賑やかな離郷
「なんだそれは!」
驚いたような怒ったような声で、アウリスから城での一部始終を聞いたロキは少し期待してたとかなんとかブツブツつぶやいている。
「カイゼ」
ベッドから立ち上がって皆を迎えたカイゼに、労るような声でフェリスが歩み寄る。まだ動くと傷が痛むようだが、ゆっくりフェリスに近付くとそのまま抱き締める。
「フェリス、ありがとうな。おかげでみんな無事だ」
その言葉にフェリスの涙が頬を伝う。唯一の友だと言える存在から拒絶された時は何も考えられなくなった程だった。そんなカイゼの言葉に制御出来ないくらいに心が揺さぶられてしまった。かつて憧れた騎士団という空ではついには羽ばたけなかった。だがこれで良かった。大切なものを失わずに済んだと、心の底から思えたのだった。
「カイゼ、俺はノーブリアから出ていく。」
「なっ、なんでだよ!まさか、騎士団に戻るのか」
「いや、騎士団にはもう戻らない。兄上から申し渡された。赦されることはないかもしれないが、もしもがあればまた戻ってくるさ。元気でな」
そう言ってカイゼの肩を叩いたフェリスは振り返って歩きだす。
「おい、もう行くのか?」
「兄上はやると言ったらやる人だ。のんびりしてたら捕まるぞ?」
「マジかよ!やべえな、急げ!」
無駄にあたふたと動き回るライの横では恨み節をつぶやきながら旅支度を整えるロキがいた。
「僕たちも行こうか!」
「そうだね」
ロキの手伝いを終えたアウリスとジンが立ち上がる頃には、フェリスはドアノブに手をかけている。
「フェリス、またな!」
「ああ」
カイゼに後ろ姿で軽く手を振ったフェリスはそのまま出ていく。
「おい!勝手に行くな!俺らが捕まるだろ!」
「じゃあねカイゼ」
慌てて出ていくライを追い掛けるようにバタバタと出ていくと、呆気に取られたようにカイゼが肩をすくめる。
それにしてもフェリスのやつ、いい顔してたな
久しぶりに会った時からつらそうな顔ばかりしてたことを思って、カイゼも心が晴れていくのだった。
振り向きもせず前に進み続けるフェリスをライが呼びかけては素っ気なく返されている。そんな様子を面白そうに見ていたアウリスだが。
何か忘れてるような…
思い出せそうで思い出せずにモヤモヤしていたその時。
「がーーーいーーーーせーーーーんーーー!」
空高くから落ちてくるヴァルオスがそのままアウリスの顔にダイブした。
「うがっ!」
その後くるりと回転して見事な着地をするヴァルオスは、かなりのドヤっぷりで皆を見渡す。それにはさすがのフェリスも無視出来ずに頬を染めている。
「フハハハ!出迎えご苦労!生意気な小僧を軽くひねってきてやったぞ!なので酒だ!乾杯しに行くぞー!」
「おい、デカイ声でしゃべるんじゃねえ!」
「何を言うか!我は仕事を頑張ったのだ!ならば酒と肉だろう!よし!あの店に行くぞ!」
「だからしゃべんな!」
「相変わらずおま んんんんんんん!」
主張を続けるヴァルオスと激怒するロキの声に周囲の目が集まりだす。それに気付いたロキは、まだしゃべり続けようとするヴァルオスの口を手で塞いだのだった。
「悪いけどお店に行く時間はないかな。早くここから出ないとダメなんだ」
「んんんん んんんんんん!」
アウリスが優しくなだめるが、ヴァルオスはロキに口を掴まれて持ち上げられたままジタバタと暴れている。
「さあ、さっさと行くぞ」
そうして街の外壁から出ると、ようやくヴァルオスは解放されたのだった。暴れ疲れてややぐったりとしている。
「せっかく楽しみにしていたのだぞ。何故ダメなのだ」
アウリスから事情を聞いたヴァルオスは見下したいようだが逆に見上げている先に竜剣レイアがあった。
「原因はこのババあいたっ!」
ヴァルオスが言い終える前に凄まじい速度で、勝手に鞘から飛び出して一閃するとまた鞘に戻る。あまりの速さに防御が間に合わず、直撃を受けたヴァルオスは悶絶して転がっている。
「そういえばヴァルはなんで空から降ってきたの?」
「あたたたっ、それはあやつに送迎させておったのだが、途中で此処でいいでしょうなどとぬかしたのだ。まったく次に会った時は目にものを見せてやろうぞ」
ああ、メラゾフィアス‐ゴーネ‐ファルセラっていう竜?の人のことかな
この調子できっと困らせたんだろうなあ
「それより一体いつになったら酒を浴びるほど飲めるのだ!肉を食えるのだ!」
「確かに腹一杯肉食いてえな!フェリス、つぎの町まであとどれくらいだ?」
「フン、じきに見えてくる。お前達、いつまで付いてくるつもりだ」
「だってノーブリアからまだ出てないんだろ?だったら一緒でいいんじゃね?」
「フェリスよ、その町では何が食えるのだ?」
名前を呼ばれた事に驚いた様子でフェリスは丸くした目をしばたかせた。
「あっ、あの町では黒山羊を使った料理と葡萄酒で名を知られている…です」
「おお!よいではないか!」
フェリスの言葉を聞いて目を輝かせたヴァルオスは、突然フェリスの肩に飛び乗る。
「ふえっ!」
思いがけない急接近に変な声を出したフェリスは、顔を赤らめて緊張していたが、ヴァルオスは上機嫌で楽しみに思いを馳せていた。やがて遠目に町が見えてくると、皆の足取りは自然と軽くなるのであった。




