第14話
長い。普段の倍くらい。
母さんたちを待つ間暇になってしまった俺は、取りあえず本を読むことに。部屋に戻って本をとって、ダイニングに戻ってきた。剣術の本があと十数ページ残っているのだ。
その本を読み進め、読み終わったすぐ後にネルアが風呂から出てダイニングへと戻ってきた。
「あれ?お兄ちゃん?お父さんのは終わったんだ。ていうか何読んでるの?あ、分かった。この間のニートのやつだ。」
「違うわ!」
俺は本の表題を指さして違うと主張する。あの本は俺は読んでなんかいない。確かに働く、かぁ。めんどくさいなぁ、とか思った時もあったけども!俺は決してあんな奴を目指しているわけではないのだ。
「それよりも、ネルア、父さんの目が覚めた。」
「うそ!?ホントに!?」
「ああ。今は母さんが話してて、父さんがなんでも2人で話したいんだとさ。だから、今すぐ会いたい気持ちはわかるが、父さんの部屋にダッシュしようとするのはやめなさい。」
ネルアは予想してた通り今にも走り出そうとしていた。
「そっかぁ。早く話し終わらないかなー」
「ネルアもたくさん父さんの世話手伝ってくれたからな。ほんとに助かったよ。」
「まぁねぇ。私もお父さんには元気になって欲しいし。またみんなでピクニック行ったり、みんなでご飯食べたり、みんなで遊んだり、みんなで畑作業したい。」
「そうだな。」
と、ネルアとしゃべっていると、母さんが戻ってきた。ネルアはそれを見ると、「私行ってくる!」と言って走り去っていってしまった。
入れ違いになって戻ってきた母さんは、
「あらあら。まあでも、お父さんもこれは読んでたみたいね。ネルアと話すから、エルディアはもう少し待っててくれ、ってお父さんが。」
「そうか。」
父さんと母さんがどんな話をしたかは気になる。心なしか、母さんの表情は暗い気もするし、、、でも、父さんは二人で話したいって言ってた。俺らには話しにくいことだろう。なら、俺も無理に聞き出す必要はあるまい。
「エルディアは最近本読むようになったのね。」
母さんが俺が手に持った本を見て話してくる。
「ああ。今まで読まずに敬遠してたけど、読んでみると意外といいなって思って。」
「でしょう?もしあなたがこのままこの街を出て働くなら、いくつか持って行ってもいいわよ。」
「本当か!?まだ2冊目だけど、結構書斎に気になってる本あったから助かる!といっても、この街から出ていくかもわからないけどな。」
「フフッ。まだ働くイメージがわかないかしら。」
「まあな。」
「もう明後日には17歳なのに。大丈夫かしら。」
「本当にどうしたものか、、、」
「でも、これからお父さんがするのも、多分そういう感じの話になると思うわよ。」
「そうなのか?」
「ええ。まあ、実際に聞いたわけじゃないから分からないのだけれどね。でも、出会ってから長いし、やっぱり何となくそういうのは分かるのよ。」
「なら相談させてもらうとするかな。とはいえ、そんなこと話せるだけの体力父さんにあるのか?さっきも相当大変そうだったけど。」
「そうね、、お父さんも大変だと思うわよ。でも、今日、ちゃんと聞いておくの。もう時間もないんだし、ちゃんと話して、ちゃんと考えないと後悔することになっちゃうわよ。」
「まあ明後日だもんな。とはいえ、しばらくは、少なくとも父さんが体調が戻るまでは俺もここにいるつもりだけど、、、」
「そう。後悔だけはしないようにね。でも、まあいいわ。なるようになるでしょうしね。それで?最近エルディアは何を読んでるのかしら?」
「今読んでるのは、、」
母さんに読んでる本の話をすると、魔法の勉強もしておいた方がいいわよなんて言われた。
使える素質があれば知っておくほうがいいし、使えなくても、魔法を受ける立場になることもあるわけだから、知識は持っておいた方がいい、と。なるほどそれはその通り。ちょうど剣術の本は読み終わったし、今日の夜には魔法の本を読んでみることにしよう。
と、そんなことを母さんと話しているうちにネルアが戻ってきた。と、そのままダイニングの方へ来ることなく、自室の方へと走り去ってしまった。
「ネルア?おい、ネルア―?どうしたんだあいつ?」
「あらあら。仕方ないわね。私がネルアちゃんのところに行くわ。エルディア、あなたはお父さんのところに行って話してきなさい。」
「ああ。分かった。」
「さっき言ったことは忘れないでね。良い?」
「ああ、分かった、、、」
ってさっき言ったことってなんだ?
