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欲望の感染者  作者: 影山 コウ
知らない世界
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第十二話 腕試し

 あれから数日、誠と静が事務所へとやってきた。

 能力を自分で制御出来る様になり、今後について話し合う為だ。


「やぁ、誠君と静さん。とりあえず座ると良い」

「あ、はい」

「失礼……します」


 焔さんに言われた通りに、二人はソファーへと座る。

 焔さんは腕を組み、笑みを浮かべた。


「さて……あれからどうだい? 二人とも」


 焔さんからの問いに、二人は顔を見合わせた後に笑った。


「能力を自分の意思で操れるようになったので、生活に支障は出てません。本当に、皆さんには感謝しています。僕だけだと静を救えませんでしたから」

「頑張ったのはレイラ達さ。私は何もしていない。……さて、本題に入ろうか」


 焔さんは一色さんが用意したコーヒーを一口飲み、二人の目を見た。


「今後、君達はどうする? 能力に目覚めた以上、もうただの人間じゃなくなってしまった。私達としては、目の届く範囲に置いておきたい。だが、無理強いは出来ない。能力を持ったからと言って学生であることには変わり無いからね。どうする?」


 誠はしばらく俯いて黙り、少ししてから顔を上げた。


「正直な所、どちらとも言い切れません。助けて貰ったので力になりたいですが、静を危険な目に合わせたくもない。だから……定期的に力をお貸ししようかなと思います」

「定期的に、かい?」

「はい。僕と静が同時に時間が出来た場合に手伝おうかと思います。僕の能力の関係上、静がいないと十分な力を発揮出来ないのは分かりましたから。それに、恋人は自分で守ってこそだと思うので」

「ハハ、カッコいいじゃないか。……つまり、頻繁ではないがパトロールに参加をしてくれると?」

「はい。感染者(ディザイア)は数が少ないらしいと聞きましたし、僕らで良ければ力になりたいので。それに、静の様に苦しむ人を助けたいです」


 話を聞き終わり、焔さんは微笑んだ。


「では、そうしよう。能力持ちが増えるのは本当に助かる。君達の生活を最優先で、たまに来てくれるだけでもありがたいよ。これからよろしく、誠、静」

「はい!」

「よ、よろしくお願いします!」


 *


「この間は本当にありがとう。レイラ、大神さん」


 二人を駅まで送る途中で、いきなり頭を深々と下げて感謝された。気にすることはないのに、律儀な奴だな。


「気にするなよ。仕事だし、困ったときはなんとやらだ」

「そうだよ。むしろ感謝したいくらいさ。シズカを救ったのはマコトなんだからね?」


 そうこちらが言うと、誠は照れ臭そうに笑う。


 ━━あの後、静の口から全てが俺達に伝えられた。

 昔、男に強姦されかけた事。それがきっかけで男性不信に陥った事。そして、誠に知られたくないが為に話さなかったこと。

 それを聞いたとき、誠は涙を流していた。


「ごめん。気付けなかった。大切な人が辛い目に会っていたのに、僕は何も出来なかった……」


 後悔を含んだその言葉に、静は優しく笑った。


「ううん、違うよ。誠がいつも側にいてくれたから、私は立ち直れたんだ。話さなかったのは私の我が儘。こっちこそ、ゴメンね」

「静……」


 こうして全てを話し終えた二人は、恋人となった。


 そして今に至る。だが、良いことばかりでは無かった。


「……シズカ。君を唆した二人組に見覚えは無いんだよね?」

「うん。綺麗な女の人と、私を襲った男と同じ顔の男。でも、今思い出してみれば体型とか違ったから別人なのかも……」


 メンタルが不安定だった静に、トドメと言わんばかりに静を刺激した二人組。能力について知っているような口振りから、まず間違いなく感染者だろう。


「また連絡するよ。僕達も必ず力になる。約束するよ」

「私も……この能力を使いこなして、皆さんを守れるように頑張ります!」


 やがて駅につき、誠と静はこちらに手を差し出した。

 俺とアキラはそれに応え、手を握る。


「ああ! これから頑張ろう」

「バイバイ。待ってるよ」


 そして、二人は手を振りながら駅へと入っていった。


「レイラ。シズカの話、どう思う?」


 歩きながら、アキラは真剣な眼差しでこちらを見た。


「どうもこうも、怪しすぎる。事前に静の事を調べて寄ってきたとかよ」

「だよね」


 アキラは頷く。

 件の爆弾男と言い、何かおかしい。能力者を意図的に増やそうとしている連中がいるのかもしれない。


「いい加減、リョーコにも聞かないとね。明らかにおかしいよ。感染者の数も増えてる。去年と比べても倍以上だ」

「倍!? そんなこと有り得るのか?」

「有り得ないから怪しいんだよ。感染してもよっぽどな事が無い限りは能力に目覚めない。殆どがそこで止まるんだ。だから毎年、見つかる感染者の数はほぼ変わらない」


 と、アキラは眉を潜める。

 この街で、何かが起きているのか?


