第百九話 最高戦力 最高傑作
「見ない顔……やね。組織の人なんはわかるけど」
オフィス街を歩いていた重は、銀色の髪をした女性を見付けてその場に立ち止まった。
すぐにインカムで蒼貞に連絡をしようとするが、音が乱れて聞こえなかった。
「……はっ、ジャミングかい。アンタの仕業か?」
「私ですか? いえ、違いますよ。そんなくだらない能力、いりませんから」
「……?」
銀髪の女が言った言葉に少しの違和感を感じつつも、重は懐から武器である紐を取り出す。特殊な糸で作られた頑丈な紐であり、切断はおろか燃やすことも難しい代物だ。
「ほんじゃ、やろうや。アンタの名前は?」
「加集華凜と申します」
「加集さんか。おーきに。悪いけど……瞬殺で行かせて貰うで」
重は武器を構え、能力を発動する。
「『NN/SS』」
「っ!」
重の半径十メートルに重さがのしかかる。建物は自重でひしゃげ、加集は膝をつく。
「重いやろ? 数百キロくらいの仮想の重さが全身に乗っかってる筈や。勿論ボクらは能力者やし脱出は可能やろうけど……その前にどつかせて貰うで」
重はゆっくりと加集に近付き、近付くごとに重さが増していく。
だが、加集の浮かべた表情は……笑顔だった。
「━━『異能収集家』『プレイリスト4』」
「は?」
瞬間。加集から凄まじい爆風が放たれ、重は後ろへ大きく吹き飛ばされる。
受け身は取るものの、何が起きたのかわからず困惑する。
「……私、音楽が好きなんですよ。好きなアーティストで固めたり、気分によって曲をカテゴライズしたりしてプレイリストを作るでしょう?」
煙が晴れ、重が加集を見ると……加集の両の耳元にイヤホンが装着されていた。
耳から後頭部にかけて繋がっており、見た目は骨伝導イヤホンのようだった。
「私の力はそれと同じですよ。集めた楽曲をプレイリストとしていくつかに分けるんです。今使った『プレイリスト4』には遠距離攻撃系の能力が纏めてありまして。さっきの曲名は『自己中心的爆弾』。自分を中心にし爆発を起こす能力です」
「……ベラベラとよう喋るのぉ。そんなに手の内明かしてええんか?」
「構いませんよ。たった一つだけですし」
加集は笑顔を崩さず、手を前方に構える。
「お次はこの曲をどうぞ? 『針山地獄』」
加集を中心として全方位に大量のトゲが大量に地面から突き出す。
「ちっ! オラァ!!」
重は武器に重さを加え、生えたトゲを一気に薙ぎ払う。
トゲは大した速度ではなく、重は問題なく対処出来たが
加集の攻撃はまだ止まない。
「やれやれ、欲しがりですねぇ。ではでは、次はこの曲を! 『落ちる星屑』!」
矢継ぎ早に放たれた次の能力は、上空から襲い掛かる無数の隕石だった。
「くそ! キリがないやんけ!」
重は再び能力を発動させ、自身に近付く隕石に重さを加えて自分に当たる前に地面へと撃ち落としていく。
飛び道具の殆どは重に通用しない。が、防御のために能力を使っていては相手に接近することができない。
「粘りますねぇ。流石は蒼貞さんの部下。ですが、いつまで続くでしょうか?」
「ちぃ……!」
不敵な笑みと共に、再び加集は能力を発動しようとする。
その時だった。
「━━『バン』!」
「うっ!?」
人の声で発せられた銃の発砲音。それが聞こえた瞬間に加集は後ろへ吹き飛ばされた。
重が何が起きたか状況を見ていると、その傍らに女性が降り立った。
「お困りのようね、トオル君」
「━━音無さん!」
女性の正体は蒼貞の支部のNo.3……音無だった。
「お相手はどんな感じかしら?」
「多分コピー系の能力。プレイリスト? と称して能力のジャンルごとに切り替えてるっぽい。いくつ能力を持ってるかは不明ですけど……今のところ大した能力は見てません。……が、怖いのは」
「コピーなのか奪っているのかが分からない。そんなところかしらね?」
「ご明察。おまけにその条件もわかりません。接近戦はちと怖いかもですねぇ」
二人が話している内に、加集はゆっくりと立ち上がり口に溜まった血を吐き捨てた。
「……やれやれ、とんだご挨拶ですね。二対一ですか」
「貴女一人に二人もなんて勿体無いけど、仕方ないわね」
「勿体無い? 足りないの間違いでは?」
「言うわねぇ」
加集はイヤホンを触り、プレイリストを切り替える。
「『プレイリスト5』。先程より少々荒っぽい曲です。耐えられますかねぇ?」
※
「━━くそっ! 焔さん、大丈夫かよ……!」
焔が空中で撃墜されたのを見て、その落下地点へと急ぐレイラ。
なるべく大通りを避け遠回りで向かっているため時間が掛かっていた。
「みんなと連絡が取れねぇし……ジャミングされてやがんな……」
インカムを何度もさわるが、反応はなし。焔と同じように空中に行く手も考えたが風使いがいる以上、分が悪いと判断した。
━━急げ、いつもと違うんだこの戦いは……! 焔さんだって楽勝とは行かない筈だ!
曲がり角に入り、周囲を警戒しながら足を進めると
「え━━」
前方に、少女が見えた。
透き通るような白い肌、漆を思わせる黒色の長い髪。
そして、見られると凍り付くような……冷たく蒼い大きな瞳。
戦場には不釣り合いなほど━━美しい少女がそこに立っていた。
「迷子、か?」
レイラは立ち止まり、恐る恐る話しかける。
「━━迷子? 違うよ」
少女は無表情のまま、レイラへと少しずつ向かってくる。
「じゃあ、君は……」
少女はその場で立ち止まり、優しく微笑んだ。
「君たちの━━敵だよ」
少女の身体から、無数のトゲが吹き出した。
「なっ!? ぐあっ!!」
完全に隙を突かれ、肩にトゲが突き刺さった。
その威力に押され大きく後ろへと吹き飛ばされる。
「て、てめぇ……! 誰なんだ!」
「誰? そうだなぁ……『ドライ』って呼ばれてたけど……その呼び名嫌いなんだ」
少女は髪をかき上げ、不適に笑う。
「『パンドラ』。僕こそが最後のキメラにして……最高傑作さ」