「そう、それじゃあ」
、、母さんが行ってしまった。
さっき言ってたことって、、、どれのことだ。
まあいいや。なるようになるだろ。うん。
そういうわけで俺は父さんの部屋に行き、ノックし、中に入る。
「父さん、調子はどうだ?」
「ああ、あまりよくはないね。」
「ほんとに無理するなよー。父さんには元気になってもらわなきゃなんだから。」
「、、」
「てか、ネルアがなんか自分の部屋に走ってったけど、何かあったのか?」
「そうだね。ネルアには言うつもりはなかったんだけど、母さんに似てあの子は聡い子だよ。まあ、それは置いておいてだ。エルディア、お前は今後どうするか、決めたのか?もう明後日には誕生日なんだろう?」
「いや、まだ迷ってる、というか、やっぱ急に何かを変える気にはなれないな。というか、父さんが良くなるまでは少なくとも何も変えないつもりだな。」
「そうか。なら、父さんから提案と、お願いがあるんだ。」
「なんだ?お願いって。父さんからの頼み事なんて初めてだな。なんだよ?」
「そうだね。てまずは提案の方から話すんだけど、前に父さんは、冒険者について色々話したよな?」
「ああ。よく考えろって言われたな。いろんな危険も伴うから、って」
「そうだ。それで、今も父さんはお前は危険なことに首を突っ込む必要は別にないと思ってる。それは、お前も父さんが守りたい人間の一人だからだ。」
「お、おう、、。まっすぐ言われるとちょっと照れるけど、、、」
「だから、あの時の剣を振ったりスライムを倒したりしたのはいい思い出っていうので終わって欲しいって気持ちはあるままだ。だけども、俺はあえてそれと真逆のことを提案する。お前、冒険者にならないか?冒険者になって、父さんみたいに、強くなるんだ。」
「それはどうして?父さんの思いとは逆のことなのに、なんで提案しようと思ったんだ?」
「そうだな。ここからは父さんのお願いって話にもなるんだが、、、。父さんがあの日から5日、目が覚めなかったってのは母さんから聞いた。それで、今日ようやく目が覚めたわけだが、それから1時間くらい経って、今なお回復どころか、どんどん悪化していっている。父さんには、それがすごく分かるんだ。まあ、自分の体のことだから当然だけどな。それで、今もかなり無理して起きてるわけだが、、、」
「いや、ならさっさと寝ろよ!それで手遅れになったら目も当てられねぇよ!」
「いや、エルディア、話を聞いてほしい。今も無理して起きてるわけだけども、もしこのまま眠ったら、次いつ目が覚めるかもわからない。もしかすると、そのままもう二度と目が覚めることはないかもしれない。少なくとも俺の体は今そのくらいに悲鳴を上げている。
それで、だ。父さんがこうなった原因の男の子。父さんがなんでこうまでしてあの子と関わったか。それは、あの子が探していたのが、母さんだったからだ。」
「母さん!?でや、でも父さんはそんなこと一言も、、、!」
「まあそうだね。最悪、そんなこと言ったらエルディアは後をつけてきて、巻き込まれてしまうかもしれないと思ったからね。それに、知り合い、って言ったんだから別に間違っているわけではないだろう?知り合いってのは知っている人間って意味だ。母さんだって、父さんが知っている人間の一人だろう。」
「そ、そんなのは屁理屈って言うんだ!」
「それでいくなら、エルディアだって、父さんがこうなるっていう予知夢を見たのがネルアだってこと、秘密にしてただろう?」
「ネルアに聞いたのか?」
