表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

第1話 告ってフラれて、みんなのヘイトをゲットだぜ

*注意*この作品は基本激甘ですが、最初だけ辛い表現が含まれます。

苦手な方は一部をサラッと読み流し3話まで我慢して下さい。胃の重さはスッと収まります——


————————————————————————








その……なんかいきなりで悪いんだが。

俺——こと、御子柴護(みこしばまもる)(高二、男)は今、人生で最低最悪のハイライトを満喫中だったりする。


舞台は放課後、俺のクラスがある教室が並ぶ廊下。

窓から差し込む緩い西日がいささか安っぽい色味で廊下を照らしていて、俺の周りには——



……人、人、人。



下校時間というタイミングも重なり、これでもかというほどのギャラリーが俺と対面する()()をコロッセオのように囲い込んでいる。

そして、彼らの手には——



……スマホ、スマホ、スマホ。



呆れるほど無数のカメラレンズが俺と……俺の目の前に立つ国民的ヒロイン(女優)に向けられ、記者会見さながらのシャッター音や、無遠慮な録画開始の電子音が鳴り響いている。


「藤堂さん!ずっと、ずっと君のことが好きだったんだ!だから……俺と付き合ってくれないか!」


三流ラブコメも真っ青のベタで底抜けにダサい台詞。

それを真っ向からぶつけられた彼女——藤堂耀(とうどうひかり)は、腰まで届く艶やかな黒髪を揺らし、美麗な顔立ちの中央ですっと細められた瞳で俺を射抜いていた。


あまり特徴のないうちの制服すら、完璧なプロポーションの彼女が着れば舞台衣装のように映え、『清楚』という言葉を擬人化させたような圧倒的オーラを放つ美少女。


それがこの学園どころか日本中の若者が知る、国民的ヒロインへの階段を駆け上がっている真っ最中の注目株の女優、『HIKARI』の名でも知られる藤堂耀である。


「はぁ?私の事が好き……?御子柴くん、あなたそれ本気で言ってるの?」


絶対零度の声音。訝しげに潜められた眉。

TVではあんなに柔らかかった彼女の声帯から、ここまで人を切り裂くような鋭利な音が発せられることに、俺は不謹慎にも少しだけ感動を覚えている。


俺が何をしているかといえば……愛の告白の真っ最中というやつだ。


相手は学園のみならず、日本が誇る超高嶺の花であり国民的ヒロインの卵——藤堂耀。

一方の俺は、ルックスも身長も成績も徹底的に中の下に調整された一般男子中の一般男子。


そんな恥知らずのバカが分不相応な夢を見た告白という喜劇を前に、野次馬たちはその無様で滑稽な男の末路という最高のエンタメを消費しようと群がっているわけだ。


そして……その視線が集まる中央で、藤堂耀は汚物でも見るような完璧な冷酷さで決定的な台詞を言い放つ。


「私と付き合いたい……?ちょっと勘弁してくれない?私はこれでも女優なのよ? 私が誰かと付き合うなんて真似するわけないじゃない……仕事に支障が出るんだから」


「…………っ」


「もしかして……あなたなんじゃないの?言われもないスキャンダルに書いてあった、私の後をつけてるストーカー男って……?」


彼女の言っているスキャンダルとは、ここ最近急に浮上したものであり『国民的ヒロインに熱愛発覚!?彼氏と待ち合わせをしているシーンを激写か!?彼は熱愛相手?はたまたストーカーか!?』といった実に陳腐なよくある週刊誌のアレである。


彼女からしたらたまったもんじゃないだろう。

なんせ清楚、清純派で売っているんだから。


「いやっ……そんなっ、ちがっ——」


俺がストーカーだなんて、断じてそんな事はない。濡れ衣だ。

が、しかし、必死に弁解しようとする惨めな男の反論は当然のように遮られてしまう。実に見事に。


「はぁぁぁ……やっぱりその反応は……本当に最低ね、あなた。私はいま仕事以外には一切興味ないの!なのに身勝手に私の後をつけてスキャンダルまで起こして邪魔して……その上しれっと私と付き合いたいですって?!……あなたサイコパスかなにかでしょ?」


どよめく廊下。

群衆から一斉に放たれる、冷ややかでねっとりとした軽蔑の視線。

その圧力に、俺は喉が詰まってしまう。


「っ……」

「なによその顔は。不快なのよ……このストーカー男っ!!……今回だけは特別に同じ学校のよしみで許してあげるわ。でも、今度同じような事したらマネージャーを通して警察に通報するから!これから私に一切近づかないでっ!!」


