第七十三話 不動の男
「ほんとに誰もいないね、好都合だ」
アキラは凄まじい速さで走りながらそう呟く。変身したアキラは車も人もいない高速道路を走っていた。
都心の暴動によりこの道路の一部が崩壊した為に一時封鎖しているらしい。
交通の大部分を占めている道路故に大損害も良いとこだが、俺達にとっては大助かりだ。今だけはな。
「は、速……!」
「大丈夫か、静? 僕が抑えてるから安心して」
静さんは気の毒な程怖がりながらアキラの背中にしがみついており、その傍らで真が支えていた。
確かに速い。その上狭い。殆ど団子状態だ。
「耐えろよ。この速さなら都心はもうすぐだからな」
後方を確認しながらしがみつく梶さんが静さんを励ます。
アキラの首辺りに俺が、背中に静さんと真。腰に梶さんがいるという状況だ。
アキラからすれば尻近くを梶さんに触られる訳だから最初は嫌がっていたが、どうやら諦めたようだ。
「あんまり喋らないでよ? 舌噛むからね」
余裕そうに走るアキラがそう話す。
この人数を乗せてもアキラは大丈夫そうだな。
「っ!?」
しばらく走ること数分、アキラは突如その場でブレーキを掛けた。慣性で吹き飛ばされそうなのを耐えて、何事かと前を見る。すると
「━━━━」
軍服の様な衣装に身を包む男が、道路のど真ん中で立ち止まっていた。
明らかに殺意を込めた目でこちらを睨む。
「誰だ、お前」
俺達全員がその場を降り、梶さんが軍服の男に訊ねる。
男は深く被った帽子を取り、ニッと笑う。
「男沢 大地。『ソード』部隊が一人。所謂、特攻隊って奴だ。手合わせ願おうか?」
正々堂々と名を名乗る男沢という男。服の上からでもわかるガタイの良さから、接近戦タイプか? ソード部隊ってのは、遠阪さんが戦った鋼って奴と同じだな。白兵の集まりなのかもしれない。
「悪いけど、そんな暇無いんだよね!」
アキラは興味なさそうに全身に力を込めたかと思えば、そのまま弾き出す様に男沢へと突進した。
「━━フンッ!!」
しかし、あろうことか男沢は避けも反撃もせず、両手でアキラの突進を真正面から受け止めた。道路を揺るがす程の衝撃が流れるが、男はびくともしない。
「はぁ!?」
驚きのあまり、アキラは素早く後ろへ下がる。
あの速度の突進を受け止めただけでも驚きだが、恐ろしいことに男沢は無傷だ。腕を軽く動かしていることから、骨折等もしていないだろう。
「能力……だよな?」
「いかにも。良い突進だったが、効かんな」
どっしりと地に足を付けた姿はまるで大樹のようだ。簡単なことでは倒せそうにない。
「レイラ」
と、突然後ろから肩を叩かれた。振り向くと、何かを決意したかのような表情の真がいた。
……まさか。
「ここは、僕と静が残るよ。全員こいつに足止めされたら間に合わなくなる」
「待てよ、皆で掛かればこいつくらい」
「たった一人でここを任されるような男だよ? 複数人相手出来る能力の可能性が高いだろ?」
「……!」
それは確かに、と納得してしまう。先程の光景は異常だった。単純なパワーでアキラの突進よりも上回れる能力者はここにはいない。それを難なく防いだこの男。警戒するには充分すぎた。
加えて、俺もここで進化能力を使うわけにも行かない。
アキラよりも俺の進化能力は燃費が悪い。一度使うごとにかなりの体力を消耗する。
実際、蒼貞さん達と共闘した戦いの後も身体がまともに動かなかった。仕組みは分からないが俺の進化能力はそう出来ているらしい。
「僕達を置いていけって言ってるんだ。……悔しいけど、ここにいる誰よりも僕達はまだ弱いからね」
「真……」
そんなことは無い、と否定するのは簡単だ。
だけど、そうするべきじゃないと俺の頭は考えていた。
真の覚悟を無駄にする気がするからだ
「行くぞ、レイラ。乗れ」
「梶さん……」
真意を汲み取り、急かす梶さんに従って渋々アキラの背に乗る。
その様子を見て、真と静さんは笑った。
「後で這いずってでも追いかけるよ。ここは任せて!」
「━━ああ、任せた!」
二人を信頼し、託す。
「行かせると思うか?」
が、男沢はアキラの前に立ち塞がる。
それと同時に、真は踏み込んで槍を男沢に打ち込んだ。
「む……!」
「悪いけど、僕らが相手だよ」
巨大な槍と盾を構え、城塞を思わせる威圧感を放つ真。その傍らには、先程の怯えはなく、優しさと力強さを併せ持つ静さんがいる。
その姿を警戒したのか、男沢は俺達から視線を外していた。
「アキラ!」
アキラは俺が言うまでもなく、走り出した。
一瞬でその場から離れ、既に遠くなった真達の場所で激しい戦闘音が響いてくる。
頼んだぜ、二人とも!