「いや、簡単なことだよ。あの土日にエルディアが会ったのは父さんと母さんとネルアしかいない。父さんにはそんな力ないし、母さんにもそんな力があるなんて聞いてない。その上、ネルアは数日前に怖い夢を見たといって寝れなくなっていた。予知といえば予知夢が一番よくある方法だろう。夢って部分でネルアの状態と共通してたからね。さっき聞いたら、ネルアもそうだって言ってたよ。」
「それは悪かったけど、、、。っていうか、すっかり流してたけど、そいつが狙っているのって、母さんなのか!?」
「ああ。母さんだ。だから父さんも引くわけにはいかなかった。その子は最後にうまくだませたから今はもうこの街にはいない。少なくとも、その子と出会った時、もう次の街へ行く格好だったからね。あれから5日経ってるならもういなくなってるのは間違いないだろう。」
「それはいい知らせではあるけど、、、いや、悪い知らせか?それだと、そいつに父さんのを解かせられないってことじゃないか!いや、でも母さんが狙われてるならそもそも家に招くわけには、、、。てかそもそもなんで母さんが狙われるんだ!普通に暮らしてるだけじゃないか!」
「母さんは話さないでほしいと言っていたから、詳しいことは言わないけど、母さん、昔はある界隈でちょっとした有名人でな。その界隈にいる人間なら知らない人はいないって言うレベルでだ。だからそもそも狙おうなんて人はほぼいないけれども、一部のヤツからは十分狙われる理由ってのはあるんだ。父さんはそんな母さんを守るために強くなろうと思ったんだ。」
「そう、、なのか。」
「それでだ。ここまで話した上で最初の話に戻るわけだけど、父さんはこの先母さんを守っていくことができない。だから、父さんからエルディアへの、最初で最後のお願いだ。エルディア、冒険者になって、強くなって、そして、母さんやネルア、それから、お前自身を守ってやってくれ。お前には強くなる素質がある。これは、父さんと母さんが自信を持って言える。父さんと、それに何といっても母さんの子なんだから。だから、強く、強く、誰よりも強くなって、お前が父さんの大切な人を、父さんが最後まで守れなかったものを守って欲しい。」
「、、、、」
正直、圧倒された。
普段のふざけている姿からは想像もできない、その本気な姿に。体がとんでもなく悲鳴を上げているはずの今の姿からは想像もできない、その力強い声に。そして普段の、誰よりも率先して、自分が家族を守ると自信満々に話す姿からは想像もできないその震える声に。
「分かった。」
何も考えられず、ふと口をついて出た言葉はたったの一言だった。
こんなの、卑怯だ。こんな一生に一度のお願いがあってたまるか。こんなの、断れるわけがないじゃないか。
「ありがとう。これで、父さんも安心できる。エルディア、最後まで守ってやれなくてごめんな。父さんは、まだまだ弱かったみたいだ。」
そんなはずがない。父さんが弱かったなんて、そんなことは絶対にない。こんなに体を張って、家族のために家族のためにって動ける人なんて、そうそういない。力が全てじゃない。強さっていうのは力だけじゃないって教えてくれたのは父さんだろ、、、!父さんが力でどうこうするんじゃなくて、その力の部分を隠し続けて、でもすべてをうまく収めてきたからこそ、だから、、俺も父さんにあこがれたし、父さんみたいになりたい、父さんみたいになれるかなって思えたんじゃないか!そんな弱くて強そうで、軽薄で誠実で、頼りなさそうで誰よりも頼りになる父さんだからこそ、きっとネルアも母さんも、そして俺も。
「父さんのことが大好きなんだよ!!!」
父さんが驚いた表情をしてる。いきなりすぎて驚いているのか。
言葉はどんどん湧いてくるのに、上手く出てこない。
