第五十五話 光明と暗黒
俺の両親は、とても優秀な人間だった。
文武両道、才色兼備。類い稀なる才能を持ちながら、決して努力を怠らず、幼少期の頃からトップに立ち続けた怪物だ。
そんな二人から産まれた、俺……月星レイラはどうかと言うと。
……悲しくなるほど、凡人だった。
全てが並で秀でた才能など毛ほども無く、何をしても平均的。ある意味才能なのかもしれないが。
親に恥じない人間になろうと努力をしていた。だが、悟ってしまった。どうあがいても親の様な人間にはなれない。
遊ぶ時間を削って勉強をしても、クラス内のトップにすら立てず
身体中に傷を作るほど運動をしても、やはりトップにはなれなかった。
勿論、それが悪いという訳ではない。学校の先生からの評価は良かったのがそれを裏付けていた。
だとしても、俺は劣等感に苛まれ続けた。
両親は、そんな俺に対して何の悪感情も抱いていなかった。親として、俺が努力する姿を応援し続けてくれた。
そして……限界が訪れる。もう、無理だと。幼少期から努力をし続けても、才能の壁は越えられないと。
最初で最後の挫折だ。そこから、俺は必要以上の努力を止めた。
でも、俺は。諦めが悪かったのだ。
その時からボランティア活動に力を入れるようになり始めた。
善行をするのは気分が良い、それは嘘じゃない。だが、本当の目的はそれだけじゃない。
自己顕示欲を満たすためだ。
善行をすることで、親に恥じない人間になろうとしたんだ。
とんだ偽善者だな、反吐が出る。
めんどくさいと思いながら、偽の笑顔で取り繕い、日銭を稼ぐように他人から感謝の言葉を貰う。その瞬間だけは立派な人間になれている気がしていた。
腹立たしいことに、俺の能力の根底にあるのはソレだ。
自分が努力をしなくても、願いを掴んでくれる手……それが俺の能力に込められた欲望だ。
能力の高い耐久性は、恐らく俺の諦めの悪さが反映されているんだろう。
進化した後はもっと醜い。俺が足掻くのを、誰にも邪魔されたくないから能力を消す効果が追加されたんだろうからな。
みっともなくて惨めで、不細工だ。
誰よりも欲に忠実な能力だろう。
でも
そんな俺を、信じてくれた人達がいた。
俺を導き、感染者の世界へと入るきっかけをくれた焔さん。
右も左も分からない俺を、豊富な知識量で後押ししてくれた一色さん。
迷う俺を、何度も助けてくれたアキラ。
能力者としては後輩でありながら、共に戦ってくれる真と静さん。
力に溺れた俺を、先輩として引き留めてくれた梶さん。
そして━━どんな時でも、俺を信じてくれた夏希。
色々な人に助けられたから、今の俺がいる。
これまでの俺とはおさらばだ。醜い力でも、誰かの助けになるのだと証明する。
未来を、掴み取ってやる。
*
「ガハッ……! バカな、その能力はまさか……」
俺に殴られ、血反吐を吐きながらのたうち回る真殿。
狙い通りに、この空間内でも攻撃することが出来たんだ。
なら、次にやることは決まっている。
「邪魔なんだよ、この空間は」
能力を再び発動し、紙を引き裂くように空を裂いていく。
「消し去ってやる、テメェの実験と一緒にな!!」
やがて空間に亀裂が走り、空間が徐々に崩壊していく。
「レイラ、お前……! 最高だぜ!」
後ろから蒼貞さんに頭をわしわしと撫でられ、笑顔で応えた。
「俺だけの力じゃないです、アキラが背中を押してくれましたから」
「フフン、そうさ。感謝しなよ?」
と、アキラはドヤ顔をしながらニヤリと笑った。
「ああ、いくらでも感謝してやるさ! その前に……」
仲間と共に、真殿を睨む。形勢逆転だ。
「クソが、能力を無効にする能力なんて一度たりとも確認されてねぇってのによぉ……!」
既に滅びた空間から脱出し、直ぐ様その場から逃げようとする真殿。
それを、蒼貞さんは許さなかった。
「おっと、待ちな!」
「ぐっ!」
素早く水を発射し、縄のように変形させ真殿の首を絞めた。
「お前には聞きたいことが山ほどあるんだ、そう焦るなよ?」
「チィ! 中目ェ!!」
すると、先程まで真殿の側にいた中目という女が、こちらの頭上まで飛んでいた。腰から何かを取り出し、地面へ向かって投げ付ける。
「くっ、煙幕か」
地面に刺さった刃物から、濃い煙が吹き出して辺りを白く染める。
煙に巻こうってか、させねぇ!
「凪ぎ払え!」
手に指示を与え、煙を吹き飛ばそうと準備する。が、煙の中から中目が現れ
「フッ!」
「うぉっ!?」
クナイの様な刃物を首もとへと突き立てて来て、間一髪でそれを避けた。
なんで煙の中で正確に動けるんだ?
「真殿様。実験データを持ってお逃げ下さい。殿は私が努めます」
「ああ、頼んだぞ中目。クソッタレ、貴重な実験体が……」
中目は真殿へとそう伝え、奥で誰かが走っていく音が聞こえた。まずい、真殿が逃げちまう。
「皆! 真殿が逃げるぞ!」
「僕が追い掛ける! 匂いは覚えたからね!」
「頼む、アキラ!」
煙の中でアキラが返事をし、走ろうとする瞬間
「させるとでも? 『視界共有』!」
中目が能力を発動させる。そして
「な……!」
何も、見えなくなった。目が開いているのは分かるが、まるで閉じているかのような暗闇だ。
中目の能力だろうが、これじゃ動けない……!
「━━レイラさん! その場から離れて下さい!」
「っ!」
が、インカムから聞こえた一色さんの声に反応し、その場から大きく後ろへと下がった。
……気配がする。まさか、この状況で中目が攻撃をしてきたのか?
「ちっ、大人しくしていれば楽に殺してやったものを」
中目が怒りを露にする。危ない、あのまま突っ立っていたら当たっていた。
「助かりました、一色さん。しかし……」
「大丈夫です。アタシからは、全員の視界と位置が見えてますから。……それと、アキラちゃんにはそのまま真殿を追わせました。彼女なら目が見えなくとも嗅覚がありますから」
「なるほど……って、俺だけが見えない訳では無いんですか?」
「ええ。蒼貞さんも氷堂さんも、視力を奪われているようです。中目の能力なのでしょうが……中目本人は動けるようなので厄介ですね。しかも」
更に続けた。
「中目は、注射器を持っています。その意味がわかりますね?」
「注射器……まさか」
「ええ。能力無効化薬でしょう。以前、蒼貞さんが話してた物と同じかと」
読めた。
恐らく中目がしたかったのは、視界を奪った状態でこちらの能力を消し、仮に自分が負けても真殿を追う事が出来ない状況を作ることだ。
敵ながら賢い、これなら一人でもこちらを欺けるだろう。
「加えて、建物の上に何人かの影が見えました。奴等の仲間でしょう。高台にいる以上、射撃や能力による遠距離攻撃が出来る連中かもしれませんね」
「く……! どうすれば」
「ええ、状況は良くありません。ですが、アタシがそうはさせません」
「一色……さん?」
決意に満ちた声で、一色さんは言った。
「アタシが皆さんの目になります! この場にいる誰も、死なせはしない!」




