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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
第三章 キメラ編
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第六十八話 傭兵

「Bと戦った!? しかも倒したんですか!?」


 黒川と戦った翌日、再び支部を訪れていた生明から昨日起きた出来事を聞く。

 Bと戦った上に倒して、なおかつ指示を出していた傭兵をも捕まえたらしい。戦闘もいけるのかこの人は。


「そ。でも、重要なのはここから」


 生明はソファーに腰掛け、腕を組む。


「アタシの能力の関係でね、アタシの手で触れた生き物の情報を大体知ることが出来るのよ。年齢とか病気の有無とか……まぁ色々ね」

「んで、昨日B……キメラに触れて分かったことがある」

「……それは?」


 焔さんに促され、生明はおぞましい真実を話し始めた。


「キメラの肉体はね、()()()()()()()()()()()()()。方法は分からないけど」

「な……!?」


 生明以外の仲間が同時に驚いた。

 意味が分からない。そんなことがあり得るのか?


「待て、生明。ディザイアであろうともそれは……」

「燎子の言うとおり、普通は成り立たない。ディザイアもベースは人間だ。二人分の人間がくっついて一つの生命体になるなんてあり得て良い筈がない」


 生明は眉を潜める。


「でも、事実なんだ。人より大きな体に二人分の臓器や筋肉が何故だか共存している。まさにキメラと呼ぶに相応しい歪な体だよ」

「なら、組織が感染者を拐っていた理由は……」

「……十中八九、キメラを作るためだろうね。洗脳とやらも行っていたらしいけど、話を聞く限り洗脳した能力者はあんまり強くない。なら、知性は低くとも強靭な身体を持つキメラのがよっぽど強いからね。おまけに能力が二つある」


 生明は置いてあるコーヒーを一口飲み、溜め息をつく。


「厄介だよ、あいつらは。アタシだから死なずに済んだけど、倒すには相当の強さがいる。なんせ二人分の身体を更に改造してあるんだ、一人じゃ中々勝てないだろうね」

「能力が二つあるのも、その特殊な肉体が関係してるのか?」

「そうよ、燎子。ディザイア細胞は知ってるでしょ?」


 と生明は話す。


 ディザイア細胞。少し前に一色さんから聞いたことがある。

 感染者の身体を巡る特殊な細胞だ。能力の目覚める少し前に感染者の身体で生まれる感染者だけが持つ細胞。

 これが一定量を越えると身体能力が高くなり、きっかけを経て能力に目覚める。真のように、能力に目覚めるまで全く細胞が無いパターンもあるが、大抵は俺のように能力が開花する準備が完了すると体内で発生するとか。


「無論だ。それが?」

「ディザイア細胞ってのは、感染者の体内で増え続けるワケじゃないの。身長体重の違いで多少の誤差こそあるけれど、一定に達すると増えなくなる。でも、キメラの体は特殊だ。二人分の体積を持つ一つの体で、それぞれ別のディザイア細胞が同居することになるの」


「でね、本来なら他人のディザイア細胞が入り込めば悪影響を及ぼす。能力無効化薬の原理がこれだろうね。でも、キメラの場合は何故だか共生する。能力を発動させられるだけの細胞が、お互いの邪魔をせず完璧に同居する……これがキメラが能力を二つ持つ理由だね」


 要はデータ容量みたいなものだよ、と生明は言う。

 細胞というデータが入る器が人の体であり、キメラはその容量が多い。そういう事だろう。


「どうしますか? 焔さん」


 一色さんは心配そうに焔さんに訊ねた。

 一人にならないと襲ってこない上に、放っておけば被害は増え続ける。

 守りに入らざるを得ないのに、放置は出来ないなんてな。


「……今までの動向を見るに、キメラに指示を出す存在が必ず側にいるな。生明が捕まえた傭兵がそうだ」

「アンタ、まさか」

「そのまさかだ。知っているだろう? 私は傭兵を撲滅すべきだと考えてる()だ」


 焔さんは腕を組み、生明をじっと見詰めた。


「知ってるでしょう? 傭兵は田舎の支部とかじゃあ貴重な戦力として雇われてるって。今回こそ悪い使い方をされたけど、必ずしもそうじゃない。本部でもどうすべきか意見が割れてるのよ?」

「承知している。が、牽制もしないのは些か保守的すぎる。なに、傭兵組織を全て潰そうって話をするワケじゃない。少しでも奴等に使われる傭兵の数を減らしてくれればそれでいい」

「……焔はそれで良いとしても、傭兵側が許すのかしら。仕事を減らせって言ってるのよ? それじゃ」


 言い合いになる二人。

 俺は傭兵の事を良く知らない。感染者対策組織とは別に、能力者に仕事を与えている組織という事だけは分かるが。

 感染者の犯罪を未然に防ぐために活動する俺達とは違い、彼等は金さえあればどんな汚れ仕事もこなす。

 しかし、彼等には悪意はなく支部で雇われている傭兵もいる。

 仕事の邪魔になることもあれば、仕事の助けになることもある……非常に扱いに困りそうな存在だな。


「彼等が組織からの仕事を減らしても良いと思うだけの交換条件を考える必要はあるな。こちらから払う額を増やすとかね」

「上手く行かなかったら?」

「強行手段を使ってもいい」

「はぁー……どうしてこうも血の気が多いのよ。もう、分かったわよ。傭兵らと話をするってんならアタシも行くわ。ストッパーとしてね」

「良いのか?」

「良くはないわよ。でも傭兵とまで争うワケには行かないでしょ。下手すりゃ支部で抱えている能力者の数よりも多いかも知れないのよ? ただでさえ組織と争ってるのに仕事を増やされても困るのよ」


 むう、と焔さんはばつが悪そうに頭を掻く。


「念のためあと何人か連れていきたいわね。……その前に本部で話を付けないといけないか。あと傭兵とアポを取らないとだわ」

「なら俺も……」

「レイラが着いてきてどーすんのよ。ぺーぺーが間に入ったとこでどうにもなんないわ」

「ぺ……!?」


 生明に速攻で却下され、ぐうの音も出ない。

 確かに俺が出ても仕方ないのか。


「加島さん、あと忍足さんはどうだ? 加島さんは話が上手だ。忍足さんは何かあれば必ず状況を変えてくれる」

「そうね、その二人が適任だわ」


 どうやら話は纏まったようで、二人は急ぎ足で外に出ていった。


「あのお二人は一度本部に出向くみたいですし、しばらくアタシが指揮を取ります。キメラに注意しましょうね」

「了解!」


 少しの間、一色さんがリーダーを努めることになる。

 何はともあれ、今は焔さん達に任せよう。

 どうなるかは予想がつかないけど、いい方向に転ぶことを願って。





ペース落ちます

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