第十八話 襲撃、一
「そういやレイラよぉ。お前、昨日なんかあったか?」
昨日と同じように商店街をパトロールしていると、後ろにいた梶さんにそう言われた。
「あ、えっと……焔さんには伝えたんですが……」
焔さんに教えた内容と同じものを梶さんにも話す。
当然、夏希に能力者であることがバレた件だ。だが、夏希は誰にも喋らないことを誓ってくれたし、アイツの口が固いことも知っている。
まぁ焔さんはなんとも微妙な顔をしていたが、一応了承してくれた。俺達が映っていた動画は即刻削除されたので、これ以上は広まらないだろうという判断だ。
「あんまり褒められた真似じゃねぇが……姉さんが許してるならまぁ良いだろ。……にしても、だからか」
「だから、とは?」
神妙な顔をして顎を触る梶さんに、思わず訪ねる。
「いや、肩の荷が降りたような顔してたからよ。その幼馴染みとやらに能力があることを隠してたのが辛かったんだろ?」
「えぇ、そうです。アイツにだけは、隠し事をしたくなかったので」
俺と夏希の間で隠し事は無しにしたかった。誰よりも信頼しているからだ。
「なるほどなぁ。良い奴だな、レイラ」
「わぶっ、ありがとうございます……?」
突然梶さんはアキラにやっている様に、髪の毛をわしゃわしゃと触ってきた。
兄がいるとこんな感じなのかな、と少しだけ思う。
「さ、頑張るか。また商店街で襲撃があるとは思えないが……一応な」
「はい!」
まだ時間はある。油断しないようにしないとだな。
*
「緊張する、ね……」
「そうだね……」
焔さんと共に、僕らの学校とは少し離れた郊外を歩く。
今日が初仕事だ、流石に緊張する。隣にいる静もそのようだ。
「フフ、そう緊張するな。いざというときは私がいるしね」
「は、はい!」
そう言われるが、やはり緊張する。声が思わず裏返ってしまった。
「あー……まだ時間掛かりそうだね、フフフ」
「うぅ……」
焔さんに笑われてしまう。とても恥ずかしい。しかも静の目の前で。
でも、頑張ろう。僕達がレイラ達に助けられたように、僕らも困っている人を助けるんだ。
「さ、こっから暫く歩くよ。違和感を感じたら教えてくれ。些細な事でもね」
「わかりました!」
「はい!」
と、焔さんは歩く速度を早めた。
自分の能力の仕組みは大体分かった。この力なら、誰にだって負けない筈だ。
静と共に、やってやるぞ!
*
ソファーに寝転びながら、テレビを見る。
いつも通りの退屈な番組ばかりで、欠伸が出てしまう。
「ふぁ……。暇だなぁ」
そう呟いた所で、奥のデスクで作業をこなしているカエデは返事もしてくれない。
山のように重なった書類を淡々と処理していくカエデは、まるでロボットだ。
「カエデ。何か手伝う事とかある?」
このままぐうたらしているのは少々罪悪感があるので、話し掛けてみる。
少し間を置いてからカエデは口を開いた。
「……うーん、ならこっちの書類をファイルに挟んで奥の本棚にしまって貰える? 上から二段目の場所にね」
「了解、任せてよ」
ちょっとした雑務だが、退屈しのぎにはなる。
そう思いながら山盛りの書類を透明なファイルに挟んでいく。内容は随分と眠たくなりそうな内容だけど、どうやら近年に現れた感染者のデータみたいだ。
「よいしょっと……」
背伸びをしながら、言われた通りにファイルを本棚に入れる。ギチギチだ。
買い足さないと、そろそろ限界かもね。
「……ん?」
そんな事を思いながら、ふと外を見た。
何気ない風景だけど、一つだけ違和感があった。向かいのビルの屋上で、人が立っていたからだ。
「何だろう……?」
こんな時間にビルの屋上で何をしているのか。
そう思った瞬間、その人の手元がキラリと光った。
「……!? 『狼女』!」
光の正体が分かった瞬間、咄嗟に変身した。
あの人、何か金属の物を撃った。しかもこちらの窓に向かって。
「カエデ! 下がっ……くっ!!」
「わっ!?」
放たれた物は、矢だ。
その矢は容易く窓を突き破り、一瞬にしてガラスを粉々にした。
このガラスは確か防弾だ、それを容易く撃ち抜くって事は……!
