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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
第二章 アナザー編
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第五十六話 異変

「オレだ、支部メンバーに告げる。今現在、組織のメンバーである真殿という男が逃走中だ。動ける奴は探してくれ。見付け次第生きたまま捕らえろ。頼んだぜ」


 緊急用のスマホで支部メンバー全員へと通達し、スマホをしまうと同時に周囲に水のバリアを張り巡らせる。

 視力が奪われちまうとは予想外だが、これで物理的な攻撃は防げる。……あくまで、防御はだが。


「みっともねぇ、このオレが後手に回るとはな」


 レイラの進化能力に助けられた。どうやら、見くびってたのはオレだったみたいだな。焔の奴、良い仲間を見付けたもんだ。


 さて……ここからは楓の目だけが頼りだな。あいつは並列思考が優れてる。この場のメンバーに対してほぼ同時に指示が出せるだろう。

 周囲を見ずとも攻撃を防げるオレや理央は良いが、レイラはそうもいかない。しかも中目とやらと対峙してるのもレイラだ。

 楓の指示が少しでも遅れたらヤバい……が。


「信じるぜ、二人とも」


 今は信じる。この状況を打破できると。


 *


「レイラさん、朗報です。中目の能力は、一定の距離を取れば視力を取り戻せるとアキラちゃんから報告がありました。どの程度の距離かは分かりませんが」

「なら、この場を離れれば良いと?」

「ええ。しかし、ただ離れるだけならまた中目に追い付かれた場合、同じことの繰り返しになっちゃいます」

「あ……そうか」


 中目からすれば、何度でも能力を発動させてまた視力を奪えば良いだけだからな。

 そうなると


「中目をこの場に留まらせ、なおかつ上の狙撃主達を止め、真殿の追跡及びその邪魔もさせない。この三つを同時にやるしかない……ですね」

「流石ですレイラさん。役割は勝手ながら決めさせてもらいました」


 ふぅ、と疲れたような息を付く一色さん。……無理もない、恐らく一色さんは仲間全員の視界を見ながら状況を確認している。カタカタとキーボードを打つ音も聞こえるから、機械音声か何かで蒼貞さん達にも同時に指示を出しているみたいだな。


「まず、追跡はこのままアキラちゃんに。速いですし、嗅覚もあります。イレギュラーが起きない限りは問題無い筈」

「狙撃主の処理は蒼貞さん、氷堂さんに。彼等は意識せずとも全方位の防御が可能で、フットワークも軽いです」

「そして中目の対処はレイラさん、貴方に。進化能力、見事でした。あの能力で中目に攻撃出来れば、視力を奪う能力も消せるかもしれませんし……どのみち、中目はレイラさんを一番警戒している様でしたから」

