連行
「全員動くな」
カイゼの治療を開始した部屋にノーブリア兵が雪崩込んできた。フェリスとカイゼの同僚が迎撃の為に身構える。その状況を無視してロキは治療を続けた。
「おい!動くなと言っている」
「何だか知らねえがこいつの状態はヤバい。治療だけは続けさせろ」
制止の声を拒んで手を止めないロキに兵が近付くが、フェリスが間に立ち塞がる。
「用があるのは俺だけだろう」
「フェリス様…」
詰め寄った兵士は戸惑うが構わずフェリスが小隊長へ声をかける。
「君が隊長だな。状況はどうなっている?」
「第七騎士団は壊滅、ヴァインズ隊長と数名はリーナディアから出たと聞いております。現在は警備隊と連携して、事態の収拾に動いております。」
「そうか」
「……ご同行願います。」
「そうだな」
青い鎧を着用したフェリスは第七騎士団そのものであり、今回の件は決して許されるものではない。何人犠牲になったか分からないが、王国騎士団はノーブリアの民全てから恨まれるに違いない。フェリス自身も掲げた志とかけ離れた行いの責任は取らねばならない。どのような裁きも受け入れるつもりだ。
建物から出ると、壁にもたれて座り込んだライが歯を食いしばりながら立ち上がろうとしていた。
「フェリス、今助けるからな…」
思うように体が動かない様子だが、それでもどうにかしようと気力を振り絞るライに、フェリスは今さらながら感謝の想いが込み上げてきた。アウリスの事も気がかりだが、これ以上は自由に動けそうもない。
「巻き込んですまなかったな。カイゼを頼む。」
「おい、お前…」
ライの言葉の続きを聞くことなくフェリスは連れられて行くのだった。
「フェリス様をお連れしました」
フェンローナ城の謁見の間まで連行されると開かれた扉の向こう側へと送り出された。その先にはファラエルが玉座に座っていた。どういう訳か他には誰もおらず、広い空間に二人だけだった。
「憐れだな、これがお前の望んだ結果という訳だ。民を傷つけ正義とのたまう、英雄ごっこは楽しかったか?」
「弁明する気はない」
憧れていた騎士団に入り、弱きを助け正義の行いで民の希望になる。そんな存在になることを夢見た。父上を殺した目の前の男をいつか引き摺り下ろす為に努力も欠かさなかった。だが、結局何も成し得なかった。ちやほやと持てはやされて道を誤ったのだろうか。それともただ居心地の悪いこの地から逃げただけだったのだろうか。今さら考えても仕方のないことだがそんな思いがぐるぐる脳裏に巡ってしまう。
「フェリス、武器を取れ。愚弟の不始末は俺がつけてやろう。」
立ち上がったファラエルの手に淡く光る弓が現れる。ノーブリアに古くから伝わる星弓という技術である。
ブュン
いつ引いたか分からない程の手際で、フェリスの頬を掠めさせる。
「民を傷付けてまでして得た実力を見せてみろ。それとも弱い者にしか力を振るえないのか。」
「だまれ!そこまで言うのなら見せてやる。どうせなら父上の仇を取る」
背中にかけた弓を手に取り、素早く矢を番えて放つ。この距離ならば外さない必中の距離だが、フェリスの放った矢はファラエルの放つ矢に相殺された。
クッ 分かってはいたが強い
苦々しく思いながらも隙を伺う間に、追撃の矢が迫る。ファラエルの矢は氣力が続く限り尽きることがない。対してフェリスは星弓を習得出来ていないため、攻撃出来るのは矢筒に残った9本だけだ。
「未だに星弓が使えないとはな。お前は今まで何をしていた。」
「うるさい!その口を閉じろ」
戦闘開始時の立ち位置からさほど動いていないファラエルには余裕が感じられる。それがまた、フェリスの神経を逆なでさせる。狙いをつけさせないように動き回るが、確実に矢が飛んでくる。弓のガードで弾きながら反撃する。放った瞬間、手応えを感じたがファラエルは飛んでくる矢を手で掴み、体を翻しながらそのまま
その矢を放つ。
バカな!
驚いた分、反応が遅れてギリギリの所をローリングで回避するが、予測したかのように弾道を曲げて左足を貫かれる。
隙が出来てしまう前に、素早く矢を3本番えて不可避の攻撃を仕掛けるが、同じく3本の星弓の矢で相殺されていまう。だが、ここで決めようと息をもつかせぬ連撃を仕掛ける。
「まだだ!」
いよいよ最後の1本となり、全力で振り絞った矢がファラエルの矢に相殺されると、フェリスは膝から崩れ、倒れる前に肩と腕を貫かれて後方に弾き飛ばされた。
「ハァハァ…俺は何故こうも弱い…」
呼吸も荒く、立ち上がる事も億劫になるが最後ならばと意地を見せる。
せめて星弓が使えてたなら…
星弓はノーブリアの先人達が編み出した技術ではあるが、誰しもが使える訳ではなかった。たゆまぬ努力と修練を重ねて、さらに持って生まれた物が必要であった。実際に現在でも使える者は数人でしかない。使えなくて当たり前とされるが、使えるのと使えないのでは隔絶した差が生まれるのであった。
「こんなものか、思った通りにそれほどでもなかったな」
ファラエルがこれで終わりとばかりにゆっくりと弓を構える。
「うぉぉぉぉぉ!」
フェリスが雄叫びをあげる。騎士団員だった自分や目の前の男の弟である自分、民からフェリス様と呼ばれた自分全てを捨てるかのように声をあげて素手で弓を構えるように手を動かした時にそれは起きた。
淡く光る弓と矢が手の中に顕現すると、ファラエルに向けて解き放つ。その光景に目を見開き迎え撃つが、相殺しきれなかった矢がファラエルの肩を掠めた。だが、その一撃で弓が砕けたように消え去り、次に現れることはなかった。
「ハァハァ、俺にも星弓が…ハハ…」
ほんのわずかだが一矢報いたような気がして、フェリスの表情は晴れやかになった。もう思い残すことはないと自嘲する。そんなフェリスに向けてファラエルが最後の矢を構える。強い殺気を肌で感じてフェリスは目を閉じた。