※
「……逃がしたか。殿のつもりか? たった二人で?」
レイラ達が逃げたのを見て、男沢は面倒そうにこちらを見る。明らかに舐められている。
「二人も、の間違いだろ?」
「いいや。二人で、だ」
僕の挑発も意に介さず、男沢は一歩でこちらまで距離を詰め、僕の右頬を殴り飛ばした。
「ぐっ!?」
あまりにも綺麗に拳を受け、意識がぐらりと揺らつく。なんとか意識を保ち、流れた血を拭う。
「真!」
「……っ大丈夫だ、静」
心配をしてくる静に返事をし、眼前の敵を見る。
……攻撃に能力は無い。ただのパンチだった。
「俺はこれでもここを一人で任されたんだ。二人じゃとても足りないな。すぐに貴様らを殺してさっきの奴らを追いかけなきゃならない。早くかかってくるといい」
と、男沢は嘲笑しながらこちらへ向かってこいとジェスチャーをする。
やはり防御力に自信があるみたいだ。
「……分かったよ」
挑発に乗ったフリをし、槍を構える。
「なら、遠慮無く!」
そのまま槍で突進をし、男沢はその場で構える。今だ!
「━━静ッ!」
直前でブレーキを掛けると同時に、静の能力が発動し男沢の周りをドーム状の膜が生成されていく。悪いけど、防御力が高い奴に真正面から戦うつもりはないね。これで終わりだ。
そう、思った。
「甘いっ!」
しかし男沢はその場で飛び上がり、膜を避けて着地する。その勢いを保ったまま、静の方へ走り出す。
「くっ! 待て!」
咄嗟に男沢の前に立ち塞がり、槍を横薙ぎに振る。
が、片手でいとも簡単に受け止められた。
「片手で!?」
「フン。大方、その女はサポート系の能力だろうと思ったが……やはりな。能力者同士の戦いで片方の能力が知れてない時に、無茶をするほど阿呆ではない」
互いが離れ、再び膠着状態となる。
くそっ、罠にはめたつもりが逆に罠にかけられるなんて。
この男、能力者として格上だ。ファーストか?
「さっきの膜の様な能力、貴様にだけメリットがあるわけじゃないのだろう? だからこそ俺だけを閉じ込めようとした。違うか?」
「……さぁね」
……ご名答だ。あのワープ女の時と違って、今回は僕と男沢を閉じ込めるのはまずい。相手の能力が分からないからだ。もし男沢の能力が僕だけじゃどうしようもないのなら、一方的になぶられて終わりだ。
「ま、どのみちさせないさ。貴様が俺から離れたら先に女を殺す。近寄るなら貴様から殺す。順番が変わるだけだ」
男沢は再び構え、こちらの動きを待つ。
くそっ、静は寄られたら抵抗出来ない。奴の拳ならば静が能力を使うより先に攻撃出来るだろう。なら僕が前線で戦う他ないな。
厳しい相手だ。だが負けるつもりはない。なんとか、こいつの能力を探るんだ。