 *


「━━もう、黙っている事も出来ないか」

「やっぱり……何か、知ってるんだね?」


 事務所に戻って焔さんに問い質すと、あっさりと話してくれた。横にいた一色さんも様子がおかしかったので、一色さんも何か知っていたのか。


「楓。あれを」

「はい」


 焔さんがそう言うと、一色さんは本棚から一枚の手紙を取り出した。

 そこに書かれていた文章は……とても信じられないものだった。


「『我々は感染者解放団体(リベレイション)。神に逆らう愚か者共を、力を持って殲滅する』……? 何ですか、これ」

「所謂、犯行声明だ。この国の()()()達に送られた物でね。これはコピーだが」

「でも……ちょっと幼稚だよね。イタズラに見えるけど」


 呆れたように手紙を見るアキラに、焔さんは息を付く。


「我々もそう思ったさ。あの事件が起きるまではね」

「事件……ですか?」


 焔さんは俺の顔を見て、言った。


「……君の両親を殺したあの連続殺害事件。あの現場に、これと同じ手紙が落ちていた」

「な……!?」


 もしそれが本当ならこの手紙を送った奴か、もしくはその仲間が……俺の両親を殺した犯人ってことになる。

 堪えきれない怒りで、体が暑くなってくる。


「それだけじゃありません。感染者が現れ始めてから起きた様々な事件や事故。その現場にも同じように手紙が落ちていました」

「イタズラにしちゃ、手が込みすぎてるね。つまり、その事件や事故にはそいつらが関わってるかもってことか」

「アキラちゃんの言う通りです。その事件や事故も不審な点が多くあり、警察もはっきりとした原因が分かっていませんでしたから」


 と一色さんは言う。

 能力を使って各地で暴れてたってことか。許せない。

 今すぐにでも、犯人を倒してやりたい……!


「レイラ」

「っ!」


 不意に焔さんから肩を叩かれ、焔さんの顔を見る。

 いつになく真剣な表情が、俺を緊張させた。


「落ち着け。君の怒りはごもっともだが、レイラ一人が動いてどうにかなる相手じゃない」

「それは……そうかもですが……」

「……もうすぐ、私達の仲間である迅太郎(じんたろう)も戻ってくる。動くとするなら、その後だ。今は、じっと堪えろ。だが必ず、奴等は止める。私達の使命の一つだからね」

「……はい、分かりました」


 優しい声色でそう告げられ、何も言えなくなってしまう。

 俺はまだ弱い。アキラのサポートが無ければ、まだまだ未熟だ。だからこそ悔しい。

 やっと見付けた犯人の背中に、俺一人では触ることすら出来ないんだ。


「で、実際これからどうするのさ。リョーコ」


 暫く続いた静寂に耐えかねたのか、アキラが口を開く。


「仕事はいつも通りに。だがもし、奴等と思わしき連中を見付けたら連絡を。奴等は強いからね。二人で闇雲に動いてはダメだ」

「強いかどうかは分からないんじゃないの? そりゃ感染者が何人もいるってのは脅威だけど、一人二人なら僕とレイラでも倒せるかもよ?」

「いや、ダメだ。私と遠阪君で実際戦ったからね。二人がかりで一人を倒すのがやっとさ」

「……気に入らないなぁ。僕達はリョーコが思ってるほど弱くはないと思うけど? その言い方じゃあ、リョーコ達は倒せても僕達じゃ勝てないって言ってるようなものじゃん?」