「だから、そんな自分を下げるようなこと、言わないでほしい。」
「、、、。そうだな。それもそうか。」
言葉にはしていないのに、その想いはちゃんと伝わったとでも言うかのように父さんはゆっくりうなずいて、そして優しい笑顔でそう言った。
「それにだ。父さんは自分が死ぬ前提で話してるけど、俺も母さんも、それにネルアだって、絶対にあきらめないから。父さんの本当の最後の瞬間まで、方法を探し続ける。だから、父さんも抗ってほしい。酷なこと言ってるかもしれない。でも、父さんのお願いも聞くんだ。父さんも俺のお願いを聞いて欲しい。」
父さんはその言葉に目を丸くして笑う。
「ハッハッハ、これは一本取られたな。ああ。じゃあお互いにお願い事だ。父さんは最後まで精いっぱい生きる。エルディアは冒険者になって強くなる。約束だ。」
「ああ。」
俺と父さんは指切りをして笑い合った。この苦しい状況の中で、つらい想いを心に仕舞い込んで、決して表には出さないように。
それから、俺はネルアの部屋へと向かい、ネルアと母さんを連れて父さんの部屋に戻った。父さんが4人で話したいといったのだ。父さんとああ約束はしたものの、父さんはやはりもう半分あきらめているようにも見える。俺は認めたくなんかない。それでも、後悔だけはしないように。母さんのその言葉を思い出してしまい、父さんの言うようにみんなを呼びに行くことにした。
ネルアはさっきまで泣いていたが、母さんに色々とぶちまけて、今は泣き止んでいるようだ。父さんは隠すつもりだったって言ってたのは、父さんの残り時間がもう少ないって事だろう。俺だって、声を荒げたりしながらも涙があふれてきていたし、本当に父さんが死んでしまったら、すぐに立ち直れなんかしない。そんな話を聞かされたネルアが泣くのも当然だろう。気持ちの整理なんかつけようがない。まだ9歳なのだ。ふと母さんを見ると、母さんの顔にもほんのりと涙の跡が残っていた。最後まで抗ってやらなきゃな。
とにかく、俺たちは3人で父さんの部屋に行き、4人でいろいろなことを話した。この5日間のこと、昔父さんと遊んだ時のこと、母さんと父さんが出会った時のこと、俺が初めて生まれたときのこと。父さんの冒険者時代の話に、魔法や魔物について。それに、学校ってものについて。父さんは冒険者時代に学校に通っていたこともあったらしい。こうして話を聞いてると、俺は父さんのことも、母さんのことも、この街の外のことも、何もかも、知らないことだらけなんだなって思う。
冒険者になったら、いろんな国を旅してまわって、いろいろなものを目にしてみたいな、なんて思った。
その後も4人で日をまたいでも話し続けて、結局そのまま父さんの部屋で、ネルアが寝落ちしてしまうまで話は終わることはなかった。
ちーす。つむぎんこと綴莉紡だよ。
今回、長くなったけど、この回だけはちゃんとしたかったんだよな。
エルディアの父、エルドランにスポットライトを当てた回。エルドランとエルディアのやり取りを書くのがすごく楽しくて結構自分が感情移入しちゃってるんだよな。エルディアとエルドランの2人にスポットライトを当て続けてたのも好きになった理由の一つかもな。
うちの父は結構厳しい人でなー。だからあまり厳しい感じにはしたくないな―って考えて、こう、ちょっとふざけた感じのある父親にしようって頑張ってみた。で、普段のふざけた感じと真剣なときのギャップ、これがこのエルドランの芯にしたかった部分なんだよな。みんなはエルドランにどんな印象も持った?
どっかで、例の月曜日の状況も書くつもりだから楽しみにしててなー




