第七十五話 都心部での戦い
「良かった、真達は無事らしい」
アキラの背中に乗りながら、真からの連絡を見て安堵する。
無事に勝てたんだな、流石だ。ただ、無傷とはいかなかったようだ。
「そうか……! あいつらはきっちり仕事をした。次は俺達の番だな?」
「フフ、そうだねジンタロー。負けないさ」
二人の士気も上がり、良い感じだ。ここから先は俺達がなんとかする。だから真達はしっかり休んでくれよな。
しばらく走ること数分、ふわりと物が焼ける匂いが鼻に付いた。……着いたか。
「こりゃあ……俺達の支部の時よりも……!」
アキラの背から降り、梶さんは前方を見渡して驚いた。無理もない。まるで地獄の様な光景が広がっていたからだ。
倒壊した家屋やビルの残骸、一般人こそ少ないが確かに残る血の跡。暴れまわる大量のキメラと、応戦する他の支部メンバーらしき人達。
まるで戦場そのもの。どちらかが滅ぶまで止まらないとでも言いたげな酷さだ。
「固まって動くぞ。相手はキメラ、ばらつくのは分が悪い」
「はい!」
「りょーかい!」
梶さんの指示に従い、街中へと走る。アキラは体力温存の為に狼化を解除し人狼へと変わる。
長い戦いになるかもしれない。俺も進化能力はいざという時まで温存だな。
「━━第五支部、元着した! 加勢するぞ!」
梶さんは大声で仲間へと伝え、武器を構えて一番近くのキメラへと寄る。そのすぐ後をアキラが追った。
前衛は梶さんとアキラに任せ、俺は少し下がって能力の準備をする。
「グォォォォアッ!!」
こちらに反応し、巨大な拳を振り下ろすキメラ。二人は左右に飛び、お互いが足へと狙いを定め
「オラァ!」
「ハッ!」
同時に足を削ってキメラの体勢を崩す。仰向けに倒れたキメラを確認し、俺は能力の手を重ねた。
「『襲落両拳』!!」
重なった手はそのまま振り下ろされ、キメラの腹を地面ごと打ち抜いた。能力の手を重ねれば威力が上がるのは実験で試した。キメラは予想通りに砕けて絶命する。
これなら、効率よくキメラを倒せるな。
「まず一匹! だが油断すんなよ! いつも通りの動きを崩すな!」
「はい、梶さん!」
勢いを保ったまま、その場から近くにいるキメラへ近寄ろうと走る。
が、そこに一人の影が差し込んだ。
「━━はい、そこ邪魔ァ!」
「なっ!?」
迷彩柄のつなぎ服に身を包んだ小柄な女性が割り込み、懐からエアガンらしきアサルトライフルを取り出すと
「『物騒な玩具箱』!」
そのエアガンで、キメラの体を撃ち抜いた。エアガンが実銃に変化した? というか、実銃だとしてもなんて威力だよ!?
「っちゃー、硬いねぇ。ウチの能力でも瞬殺は無理かぁ」
キャップ帽を深く被り、手元のエアガンを腰に戻す女。
誰だ? この人は。敵ではなさそうだが。
「……アンタ、聞いたことあるな。エアガンを実銃に変化させ、なおかつ実銃以上の威力を持たせることが出来る能力を持つ進化者。名前は確か━━」
梶さんが話し掛けた事に気が付き、女性は振り向いてニッと笑った。
「第十支部長、美浜 伊久佐! イクサって呼んでくれよ。気にいってんだーこの名前。てかウチって結構有名なんだな? へへっ」
迷彩柄に身を包んでいるところ以外はまるで少女のような人だ。しかし支部長とはな……おまけに進化している能力者なんてな。
「こっちは第五支部の梶だ。後ろの二人はアキラとレイラだ。よろしく頼むぜ」
「おう、よろしく! アンタらもここに派遣されたんだな?」
「ああ。なにしろ都心、おまけにこの数のキメラだ。人手は多いに越したことは無いだろ?」
「そりゃそうだ。第五って言えば焔さんがいる支部だな? 強いんだろ? 一度手合わせしてみてぇなー」
……こんな状況でありながら、明るい人だ。
少し状況を話し合っていると、梶さんが異変に気付く。
「……ところでアンタ、支部の仲間は? 見たとこ一人のようだが」
「あー……アハハ。ウチの支部はさぁ、戦闘員がウチ一人だけなんよ。全く戦えないって訳じゃないけど、キメラ相手は厳しいだろうから置いてきた」
「置いてきた!? あっちが襲われたらどうすんだよ?」
「言ったろ、戦えない訳じゃないってさ。それに火力不足はウチの武器を貸すことで補ってるよ。なんとかするだろ多分」
「た、多分……豪快な支部長だな……」
梶さんは呆れて笑ってしまっていた。青貞さんを思い出す適当さだなこの人は。
「……てワケでさ、良かったら組まない? 一人で戦うのは慣れてるけど、流石にこの数は骨が折れそうだ」
「構わねぇよ。二人とも良いよな?」
「いいよ。よろしくねイクササン」
「俺も構いませんよ」
「決まりだね。よろしくー第五支部! 火力勝負なら任せな!」
ニコニコと笑うイクサさん。頼もしい味方だ、不安だった心が少しだけ安らいだ。
※
「━━まじか、焔さんは一人で支部に残ったんか?」
それから数分後キメラを倒しながらここへ来た経緯を話し、イクサさんは驚いていた。
「ああ。正確には補佐役の一色って奴と合わせて二人だな。ま、あっちの心配はしてねーよ」
と、梶さんは答えた。確かにな、焔さんが誰かに負けるというイメージがどうしても湧かない。異次元の強さだからな。
「なら、こっちに専念だな。……第五が来るより先にウチはここで戦ってるけどよ、キメラの数は多く、敵対する兵士の質も悪くねぇ。まだまだウチの敵じゃあ無いが、結構キツイ戦いになるかもだぜ」
「承知の上さ。わざわざ本部のあるここに攻め込んできたのはよっぽど戦力に自信があるからだろうしな。おまけにここは『感染者監獄』がある。そこを襲撃して更なる戦力を得ようとしている可能性もありやがる」
「あー……そいつぁ厄介だな」
二人は険しい表情になる。感染者監獄、か。犯罪を犯した感染者が放り込まれる牢だな。
能力を発動出来ないように空間能力にて封じられ、今後に生かすための身体実験も兼ねた場所らしい。危険な実験を行っているワケでは無いらしいが、凶悪な犯罪者まみれの場所だ。そこが襲われて犯罪者が野に放たれるのは危険すぎる。
「でもよ、こっちの戦力だってそう易々と突破出来るメンツじゃないさ。ほれ、あそこ見てみな」
と、イクサさんは左方を指差す。
そこには銀色の鉄のような何かを操り、複数体のキメラを圧倒している銀髪で背の高い男がいた。
「あの銀髪、まさか?」
「あぁ。第十七支部長、鉄草 銀華。鉄を手足のように操る能力、『流動鉄』を持つ進化者だな」
二人の反応を見るに、あの男も有名らしい。またしても進化者か、知らないだけで実力者は多いんだな。
鉄草はこちらをちらりと見やるが、すぐ興味を無くしたように部下らしい人達と共に他のキメラへと走り出していった。
「さっき話し掛けたけど、無愛想なイケメンだったよ。親しい仲間以外とはあんまり連携しそうなタイプじゃないね」
「ま、強い味方ってだけでもありがたいさ」
やれやれ、と肩を竦める梶さん。
この調子なら、他の支部も実力者揃いだろうな。負けていられないぞ。