感情を爆発させた彼女の肩が激しく上下している。

流石は天才女優。周りでカメラを構えた野次馬も、その凄まじい剣幕にすっかり息を呑んでいた。


100人近くはいるであろう空間がしんと静まり返り、やがて藤堂耀は身を翻し俺の前から一歩、また一歩と遠ざかっていく。


(御子柴、藤堂のストーカーだったのかよ……最低だなあいつ)

(キモっ、なにあいつ)

(あんな見た目で藤堂さんに告白するだけでもだいぶだけど……ストーカーとか引くわぁ……)


容赦のない死体蹴りの雨が降り注ぐ中、遠ざかる彼女の背中から視線を床に落とし、俺は両手の拳をグッと強く握りしめた。

心が折れないように。理不尽な痛みに耐えるために。



……でも、これでいいんだ。



四方八方から突き刺さるヒソヒソ声。

そのすべてを一身に受け止め、奥歯を噛み締め激しい痛みに耐えながら俺もその場から身を翻す。


しかし、俯き気味の俺の口の端はその時……本当に微かに満足げな笑みの形に歪んでいたと思う——




————————




その日の夜——


俺は寝る支度を整えて自室のベッドに仰向けに倒れ込み、今日という一日を走馬灯のように脳内で再生していた。


俺はあの後、学校の敷地から出る時も、帰り道でさえも、そこらじゅうから物理的な質量を持った蔑みの視線と言葉の(つぶて)を浴び続けていた。


それは決して自意識過剰などではない。


無数のカメラレンズで切り取られた俺の滑稽な告白と藤堂耀が放った『ストーカー男』という決定的な言葉が、SNSによって秒速で拡散され、俺は一躍国民的ヒロインに執着する異常者——もとい、日本全国のヘイトを一身に背負う国民の敵へと成り下がっていたのだ。


お陰で彼女にまとわりついていた悪質な熱愛スキャンダルは完全にかき消され、無事に清純派という本来のポジションへと帰還を果たしたわけだが……。


「はぁぁぁぁ——」


思わず口から漏れ出たその溜息は俺の人生で一番重く、湿っていたと思う。

まあ無理もない。普通ならショックで泣き喚いているか、胃液を吐いているところだろう。


……でも、俺は()()していた。だから大丈夫。


そう自分に言い聞かせていたその時——



    コンコンッ……。



不意に俺の鼓膜を叩く控えめなノック音。

それは廊下に通じる俺の部屋のドアからではなく……あろうことかベッドの真横にあるガラス窓の方から鳴っていた。


言っておくが、俺の部屋は一軒家の二階だ。だから外から俺の部屋の窓を直接叩くことなど普通は不可能なのだが——


「……んっ……」


その常軌を逸した現象を受けても、俺は至って平常心のままのそりとベッドから上体を起こす。

そして遮光カーテンに覆われた窓へと視線を向け、その分厚い布地をそっと手で払って外を覗いた。


窓の向こう——冷たい闇夜の中にポッと浮かび上がる微かな輪郭。

そこに目を凝らした瞬間。


    コンコンッ……。


もう一度ガラス越しに遠慮がちな音が響き、はっきりと華奢な人の手が映り込んだ。


「……まっ……護っ……」


厚いガラス越しに少しだけ湿度を帯びた声が届く

その手が引っ込むと同時に、夜の闇から浮かび上がってきたのは——


夜の帳に溶け込むような艶やかな長い黒髪。

清楚という概念をそのまま造形したかのような美しい顔立ちに、いつもは勝気なはずの力強い大きな瞳を、今はしゅんと落としている美少女。


昼間。俺をド派手にフッて濡れ衣を着せ、地獄へと叩き落とした国民的ヒロイン。

藤堂耀の今にも泣き出しそうな顔がそこにあった——



奥付


どうも、スカリーです。

いつもの方もはじめましての方も、この小説を見つけてここまでお読みいただき本当にありがとうございます!!

最初にもあるように、この小説は一瞬辛みのフレーバがあり……どうかそこを耐えて3話までお読みくだされば最高に嬉しいです。


そこからは、別の胃もたれを皆様にお届けしますので。

それではまた、次のお話もお読みくださることを期待しております。


面白い!続きが気になる!と思った方は、ブックマークの登録や下にある星を【★★★★★】にして頂けると嬉しいです!

皆様からの反響がとても励みになりますのでお手隙なら是非よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