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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
第三章 キメラ編
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第八十話 敗色濃厚

 伊達(だて) 一閃(いっせん)

 彼は優秀だ。優秀であるが故、元々所属していた支部では浮いてしまっていた。理由はただ一つ。

 強すぎたのだ。


 彼はあらゆる戦闘において、仲間を必要としなかった。こと戦闘において万能に近い能力を持ち、格闘技の経験者であることから実戦経験も豊富。

 元々鍛えていた肉体が感染により更に強化され、向かうところ敵なし。

 そして彼は支部を抜け、監獄の警備に当たることになった。これも理由は単純である。


 監獄の警備ならば、好き勝手出来るからである。

 向かってくる敵を力任せにブッ飛ばすだけ。考えることが得意ではない伊達からすれば天職だ。

 何より、好き勝手しても怒られない……警備の仕事さえ守っていれば。


 そんな男が今、()()()()()()()()()暴れ回る。


「━━ハッハァ!!!」


 伊達の拳が、組織の兵士の顔面に直撃する。素人から見ればたった一発の拳だが、実際は()()もの拳を当てていた。兵士は為す術もなく吹き飛ぶ。

 伊達の能力━━『高速機動(ワン・アクション)』。身体のあらゆる動きを高速で行えるだけのシンプルな能力。例え世界最速の反射神経を持つ人間が相手であろうとも、伊達ならば回避行動すら取らせないだろう。進化による能力向上及び、呼吸を止めている間は更に速くなり、もはや何が相手でも速さにおいて遅れを取ることは決して無い。


「どしたどしたァ! 気合いが足りねぇぞ組織とやら! もっと掛かってこねぇかッ!」


 大口を開けて笑う伊達。たった一人でも強者、兵士は何人もやられてしまった。

 そこに、ツヴァイの分身が近付いた。


「……む?」


 流石の伊達も、感じ取った。このキメラは厄介だと。反田の首が一度吹き飛ばされたことも含めて、伊達の警戒心は高まった。


「━━伊達! 分かってるよね」

「応。危なくなったら頼むぜ、リコ」


 伊達の少し後ろには時枝が立っていた。彼女は戦闘を得意としないが、規格外の能力を持っている。


今の無し(ファイブ・セカンド)』。

 懐中時計を揺らすことにより、()()()()()()()()()能力である。

 反田が一度死んだのに生き返ったのはそれが理由だ。首が吹き飛ばされたあの瞬間、反田の時間を五秒戻すことにより首が吹き飛ばされる前の反田へと戻したのだ。

 記憶は時間を戻しても残ったままである。


 伊達が攻め、反田が守り、時枝が全体のフォローをする。連携と呼ぶには大雑把なトリオだが、不思議と噛み合っていた。それぞれが自由に動いているのに関わらず、だ。


「分かってるなら良い。━━死ぬ気で倒せ、伊達!」

「任せろッ!!」


 伊達は雄叫びを上げた。高速の獣が、動き回る。

 それを尻目に、反田は火室と対峙していた。


「くっ……!」


 火室の火球は、反田に掠る所か近付くことすら出来ない。反田の操る鏡のような六枚の板が……攻撃を悉く跳ね返しているからだ。


「飛び道具しか攻撃手段が無いのなら……諦めろ。お前の炎はこちらには届かない」

「へっ、だったらよぉ……!」


 が、一瞬の隙を突いて一人の組織の兵士が反田の背後に近付いた。


「至近距離ならどうだ!」


 兵士は剣を突き立て、反田の頭へと迫る。が、高速で近付いてきた鏡の様な板が剣の前へと現れ、切っ先が鏡の中へと吸い込まれる。


「……一つ、言い忘れていたな」


 反田はパチン、と指を鳴らした。


「飛び道具じゃなくとも無駄だった」


 瞬間、鏡から剣の切っ先が飛び出し


「ぐげっ!?」


 兵士の顔面を貫いた。鮮血を溢しながら兵士は倒れる。


「……その鏡に触れたあらゆる攻撃を反射する……ってか?」

「ま、概ねその通りだ。隠すつもりも無いしな」


 反田の能力、『六つ鏡(ミラーハウス)』。

 鏡に写ったあらゆる攻撃は、同じ威力で跳ね返される。例え焔の紅蓮朱雀であろうとも例外ではない。

 それが六枚あり、反田は全てを同時に操れる。


 三人の中で、鉄壁の防御力を誇っていた。


「……クソ、時間稼ぎも怪しいぞ……速川……!」


 ※


「━━ハァッ!!」


 速川はナイフを数本投げ、その後に手を前へ翳す。


「『空間旅行(テレポーテーション)』!」


 するとナイフは空中で消え去り、一瞬にして黒川の四方から出現した。投げられた時の威力を保ったまま黒川へと迫る。


「……フン」


 が、黒川は自身の影を操り、ナイフを一つ残らず()した。ナイフは真っ黒に変色し朽ちて消える。


「……物体の瞬間移動……データには無かったみたいだが……進化でもしたか……?」

「さぁ? 少なくとも今のはただの応用よ。元々服ごと瞬間移動出来るんだもの、もしかしたら出来るかもってね」


 速川は懐からナイフを構え、ゆらゆらと揺らす。

 平静を保っているが……それで精一杯だ。黒川の操る影をどうにかしないと勝ち目は無いからだ。


「ツヴァイ! 距離を取って攻撃! 私には当てないでよ!」

「了解しました」


 ツヴァイは分身し、素早く伸びる腕で黒川へと攻撃を繰り出す。監獄の外で反田の首を落とした一撃よりも速い。普通ならば反応すら出来ない速さだ。だが


「……」


 黒川は反応する必要すら無い。周りに張り巡らせた影が攻撃の全てを殺し、本人はその場を少しも動かなかった。

 速川は舌打ちをし、ナイフを真上へとテレポートさせ頭上から刺そうと目論む。


「くだらんな……」


 気だるそうに黒川は黒の剣を構え、頭上のナイフを殺す。


 ━━黒の力。あらゆるものを殺す能力。

 物だろうと生物だろうと関係ない。黒川が殺すつもりで攻撃を加えたものは容赦なく死ぬ。


「はぁ……嫌になるわね」


 ━━出来るもんなら逃げ出したいわね。と速川は思う。

 だが、思うだけだ。速川は冷静な頭とは裏腹に、気持ちは昂っていた。


「……やる気がないなら出ていけ……時間の無駄だ……さもなくば……」


 黒川は髪の毛を掻き上げ、鋭い目で速川を睨む。


「死ねよ」


 瞬間、黒川は一歩で速川の目の前まで近付いた。


「っ!!」


 凄まじい速さで黒剣を振り、速川はギリギリで能力を発動させ距離を取った。

 速川は大粒の汗をかく。


「逃げ足は速いってか。ますます下らねぇな。私に勝つ気はあるのか? ただ死にたいだけか? あァ?」


 黒川はイラつきながら黒剣を速川に向ける。

 速川は荒い呼吸を整え、笑う、


「勝つ気ですって? ないわよ、そんなの。私は作田を殺して監獄を解放したいだけ」

「一緒だろうが。お前がここに現れた時点で作田を殺す事は不可能だ。作田の部屋そのものにテレポート出来ないのはなんかしら条件があってそれを満たせないからだろ? なら、お前は私を倒してこの扉をどうにかするしかないんだよ」

「……フン、どうかしらね」


 速川は再び構える。


 そう、速川の勝ち目は皆無だ。例えツヴァイがいたとしても限りなく勝率は低い。


 それでも。速川は引くつもりは無かった。

 もう一度、会いたい奴がいるから。

遅れました

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