第六十七話 人工獣
戦いは嫌い。時間の無駄だから。
自分の力を誇示したいとか、勝者になって他者を見下してやりたいとか本当につまらない。
幸い、アタシに与えられた力は戦いに向いてはいない力だった。他者を癒し自分も癒せる、治癒の力。
だがこの力も、結局は戦いがあってこその物だと思い知る。怪我をしなければ癒せない。少なくとも今の世界では、戦いの傷を癒すための使い方ばかりだ。心の傷は癒せないしね。
そして使い方を間違えれば、この力は最も死に近い能力でもあった。
アタシは結局、戦いからは逃げられない。
それならせめて、早く終わらせるに限る。
*
「━━アタシの力はさぁ、アンタらも知っての通り治癒の力だ」
乱発される砲弾を受けながら、ゆっくりゆっくりBへと近付く。
「なんで吹っ飛ばねぇんだよ! 『人工獣』、もっと撃て!!」
怒りを露にする男。
アホらしい。砲弾を受けた矢先に再生させれば、筋肉や脂肪がクッションになり威力は完全に殺がれるのよ。
「怪我も病気も、アタシにとっては似たようなもん。体力を代償に本人の治癒力を高めれば大体は治る」
顔面に砲弾が当たり首が真後ろにへし折れる。が、一秒も掛からずに修復する。
痛みは無い。能力の副作用だ。
「でも、この力で最も恐ろしいのは治癒の力じゃなかった。皮肉な事に、最も人体を破壊させるのに適した物だったのよ」
やがてBの目の前にまで近付き、Bは野性的な動きでこちらを殴ってくる。
骨やら筋肉がぶちぶちと音を立てるが、気にせずに右手をBの胸に当てた。
「こんな風に、過剰なまでの治癒力を肉体に与えると」
「ゴ……ァ……!!」
力を流し込むと、Bの肉体が風船のように膨らみ
「━━破裂する」
パァンと音を立て、Bの全身が弾け飛ぶ。肉片や血が辺りに撒き散らかされ、地獄絵図のようだ。
「ヒ……! ば、化け物!」
男は看板から腰を抜かしながら落ちて、ヨタヨタと逃げようとする。
そこを、一歩で近付いて捕まえた。
「脳は全身の力をある程度セーブしてるんだとさ。身体が壊れないようにね。それを逆手に取って足が壊れるほどに力を込めればこの通り」
「は、速……離せぇ!!」
男の両手を掴み、先程より弱めて力を流し込む。すると腕のみが弾けとんだ。
「ギャア!!」
みっともなくその場に倒れ、男は痛みからのたうち回る。
哀れに思いながら、男の髪の毛を掴み持ち上げる。
「安心しなさい、まだ治せるわ。アンタがちゃんと質問に答えてくれたらね」
「グ……クソアマぁ……!」
「へー、そんな態度取っちゃうんだ? 頭も治そうか?」
「ヒッ……!」
状況を察したのか、男は小刻みに震えながら黙り込んだ。そう、それでいいのよ。
「一つめの質問。アンタは何? 組織関係なのは分かるけどB……いえ、キメラとやらの飼い主なの?」
コイツは先程、あの化け物をキメラと呼んだ。
ギリシア神話のキマイラが語源とされる、生物学では嵌合体、または異質同体と呼ばれる存在だ。
意味からして、ろくでもない存在なのは何となく察せられるけど。
「そ、組織には雇われただけだ! あの化物を自由に命令出来る権限を与えられ、一人で出歩く能力者を襲うように言われたからな!」
「成程。じゃ、アタシを狙ったのは優先度の高さからってとこ?」
「その通りだよ! き、危険度や支部における地位で優先度が上がり、優先度が高い奴を殺すほど金が多くなる。しかも、こっちからすれば人工獣に指示するだけでなにもしなくて良い。楽な仕事……だった筈なのになクソっ、俺の腕がぁ……!」
質問に答えギリリと歯を食い縛る。コイツもまた傭兵か。
話を聞く限り、アタシ達に賞金が賭けられてるってワケね。しかも、話からして支部のメンバーに対する情報が豊富そうだ。……支部や本部はそんなに簡単に情報が漏秘するような所じゃないのにな。組織の情報網はどうなってるの?
「二つめ。雇い主は誰? 名前を知らなければ見た目や性別……身体的特徴でもいいわよ」
「う、胡散臭い男だよ。科学者みてぇな見た目をした若い男さ」
「……真殿、か。ろくでもないわね」
科学者の様な見た目でピンと来たのは真殿だ。蒼貞達が戦ったとか言う男だね。
組織の脳かな。アナザーという鉄壁の要塞で匿うほどの重要人物ってワケだ。
「ふむ……」
男から手を離し、顎に手を当てながら壁に背を預ける。
話を聞く限り、キメラとやらはもう量産出来てるっぽいな。数に限りがあるのなら、こんな雑魚に管理を任せるとは考えにくい。
キメラを作る方法が真殿抜きでやれるのかはまだわかんない。けど、キメラの体を診た感じまともな方法ではないのは確かだ。
仮に真殿抜きで作ることが出来ないのだとしても、もう表に真殿が出てくることはまず無いんだろうな。
なら結局、組織を潰さない限りキメラを全て倒すのは無理そうか。
せめて傭兵の動きを止めることが出来たら良いけど、傭兵自体は善でも悪でもなく、なんならこっちでも雇うことがあるからなぁ。
感染者対策組織内でも、傭兵をどうするかは意見が割れてる。勝手に動いたら中がごたついてしまうかな。
めんどくさいわねぇ。
「お、おい! 知ってることは話したぞ! だっだから早く腕を……!」
「五月蝿い、考え事してんの……よっ!」
「ブゲェ!?」
ぎゃあぎゃあと喚く男の顔面を蹴り上げ、男はぱたりと気を失った。
そっと腕を治し、溜め息をつく。
「はぁー、慣れないことするもんじゃないわね。やっぱりアタシは裏方が似合うわ」
然るべき所に連絡を入れ、その場で待つ。
降りかかる火の粉は払うけど、火元を消すのはアタシの役目じゃない。
これから先を創るのはアンタらだ。気張んなさいよ、三人とも。




