものだよ。 だから、この悪気が重くなる方角に向かっていけば、きっと古墳までたどり着くことができる」
最初は古墳探索にオビトを連れ出したヒロヨだったが、今はオビトが先頭を行き、ヒロヨを引っ張っている。
ヒロヨは、悪気にあてられて、士気を著しく落としている。
オビトがヒロヨを連れて行くのは、自信がないからである。
オビトも怖いのだ。
進むごとに、現れる妖怪も戦闘力が強くなっていく感じ。
1人では、とても先に進む勇気を持てない。
ヒロヨ
「人がいる!」
その先に、じっと地面を見る男の姿があった。
漂う悪気に気を滅入らせていたヒロヨは、その男に駆け寄って、助けを求めようとした。
それをオビトが制止する。
その傍らに、守護霊らしきものが立っているのに気付いたためである。
オビト
「あの人、様子が変だ。 危険な盗掘者かもしれない」
ヒロヨ
「盗掘者でも何でも良いわ! 私を助けてくれるならば!」
そう言って、ヒロヨは大きく手を振った。
男が気付いた。
近づいて来た。
ヒロヨ
「ほら、きっといい人よ」
オビト
「いや……」
その表情に優しさは微塵も感じられず、眦を釣り上げた殺気をこめた形相でオビトとヒロヨを睨みあげた。