第七十四話 突貫
「くっ!」
渾身の突きを放つが、槍は男沢の皮膚すら傷付けることは出来ない。硬い、というよりダメージが入ってない感じだ。
「……何千回何万回やろうと、俺を倒すことなど出来はしない。諦めろ」
やれやれ、と首を竦めながら男沢は笑う。
……そんな筈が無いだろう。能力者に弱点は必ずある。でも、現状どうしようもないのは事実だ。男沢の能力を看破出来ずに少しずつこちらだけダメージを負っている。攻撃はそこまでキツくないが……このままだと殺られる。
「っ!」
「静! 待て!」
「えっ……?」
能力を発動しようとする静を止め、再び男沢から距離を取りながら静の近くに寄る。
「まだだ、静の能力を相手に教える事態だけは避けたい。良いかい、君の能力は突破口だ。静の能力が知られてないからこそ僕達にはまだ勝機がある」
「……何か、考えがあるのね?」
「いや、まだ思い付いてない。でも、必ず見付けるよ」
信じて、と一言告げると静は渋々構えを解いた。
……男沢は、あからさまに静の能力を警戒してる。恐らく僕の能力は完封出来る自信があるからだろう。
「来ないならこちらから行くぞ?」
男沢は一気に距離を詰めに掛かる。単純な体術ならあちらが上。武器による攻撃範囲ならばこちらが上。なら!
「ふっ!」
男沢の踏み込みに合わせ、一気に槍を突き立てる。男沢は既に走り出しているが、その距離ならこちらのが速く攻撃が入る!
「っ!」
男沢は両足を地面にしっかりと付けてブレーキを掛け、再び槍を受け止めた。やはり、硬い何かを突いてるような感触じゃない。攻撃を無効化されている?
……今の一瞬で能力発動の条件を満たした?
「ハァッ!」
考え事をしている隙に、男沢は鋭い前蹴りを放ってきた。なんとか盾で弾き、男沢は舌打ちをする。
「……やれやれ、泥試合だな」
「おあいにく様、こっちも防御力には自信があるんでね」
「ふん」
減らず口を互いに叩いていると、違和感に気付く。
男沢は、前蹴りをした右足を一瞬だが引きずっていた。深刻なダメージでは無さそうだが……確実に痛みを与えていたようだ。
「……ふー」
脳に、新鮮な酸素を送る。
考えろ、今のは大きなヒントだ。
まず、男沢の能力は身体の硬化では無い。例えば身体を鋼よりも硬く変化させる能力ならば、それを攻撃に使わない手は無い筈だ。
根拠はもう一つ、アキラさんの突進でも男沢は吹っ飛ばなかった。身体をいくら硬くしようとも衝撃はどうしようもないし、仮に硬く重いならば高速道路になんの負担も掛かってないのは可笑しい。
……そして、男沢の足に入った謎のダメージ。恐らくは盾で弾いた時に入ったモノだろうと推測出来る。何故? 突いても叩いてもなぎ払おうともびくともしない男がたったそれだけでダメージを喰らうか?
答えは一つ。男沢はあの一瞬だけ能力の発動条件を満たせなかったからだ。
「っ……」
ズキズキと痛む身体を抑えながら、可能な限り脳を回す。
もう少しで辿り着く。考えろ、男沢は何故あの時だけは防げなかった?
蹴りを盾で弾いた瞬間には出来なかった事って?
…………まさか。
「━━戦闘中にまた考え事か、槍使いッ!」
が、答えらしき何かを掴もうとした瞬間に男沢はいつの間にか眼前に接近しており、トドメと言わんばかりのブローを放っていた。
「はっ、悪いねっ!」
咄嗟に盾を構え、拳を受け止める。男沢の拳には傷一つ無し。つまり今は条件を満たしていて、可能性の一つに挙げていた攻撃中はダメージ無効化が使えないという条件では無いらしい。
ならば、もう一つの可能性を確かめる。
「厄介な盾だ、小癪な」
言葉を吐き捨てながら、男沢はバックステップで距離を取ろうとジャンプした。
ここだ。
「━━喰らえっ!!」
「なっ!?」
男沢が空中にいる一瞬を狙い、槍を思い切り投げ付けた。無効化能力を持つ筈の男沢は焦燥を浮かべ
「くっ……あァッ!!」
なんとか体を翻し、槍を避けた。
僕は槍を再び精製し、思わず笑みを浮かべた。
「……見付けた」
今思えば、違和感はあった。
男沢は移動と攻撃の間に僅かだが時間差がある。奴の移動中にこちらが攻撃を仕掛ければ必ずその場で止まり、攻撃を受け止めてから反撃をする。
移動しながら無効化出来るならそんな事をする必要は無い。それこそ僕を無視して静に一方的に攻撃だって出来た筈だしね。……男沢は両足を地面に着けていなければ能力を発動出来ないんだ。
「貴様、気付いたか?」
「さぁね。何の事やら」
「……まぁいい。俺の能力『仁王の心得』の仕組みに気付いたところで、こちらも気付かれている前提で動けば良いだけのこと」
男沢は構え、どっしりと腰を落とした。冷静だ、取り乱す様子は微塵もない。やはり経験値の差がある。
でも勝ちへのルートは見えた。ここが、勝負!
