第九十四話 終結
私達は、全てを包み隠さず話した。
全てが事実でありながら、到底信じられない話を。
超能力、感染者、世界の滅び……ありきたりなSF小説のよう。
総理に話せる内容の殆どが、証明出来ない未来の話だ。
唯一信じて貰えそうなのは能力のことくらいか。
全てを聞いた総理は、どう出るのだろう。
「━━という訳です。信じて貰え無いでしょうが……全て事実です。嘘を付くためだけにここまで来る道理もありません」
「…………なる、ほど」
言葉につまる、総理。
顔には出ないが、困惑していた。
時間にして三分ほど、総理は黙っていた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「信じられない、信用出来ない、嘘の話だ……と一蹴するのは簡単だろうな。だが、本当の話なのだろう? 君が言ったように、下らない嘘を付くためにわざわざ警備を突破しここまで来るのは有り得ない。それに、その異能もだ。こうも見せられては、否定のしようがない」
「それでは、信じて貰えるんですね?」
「ああ。だが、今すぐ準備を整えるのは難しい。あらゆる方面に手を回さなくてはならないし、情報の制限を怠れば世の中がパニックになる。物理的に時間も掛かる上に、この話に関わる人間が増えれば増えるほど秘密を守りながらコトを進めるのは不可能になるだろうな」
「それは……」
その通りだった。
話のスケールの大きさからして、この話に関わる人間の数は途方もない人数になるだろう。人数が増えれば増えるほど情報の制限の難易度ははね上がる。
それに、いざ準備を済ませて感染者の対策を始めれば……実害が起きたときにどれだけ世間を騙せるのか。私達五人のように見た目がただの人間ならまだしも、見た目を変化させる能力などを持つ感染者がいた場合……嫌でも目につく。
動画サイトやSNSで拡散されれば爆発的に情報が広まってしまうな。
「━━その辺りは、私たちがなんとかしますよ」
突然。総理の背後にヨシュアが現れた。音も気配も一切なかった。
「……何者だ?」
「この五人に力を授けた存在、とだけ。人間ではないですから身元とか聞いても無駄ですよ」
「……はぁ、頭が痛くなる事ばかり起きる日だ。それで? なんとかするとは?」
もうどうにでもなれと言わんばかりに総理は笑った。
では、と前置きをしヨシュアは話を始めた。
「私達の力を使い、世間をほんのちょっと弄ります。良い風に話が転ぶように、ね」
「印象操作をすると言うのか?」
「そうですね。流れを作る……とでも言いましょうか。私達は大きくこの世界に関わることは出来ませんが、少しだけならお手伝いできます。感染者によるよほど大きな事件でも起きない限り、数週間から数ヶ月で話題にならなくなるようにすることは可能ですよ」
「おいおい……人間を洗脳でもするつもりじゃないよな?」
「いやぁ違いますよ蒼貞さん。あくまでそういう流れを作るだけです」
とヨシュアは話す。それが本当にできるなら有難い。大きな事件を起こさないように気を付けることはできても、能力による軽犯罪などはいくらなんでも全部は防げないだろうからな。その度に世間を騒がせていたらどうしようもなくなる所だ。
「分かった。具体的に何をするのかは聞いたところで理解できないだろうからな。では、君たちが行動する為の下地作りはこちらに任せてもらおう」
「……その、今更ですが宜しいのですか? 確かにこちらは真実しか話してはいませんが、こんなにトントン拍子に話を進めてしまって……」
「あぁ。我々は今日会ったばかりだし、こちらに至っては襲撃を受けた側だ。それでも信じてみようと思う。この国を守るために、危険は排除しなくてはな」
総理は、曇りのない眼で私を見詰めた。
異例の若さでトップに登り詰めた怪物、國枝大和。
この異常な程の胆力も、彼の持つ強さなのだろう。
「さて、では失礼して……よっ、と!」
話が終わったタイミングで、ヨシュアは指を鳴らす。小気味の良い音が辺りに響いたと思うと、一瞬空間全体が激しく振動した。
「ヨシュア? 今何を……」
「戦闘の跡を元通りにしました。焔さん達が攻め入る前の状態に、ね。これはちょっとしたサービスです」
「……無茶苦茶だな、助かるよ。……いやお礼を言うのも可笑しいか」
やれやれ、と総理は苦笑いを溢した。




