第七十九話 守る者、攻める者
「状況はどうなってる?」
廊下をずかずかと歩く中年の男と、その側には若い白衣の男が付き添う。
「例の組織がここを襲ってきたみたいです。外の警備兵からの連絡だと、数は二十を越えるかと」
「……ちっ。ただの愉快犯じゃ無いみてぇだな。全員能力持ちだろ?」
「そこまでは分かりませんが、恐らくそうでしょうね。それと、そこに混ざって例のキメラも数体紛れているそうです」
「厄介な……支部に応援を要請したか?」
「それが……都心部の暴動により人員を割くのが難しいらしく……」
「くっ、奴らめ、このタイミングを狙ってやがったのか? ならば、ここの人間だけで対応せねばなるまい。警備兵は外に出て迎撃するように伝えろ。相手の生死は問わない、ともな」
白衣の男は頷き、何処かへ走っていく。
中年の男はモニター室へと着き、大量のモニターを見ながら溜め息を付いた。
「……頼むぞ、警備兵。ここを突破されることはあってはならない」
※
「オラぁ! こんなもんかよ!!」
火室は手から小さな火球を発射し、警備兵の胴体に当てる。
火球は胴体に張り付き、バチバチと花火のように小さく弾ける。
「弾けろ、『花火球』!!」
火室が指を弾くと、火球は大爆発を起こし警備兵の体を粉々に吹き飛ばした。
「くっ、あいつ……火室か! 数年前、世間を騒がせた放火魔だ!」
警備兵はざわざわと不安そうに話す。
『火室 花火』。
通称『クラッカー』と呼ばれた連続放火魔。爆発を伴う火災を何十件も起こし、警察に捕まっていたが……牢屋にて能力に目覚め、そのまま脱獄した凶悪犯。
今は組織のメンバーとなりその力を遺憾無く発揮していた。
「耐えろ! あの三人が来れば俺達は……!」
「おう、呼んだか?」
警備兵の後ろから、三人の男女が現れる。
監獄に在住している進化者の感染者である。
「ひーふーみー……沢山だな! こんなに大御所で来るとは珍しい」
ワハハ、と陽気に笑う長身で赤髪のウルフカットの男。名前は『伊達 一閃』。警備兵におけるスリートップの一人だ。
「笑ってる場合じゃないでしょ。ここ突破されたら不味いよ?」
その横には陽気な伊達を見て呆れる、パンクファッションに身を包んだ黒とピンクのツートンカラーでボブカットの女がいた。
名前は『時枝 リコ』。同じくスリートップ。
「下らん。数がいたところで所詮は烏合の衆だろう」
更に横には組織のメンバーを見て嘲笑し、見下している男もいた。上下黒のジャージのラフな格好で、栗色の短髪だ。
名前は『反田 六郎』。
またしてもスリートップの一人だ。
「……へっ、出やがったか。スリートップさんよぉ!」
「フン、放火魔クラッカーか。クズが何しに来た?」
反田は火室を不愉快そうに睨む。
火室はニタニタと笑い、能力の火球を辺りに漂わせる。
「当然、ここをぶち壊しに来たのよ! お前ら全員ぶっ殺してなぁ?」
火室はそのまま火球をスリートップ全員に放つ。が
「おっ?」
伊達は目にも止まらぬスピードでそれを避け
「……はぁ」
時枝は懐中時計を揺らした後、まるで未来が見えているかのように余裕を持って火球を避け
「つまらん」
反田は前に手をかざし、目の前に出現した透明な壁で火球を火室へと跳ね返した。
「っ!?」
火球が跳ね返ってきたことに驚き、火室は後ろへと下がりそれを避けた。
「……なるほど、厄介な相手だな?」
「分かったら帰るか死ね。手を煩わせるな」
やれやれ、と反田は鼻を鳴らす。それでも、火室の顔から笑顔は抜けない。
「残念ながら……本命は俺じゃないんだよなぁ」
「負け惜しみか? さっさと消えろと言っ━━」
瞬間。白い鞭のような何かが火室の背後から反田へと放たれ、反田の首が吹き飛んだ。吹き飛んだ頭は何回か跳ね、やがて地面を転がった。
「ヒャッハハハハ!!! バカが、油断してるからだよボケぇ!!」
「━━ええ、本当にね。『今の無し』」
火室の笑い声が響くと同時に、時枝は再び懐中時計を揺らす。すると
「な!?」
明らかに首を吹き飛ばされたはずの反田が元に戻っており、火室は驚く。
反田も自分の首を触りながら驚いてるようだが、しばらくしてから時枝に頭を下げた。
「……すまん」
「油断禁物、だよ」
先程、反田の首は確かにツヴァイの腕により吹き飛んだ。だが、それを時枝の能力で元に戻したのだ。
「……良くわかんねぇが、なるほど。これは楽な仕事じゃねぇなぁ?」
火室は笑う。追い詰められた時こそ、火室は楽しそうに笑うのだ。犯罪者の心理など、誰にも理解されないが。
※
「っと!」
速川はとあるマンションの屋上へとテレポートし、ツヴァイと共に降り立つ。
ここに、標的がいる。
「しっかし監獄の地下といい作田の居場所といい、組織が総出で探しても見付からなかった場所をボスはどうして知っていたんだろう……」
監獄の最も手薄な入口は地下だ。だが、その地下へと向かう入口が関係者以外誰もわからなかった。その関係者とやらも一体誰なのか不明であり、組織としては監獄への襲撃は半ば諦めていた。
しかしこの襲撃の前日、組織のボスは真殿の前に現れ監獄の地下入口の場所及び作田の居場所を教えて再び姿を消したという。
「ま、手段はどうでもいいか。私達はこのチャンスを生かすだけよね」
再び速川はツヴァイと共にテレポートし、今度はとあるドアの前へと出現する。ドア以外は核シェルターの様な壁と、無機質な空間のみ。
「これが……」
マンションの地下深くにあるこのドアは、厳重な警備のもと強固に守られ、ここに正規の手段で入れるのは作田が許可したほんの数人。それも速川が聞いた話によるとゼロの面々と本部長ぐらいだという。
そんな場所に、速川はいとも簡単に侵入した。
本人すら知らないまま、作田は最大のピンチを迎えていた。
しかし。
「…………簡単には、いかないよね」
速川は、色濃い死の気配を感じとる。
速川達がドアに触れる前に、ひとりでにゆっくりとドアが開いたからだ。
中から長身の黒装束の男性がぬぅ、と現れる。
男は髪を掻き上げ、笑う。
「執行人、『黒川 終次』。友の為に力を奮おう」
影から刀を作り出し、構える。
最強と名高いゼロの一人、黒川。今現在、作田を守れる存在は彼一人。
勿論、充分な戦力ではあるが。
「名乗りなんて柄じゃないけど……やってやるわよ。組織、ワンド部隊の副リーダー『速川 瞬』! 悪いけど、通して貰うよ!!」
速川はナイフを構え、ツヴァイと共に構える。
速川の脳裏には、とある男の顔。
相棒だった男の顔が、浮かんでいた。