「な、なるほど……」


 凄まじい、な。この一瞬でそこまで作戦を立てたのか。流石は焔さんの右腕だな。


「レイラさん、これから貴方に指示を出していきますが、どうしてもラグが出ます。遅れてしまったらごめんなさい」

「承知の上です、ここは何がなんでも勝たなきゃいけませんから」

「ですね、こちらも気合いを入れていきます」


 暗闇の中に光が差したかの様な、そんな気分だ。

 自分の視界を他人に代わりに見てもらうなんて初体験だが、一色さんなら信頼出来る。

 むしろ、俺が適切に動けるかが心配だ。弱腰にならないように努力するとしようか。


 *


「ふー」


 キーボードで機械音声を打ち込み、蒼貞さんと氷堂さんに指示を送る。


「真後ろに走って、路地を抜けてください」


 幸い二人の位置は後ろへと走れば障害物に当たらずに路地を抜けられる。狙撃主と見られる連中からすれば真下になるし、攻撃は出来ないと思う。

 仮に出来たとしても、蒼貞さんは水を纏っており、氷堂さんも薄氷で体を守っている。大丈夫……よね。


 問題はレイラさんだ。


「お前の能力は厄介だからな。刺し違えてでもここで殺す」


 クナイの様な刃物を構え、腰を落とす中目という女。立ち振舞いからして、この人は元々()()()()だ。

 暗殺者か、はたまた用心棒か。どちらにせよ、人を殺す術に長けていると見て間違いない。

 煙幕はほぼほぼ晴れたけど、どのみちレイラさんは視界を奪われており、中目はどういう原理かは分からないが煙の中でも動けていた。


 逃げるという選択肢は無いに等しいかな。

 まずは、あの注射器だ。何本持っているのかは分からないけど、あれをどうにかしないと不味い。


 蒼貞さんの話によれば、あの注射器を打たれてしまうと大体十分ほど能力が使えなくなるらしい。身体能力は変わらないらしいけど、体術でレイラさんが上回れるかは微妙だ。

 進化能力を使えなくなるのも痛い。アタシがカバーするにしても、やはり視力を奪われているのは大きすぎるデメリットだ。

 何としても、レイラさんには中目の能力を消してもらわねば。


「━━その首、貰うぞ!」

「っ!」


 中目は低い姿勢のまま、レイラさんへと突っ込んできた。考える時間もくれないか。今は、この戦いに勝つしかない。


「中目は正面! 中腰の姿勢です! 距離は十五から十! ()()()()()()()()!」

「━━『掴み取る手(ホープ・ハンド)』!」


 レイラさんは手を上空へと出現させ、中目を上から潰そうと落とす。


「っ!? ちっ!」


 中目は咄嗟にブレーキを掛け、バク転でその場から離れた。手は地面へと叩き付けられ、大きな手形を残す。


「外しました。ですが、良い反応でした。この調子で行きます!」

「了解!」


 事前にレイラさんの能力で出来ることは聞いている。

 進化した手を出せる数は今は一つだけ。進化前ならば二つ。同時に出すのは出来ないけど、切り替えは限りなく速い。

 進化前であれば二つ同時に出せるので、相手からすれば非常にやりにくいでしょう。


「貴様、見えて……いや、そのインカムで誰かから指示を受けているのか。小賢しい」

「さぁな、勘かもよ?」

「ガキが……!」


 中目は太ももに取り付けてある刃物を複数本持ち、一気に投げ付けた。ならっ!


「投擲来ます! 防御を!」

「了解!」


 今度は通常の能力を発動させ、大きく開いた手で刃物を防ぐ。が、その横から中目は距離を詰めてきた。右手に刃物、左手に注射器。右手はフェイク?


「中目接近、右手側! 跳んで下さい!」

「ふっ!」


 手を踏み台にし、手の力と本人のジャンプ力で高く跳んだ。狙撃主は蒼貞さん達と交戦中みたいだ、中目に集中出来る。

 こっちも攻める!


「両手で真下を殴って下さい!」

「『両拳連打(ダブルインパクト)』!」


 二つの拳を作り、凄まじい勢いで中目へと殴り掛かる。


「くっ!」


 嵐のような連打に回避することしか出来ず、中目は焦燥を浮かべる。

 そして、回避が間に合わず攻撃がほんの少し掠った。痛みに怯み、動きが止まる。


「ぐぅ……!」

「今です! 進化を!」

「おおっ!」


 二つの拳を消し、進化した拳で中目へと殴り掛かる。ギリギリで中目はその場を離れるが……注射器を持った手に少しだけ当たり、注射器は音を立てて砕け散った。

 更に


「あ……視力が戻りました!」

「やりましたね! 命中さえすれば能力を消せるようです」


 レイラさんの目に光が戻ったようで、一気に形勢逆転だ。

 能力をどのくらいの時間消していられるかはまだ分からないけど、レイラさんの能力は体術だけでどうこう出来るほど甘くはない。このまま押し切れば勝てる。


「……ここまで、か」

「諦めたか? なら大人しく━━」

「いや、違う。()()()()()()()()()


 中目は大きなため息の後、あろうことか二本の注射器を取り出した。


「こいつ、まだ……!」

「焦るなよ。これはお前に刺す物じゃない。一つは筋肉増強剤(ステロイド)。感染者が耐えられるギリギリの量でな」


 と話しながら、それを首筋に刺した。何を……?


「っそして、もう一つは……グゥ……!!」


 更にもう一本刺し、ビクビクと身体を痙攣させながら俯いた。

 やがて、中目の身体に異変が起き始める。


「グ……ァア……!!」

「下がって、レイラさん。何か様子が可笑しい」


 レイラさんを下げ、中目の様子を見る。

 身体がみるみる肥大化し、全身に血管が浮き出ていく。人間じゃなくなっていくかの様だ。


「━━アアアアアッッッ!!!」


 怪物のような雄叫びをあげながら、中目は立ち上がる。

 大きい、先程の細身な身体とは大違いだ。ステロイドの効果だけではこうはならない筈だ……!


「ブチ……ゴロスッ!!」


 人であることを止めた怪物は━━大きく飛び上がりレイラさんへと襲い掛かった。












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