「カエデ、僕の後ろに! 感染者の襲撃だよ!」
「えっ!? 本当なの?」
「この窓の残骸を見れば分かるだろう!? くそっ、本当に来るなんて……!」
確かに、予想はしていたさ。
でも、まさか今日だなんて。リョーコがいないタイミングを、ずっと計っていたのか?
楓に戦闘能力は殆ど無い、他の仲間はいまパトロール中……戦えるのは僕だけか。
「━━タイミング、ぴったしだったね!」
「それはそうだろう。弓美さんはずっとこの時を狙っていたのだからな」
すると、粉々に破壊された窓から二人の女が侵入してきた。
歳は僕と同じくらいで、武器は無し。軽い口調で話す方は薄い青色の髪をしたショートヘアー。
硬い口調の方は薄い赤の髪色をしており、軽い方と同じ髪型だ。
顔も似ているけど、双子か?
「自己紹介した方が良いと思う? 風花ちゃん?」
「必要無い。音羽、私達の任務に自己紹介は含まれていたか?」
「あ、そっかぁ。じゃあ……早速やろっか!」
二人の女はそれぞれ戦闘体勢に入る。
襲撃を受けた以上、僕達は後手に回ってしまった。ここで更に先手を取られると非常にまずいな。
せめて、先に攻撃を仕掛ける━━!
「ガァッ!!」
カエデを下がらせ、一気に距離を詰める。二人はその場から動く素振りすら見せない。行ける!
「……馬鹿が! フッ!」
「ッッ!?」
しかし、攻撃を仕掛ける瞬間に何かに圧され、壁へと叩き付けられた。
ダメージは少ないけど、何をされたか分からなかった……!
「速いねぇ、ちょっとびっくりしちゃった!」
反撃に戸惑う中、軽い方が近くまで寄っていた。
手を後ろで組み、まるで攻撃をしようとする意思を感じない。
でも、全身の毛が警告を発していた。この女は、何かヤバい。下手すると、もう一人の女よりも……!
「お返しだよ、耐えてね?」
にこりと笑うと、息を吸い込んだ。
胸部が僅かに膨らんでいき、体が少し仰け反っていく。
何をする気か分からないが、今なら━━!
「させるかっ! はぁっ!!」
立ち上がり爪を構え、袈裟に切り裂こうと腕を振り下ろす。
その刹那。僕の攻撃が入るよりも先に、女の口が大きく開いていた。
「『大不協和音』」
女から放たれた声は、僕の鼓膜を容易く突き破り……脳や臓器を激しく揺らした。壁にも激しい振動が伝わり、周りにある小物や家具が次々と倒れていく。
平衡感覚が失われ、その場にうつ伏せで倒れる。意識が朦朧とするが、強い吐き気と激しい頭痛が気絶をさせてはくれない。
「……、……?」
血と胃液の混ざった吐瀉物を口から吐き出してしまい、能力も解除された。
何か喋っているようだが、何も聞こえない。
声一つで、僕は立つことすら出来なくなっていた。
なんとか首を動かして、カエデがいた方向を見る。
カエデは僕から離れていたにも関わらず、同じように倒れていた。僕が、守らなきゃ行けなかったのに。
何も、出来なかった。
「……、……」
「……、……!」
二人は何やら会話をした後、カエデの方向に寄る。
殺す気か? させない、させたくない……! 何とか必死に右手を伸ばし、軽い方の足を掴む。
「……、……」
だが、もう一人の女が何らかの能力を発動させ……僕の右手首を切断した。
あまりの激痛と熱さに悲鳴を上げた。でも、それさえも聞こえない。
ごめん、リョーコ……みんな。
僕は、何も役に……立てなかっ……
……
……
━━━━
アキラが聞き取れなかった会話は上から順に
「あれ、もう倒れちゃった?」
「こっちは軽傷だ、先に殺すぞ」
「うん、わかった!」
「お前は後だ、邪魔をするな」
です。一応補足。