 珍しくアキラは不機嫌らしく、焔さんに突っ掛かる。


「お、おいアキラ。失礼だろ」

「僕達は仲間なんだろ? 少しくらい、信用してくれても良いじゃないか」


 俺の制止も振り切り、アキラは焔さんの前に立つ。

 焔さんは目を瞑っていたが……ため息と共に目を開いた。


「……言っても聞いてはくれないか。ならば、試してみるか?」

「へぇ?」

「二人で私と戦い、私に力を示してみろ。もし私に勝つことが出来れば、先程の発言を撤回しよう。勿論、アキラの要求も甘んじて受け入れる」

「良いじゃん。乗った。昔の僕とは違うんだよ?」


 二人は睨み合い、一触即発と言った雰囲気だ。なんでこうなる。俺はそんなつもりは無かったのに。


「楓。悪いが━━」

「━━地下を使うんですね。分かりましたよ。はー、二人とも子供なんだから……」


 一色さんは呆れたように笑いながら、奥の部屋へと入っていく。

 焔さんは一色さんの後ろを歩きだしたので、俺達も着いていく。


「おいアキラ。なんでそんなに喧嘩腰なんだよ?」

「……さっきも言ったろ、気に入らないからだよ。今の今まで、こんな大事なことを黙ってたんだ。仲間なのにさ。認めさせてやるのさ、僕とレイラは、何時までもリョーコに守られてばかりじゃないって事を」

「ったく……。ほんっとに子供だな……」

「うるさいなぁ。嫌ならレイラはやらなくても良いんだよ? リョーコはああ言ってたけど、これは僕の我が儘なんだからさ」


 と提案されるが、断った。


「いや、やるよ。今の俺が何処まで戦えるか、試したいってのはあるからな」

「ふーん? なんだ、レイラも乗り気じゃんか」

「……不本意ながら、な」


 アキラは無邪気に笑う。

 そうこうしている内に、一色の足が止まった。その眼前には、エレベーターの入り口が見えた。


「さ、行きましょう。整備はしてありますし、問題なく使えるかと」

「ああ」


 入り口が開き、全員が入っていく。前に一色さんから地下の存在については聞いた事がある。

 このビル全体が感染者対策支部の所有物であり、この事務所以外は全てダミー。見た目だけの存在だ。何故そんなことをするのかと訪ねたところ


「対策支部の存在を、悪い感染者から隠すためですよ」


 と、言われた。


 そして今向かっている地下は、能力を持つ俺達が安全に力試しをするための施設だという。

 実際に見るのは初めてだ。


 やがてエレベーターは最下層まで降り、扉が開く。

 その先には、不気味なほど白く大きな部屋が拡がっていた。


「ここが、仮想戦闘訓練室……ですか」

「そうだ、レイラ。この部屋に入った瞬間、あらゆるダメージが無効となる。どんな事をしても、な」


 そう焔さんは話す。続いて一色さんが話を始めた。


「お気付きでしょうが、この部屋そのものが感染者による能力です。本部に所属している作田(さくだ)という方が作ったもの。能力名は『仮想世界(ゲームメイク)』。ゲームの世界を現実に作り出す能力ですね」

「め、めちゃくちゃ凄くないですか、それ。戦闘でも相当強いんじゃ……」

「いえ、この空間一つ作るのに一週間程掛かる上、作り出した世界は作田さん本人にも平等にルールが課せられます。例えばこの部屋だとお互いにダメージが無効で、瀕死相当のダメージを受けると暫く動けなくなります」


 なるほど。仮に敵をこの部屋に誘きだしたとしても、戦闘が終わらないだけでメリットもデメリットも無いのか。

 言わばこの部屋は格闘ゲームにおけるトレーニングモードの様な物って事なのか?


「さ、話は良いだろう。説明した通り、瀕死相当のダメージを与えた方が勝ちだ。アキラはともかく、レイラには少し早い訓練になってしまったかな?」

「早い……ですか?」

「うん。支部に入って三ヶ月程経過したら私と手合わせする決まりになってるんだ。でもまだレイラは一ヶ月と少ししか経ってない。でも、アキラと組むのだから丁度良いだろう」


 そう言って、焔さんは手袋を整える。

 ……怒っているのかと思っていたが、何だか楽しそうに見える。期待されているのかは知らないが、こうなったら全力でやるしかない。


「さ、レイラ! 気張りなよ。リョーコは強いからね」

「ああ。やるからには勝ってやるさ」


 アキラも気合い十分な様だ。


「━━見せてみろ、レイラ! アキラ!」


 焔さんから凄まじい熱を感じた瞬間、戦いが始まった。


 ━━この時はまだ、勝てる可能性を信じていた。

 この時までは。






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