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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
第四章 運命を決める戦いへ
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第九十六話 近付く決戦

「━━五人。ボスがそう言ったのか?」

「うん。狭き門ですよねぇ」


 ほの暗いベンチで、男二人が腰掛けながらタバコを燻らせる。

 速川の命懸けの行動により再び外に出ることが出来た鋼と、真殿だ。


「間違いなく剱持さんと加集さんは確定として……残りは三人。候補は色々いるだろうけど、鋼さんもその一人だと思うよ」

「そりゃ光栄だね。だが、最終的にどうやって決めるんだろうな?」

「加集さんが面子選びをするらしいね。彼女のお眼鏡に叶うかどうか次第かも」

「フン。気に入らねェんだがなあの女は。自分は特別だと言いたげな雰囲気がよ。……同じ美人ならマドカのがよっぽど━━」


 そこまで言いかけて、鋼と真殿は黙った。


「……惜しい人を亡くしましたね。止められなくてすみません」

「お前が謝ることじゃないだろ。アイツは止めたって止まる女じゃないさ。……だからこそ、気に入ってたんだからよ」

「……えぇ、そうでしたね」


 真殿はタバコを消し、大きく息を吐いた。


「仇を討つとか、そういうのって考えてます?」

「考えてねぇ。……って言えば嘘になる。だが、マドカがそんなことを望むか?」

「……望まないでしょうね。そんな無駄なことする暇があったら仕事しろ、だとかなんとか言いそうです」

「ハハ! 違いねェや。しかも相手はあの()()だ。自然災害みたいなもんだからな、個人が挑んだってどうにかなるような相手じゃねぇ。ヤツに勝てるなんてほざくほど、俺も自惚れちゃいねぇさ」


 と、口では言うものの……鋼は何処か悔しそうな顔を浮かべていた。

 真殿はそれに気付いていたが、見て見ぬふりをした。


「……候補の話だがよ。()()()()じゃねェか? あれを一人って数えて良いもんかはわからねェが」

「………………あ。そうか。それもアリなのか。何故か無意識にアイツはナシだと思ってました」

「純粋に強さを求めるなら外せないと思うぜ。加集のヤツなら絶対に選ぶはずだ」


 たしかに、と真殿は複雑そうな表情を浮かべていた。


「『ドライ』、かぁ。僕が手術しといて何だけど、アイツは不気味で好きじゃないんだよなァ……」

「キメラ共は全員不気味だろ?」

「それでもまだ可愛げがありましたよ。生身のロボットみたいなもんで、ちゃんと言葉を理解してこちらの指示だけに従いましたから。……でも、ドライは……」


「あまりにも、()()()()()。会話を理解するだけでなくまともな対話が可能な上、指示を出してもドライが気に入らない指示だと平気で無視します。普通の人間と全く同じ外見と行動パターンを持ちながら、身体の中はキメラだ。アンバランスすぎて、我ながら気持ち悪いですよ……」

「だとしても、だろ。戦力になるんならなんでもいいさ」

「そうですけども……」


 何だかなぁ、と真殿は苦笑いを浮かべた。


 ※


「━━さぁて、誰を選びましょうか」


 タブレットを操作しながら、加集は微笑む。傍らには、剱持が立っていた。


「……私とお前は確定なのだろう? つまりはあと三人か」

「そうですね。組織の能力者は粒揃い、誰を選ぼうと榊様の勝利は揺るがないでしょうが……相手も同じゼロ。適当に選ぶわけにはいけませんね」

「ゼロ……か。蒼貞とも、戦うのだな」


 剱持は刀の柄を触りながら、微笑む。何かを懐かしむような表情だ。


「……()()が気になりますか?」

「そうだな、否定はしない。だが、元仲間だから躊躇するという意味ではない。むしろ逆だ」


 刃を抜き、真っ直ぐに構える。


「やっと……やっとアイツと戦える。進化しても届かなかった奴の高みに、たどり着いた。楽しみだよ、加集」

「……おやおや。子供みたいに目を輝かせちゃって」


 くすくすと笑いながら、加集は窓越しに外を見た。


「あの二人は、誰を選ぶんでしょうねぇ」


 ※


「……その話、本当ですか蒼貞さん。剱持さんが組織にいるって……」

「あァ。残念ながらな」


 氷堂は、驚きを隠せずにいた。

 蒼貞が氷堂、遠阪に話した内容は……元仲間の剱持の所在の話だ。

 監獄を襲撃した際、強者を何人も切り捨てた侍。元仲間ならば嫌でも剱持とわかる手際だった。


「何やってるんだあの人は。確かに戦うのが大好きな人でしたけど、好き好んで人を殺すような人じゃ無かったでしょうよ」

「そうだな遠阪。でも、あくまでオレ達から見て……だろ。本心がどうだったかなんてアイツにしか分からねぇよ」


 それはそうですが、と遠阪は言葉を濁す。

 そこに、黙り込んでいた氷堂が口を開いた。


「聖戦、でしたか。そこに剱持さんが現れる可能性もあるってことですよね」

「そうだな。榊の野郎が組織から五人を選ぶなら間違いなく剱持を選ぶだろう。アイツより強い奴が五人以上いるとは流石に思いたくねぇしな」

「……もし、そうなら」


 氷堂は怒りを顕にしながら、手を強く握りしめる。


「剱持さんは、私が殺します」

「お前……」


 普段では考えられないほど、感情を出す氷堂。

 宥めようと思う蒼貞ではあったが、内情を知っているからこそ、口を閉じた。


「ちょっと待ちなよ理央ちゃん。一人で戦うっての? 剱持さんは強いよ?」

「関係ありませんよ。私達を裏切って殺戮を行ったって言うんなら……容赦はしません」


 氷堂の怒りに気圧され、遠阪も黙ってしまう。


「……だったら、もっと鍛えてやるさ。聖戦まではまだ時間がある。オレが与えた力をちゃんと使いこなして、あのバカをぶん殴ってやりな」

「はい!」


 氷堂は、力強く頷いた。





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