「静!」
「はいっ!」
ここで静に呼び掛け、男沢に見えないように後ろ手で指を三本立てる。作戦を静に伝えた。
僕たちは二人で動いてこそ、だ。よっていくつもの作戦を事前に作っている。
「……?」
男沢は静の能力を警戒するが、何も起こらず困惑する。
発動はしているが、男沢からは見えない場所にあるからね。
「お互い、忙しい身だ。だから」
大きく踏み込み、前方へと走る。
「これで決めるよっ!!」
男沢との距離二十。
「フン、やってみろ!」
男沢は依然として待ちの姿勢。正解だな、弱点はあろうとも待ち構える奴を崩すのは容易じゃない。
距離、十。
「━━はぁっ!!」
そこで立ち止まり、盾を上へと放り投げた。予想外の行動に男沢は目を見開く。
「な、何を!?」
驚く男沢を尻目に、槍を地面へ突き立て高くジャンプする。空中にある盾……もとい、静のドームが設置された盾へと蹴りを入れた。
静の不可侵領域はあらゆる攻撃を反射する無敵の壁。本来は敵を閉じ込めたり、味方の援護に使う能力だ。
「こんな使い方もあるってことさ!」
ドームに蹴りを入れた事で、その衝撃が足へと反射し僕を加速させた。
落下の速度+反射による加速で、アキラさん程ではなくとも凄まじい速さで男沢へと迫る。
「……何が起きたかは知らないが、無駄だ! 俺の能力は力業で突破出来ない!」
男沢は大した焦りを見せず、迎撃の構えをとる。
無論、そんなことは理解していた。狙うのは、足元だ!
「せぁっ!!」
男沢の足元へと槍を叩き付け、まるで爆発でも起きたような衝撃とクレーターが出来上がる。
「くっ!」
当然、その勢いに男沢は吹き飛ばされ、空へと高く飛ばされた。
「良し! 後は……ぐっ!?」
追い掛けようと足に力を込めるが、激痛が走り膝を地面に付けてしまう。しまった、反射した時のダメージが今になって……!
「いや、まだだ! 静!」
咄嗟に静へと合図し、盾へとドームを作って貰い背後の地面へと突き刺す。
この体勢では力が出ない。なら、無理をしてやるさ。
「ふっ!」
槍を持った右手を使い、肘でドームへとエルボーを入れる。一瞬にしてその衝撃は腕へと反射され、僕の意思を無視し、弾くように腕が動かされる。
その勢いを保ったまま、槍を構え
「『反射する馬上槍』ッ!!」
人の身でありながら大型弩砲となり、槍を男沢へと発射した。
肘に走る激痛を耐え、槍の行く末を見守る。
「━━無茶苦茶だな……くそっ」
男沢は諦めたように笑い、腕を交差して槍を受け止めるが……容易く貫き、血を吐き出した。
「ガハッ!」
そのまま地面へと落ち、倒れた。
遠目ではあるが、動く様子はない。腕で防いだからか胴体は無事ではあるが、両腕はギリギリ繋がっている状態で破損している。
もう、反撃は無いだろう。
「……はぁー」
安堵し、その場に仰向けで倒れる。
勝った。なんとか勝てた。でも、レイラ達に追い付くのはまだ無理かもなぁ。啖呵切っておいて情けない。
「大丈夫? 真」
傍らに静が寄ってきて、心配そうに顔を覗き込んだ。
「なんとかね。……やったね、静」
体を起こし、拳を向ける。静は微笑み
「うんっ」
コツン、と互いの拳が音を立てた。




