第七十八話 魔の手
「揃ったわね」
数百メートル先に無機質な建物が見えている、ビルの屋上でメンバーの確認をする。
近接戦闘を得意とする『ソード』部隊が十人。
特殊な能力を持つ『ワンド』部隊が私を含めて五人。
暗殺を得意とする『ダガー』部隊が五人。
そして、新型キメラの『ツヴァイ』。女性的な見た目ではあるけど、どこかロボットの様だわ。不気味だし、正直一緒にいたくはないけど……命令を下す権限を一時的に預かっちゃったしね。
それに、今からの作戦には絶対に必要だ。
「皆、作戦は聞いてると思うけど……これから三チームに別れて行動するよ」
スマホを操作し、全員に位置情報を送った。
一つは、とあるマンションの位置。
一つは、感染者監獄のある場所。見えている建物がそれだ。
一つは、牢獄から近いが別の場所だ。
「三方向に別れるけど、目的は一つ。捕らえられた仲間の奪還だ。とはいえ、バカ正直に牢獄に突っ込んでも勝ち目は薄い。……というより、一番守りが固いだろうしね」
感染者牢獄について分かっていること。それは、支部とは比較にならない程の強固さだ。
本部所属の『作田 世々子』という女が持つ『仮想世界』という能力のせいだ。
作田の能力は空間能力。好きなところに空間を作り、ゲームの空間を作りルールを組み込めるという規格外の力だ。牢獄に付けられたルールは能力発動不可。つまり、外から攻撃した所で意味がない。私の能力で侵入も不可能だろう。というか、見たことある場所じゃないとそもそも行けないんだけどさ。
更に、事前に調査した所……牢獄の中には緊急時に外に出てくる特別な能力者が何人かいる。殆どが平凡な能力者だが、その内三人が進化者だという。並の兵士では歯が立たないだろうね。
「牢獄に外から向かう部隊は、時間稼ぎの役目だ。当然、倒せるなら倒したほうが良いけど……倒せたところで侵入するのは難しいだろうからね」
「残り二つのルートは、それぞれ少数人で行きたい。マンションへは私とツヴァイの本体が向かう。もう一つのルート……牢獄へ地下から侵入するルートはダガーの皆が向かってほしい。残りのソード、ワンドは牢獄周りでうんと騒ぎを大きくしてくれ。状況が悪くなったら撤退しても良いけど、さっき言った通りなるべく時間を稼いでほしい」
全体に作戦の概要を伝え、一息つく。
メンバーを分け、それぞれのルートのリーダーを呼ぶ。スキンヘッドでライダースーツに身を包んだ男と、金髪で黒いマスクをした眼帯の女が寄ってくる。
「牢獄周りのチームの指揮は『火室』に、地下のチームは『下田』ちゃんに任せた。頼んだよ、二人とも」
「任せろ!」
「そちらも気を付けてください」
「うん、ありがとう。━━ツヴァイ! 五体頼むよ」
「はい、速川様」
作戦開始と同時に、ツヴァイは能力を発動する。
ツヴァイの体が二つに分裂し、更に分裂を繰り返して六体のツヴァイが出現する。
ツヴァイの能力は『分裂』『高速移動』、そして身体に備わった圧倒的なパワーと再生力。アインよりも性能は上だ。
五体の分身は火室に託し、私はツヴァイの身体に触れてスマホの写真を見る。それは、とある扉の前の写真だ。
「じゃあ、後で! 作戦開始!!」
号令と共に、テレポートを発動する。
━━私の目的は……作田本人の、殺害だ。
※
「……また、負けた」
ほの暗い空間で、黒川はゲームのコントローラーを机に置く。隣には、ピンクの髪色をしたボサボサ髪の少女がけらけらと笑っていた。
「ヒヒ、弱いねェ~黒川ちゃん。これで何回負けてるのサ」
「……十四回か?」
「惜しい、十五回だね。実際に戦ったらメチャ強いのに、ゲームは下手だよねェ」
「これでも上手くなった方だ……世々子のおかげでな……」
「ヒ、ヒヒ。照れること言わないでよォ」
作田は恥ずかしそうに髪をくるくると指で弄る。
━━作田と黒川、この二人の関係は護衛対象と護衛だ。作田の能力は超貴重、能力者を閉じ込める施設は今のところ作田の協力を得ないと実現しない。それ故に作田は並の能力者よりも一層頑丈に守られている。
そしてその守りを一任された能力者が、黒川だ。唯一作田の部屋に入ることを許された存在であり、作田が最も信頼を置く護衛である。
「……能力に、支障はないか?」
「んー? 無いよォ。全国に二十ヶ所以上作ったあたしの空間は一つも壊されて無い。ま、当然だけどネ」
「良い……事だ。……お前の能力は私達五人に匹敵するからな……」
「五人? ……あぁ、焔さんとか蒼貞さんとかかァ。光栄だね、ヒヒ」
二人は独特な会話をしがちではあるが、仲が良かった。
ゲームオタクでありクリエイターでもある作田は、引っ込み思案な性格ではあるが同じように会話下手の黒川とは話しやすく、波長が合っており
黒川にとって作田は、護衛対象というだけではなく退屈を埋めてくれる友達だ。作田が教えてくれるゲームはそのどれもが黒川にとっては新鮮であり、楽しかったのだ。
「さ、もう一戦やるかい?」
「あぁ……次は負けん」
「ヒヒ、十六回目の負けにしたげるヨ!」
━━そんな二人に、魔の手が迫る。
危ないのは、果たしてどちらなのか。
お待たせしました。




