18.結婚後の初めての社交の場(小話)
今、エリーゼは結婚してから初めての社交の場にいる。
女性だけのお茶会だがとある公爵家に招かれてのことである。クリスタも一緒に出席の予定だったが、朝に少しばかり咳をしたらアーベルに出席を禁止されたそうだ。異常なほどの過保護に苦笑いをするしかなかった。
急遽一人で来ることになり一気に心細くなったがクラウスの笑顔を思い出して奮起した。
子爵令嬢から平民になりそこから侯爵家に養女にしてもらい伯爵夫人となったエリーゼのことを面白おかしく言っているかもしれない。
社交場は戦場なのだからもちろん覚悟はしているが竦んでしまう。クラウスは出席しなくてもいいと言ってくれたが役に立たない嫁にだけはなりたくない。
彼はすぐにエリーゼを甘やかそうとするので阻止するのが大変だ。
気を取り直し大きく一呼吸するとお茶会の主催者である公爵夫人に挨拶に向かう。そこでエリーゼは予想外の歓迎を受けて驚愕することになる。
「まあまあ、よく来て下さったわ。ハミルトン伯爵夫人。これからはエリーゼ様とお呼びしても? あの噂のエリーゼ様と伯爵様との馴れ初めを直接お伺いしたいとこの日を皆楽しみにしていましたのよ!」
この席に招かれている他のご婦人やご令嬢も期待に目を輝かせて頷いている。その中には以前クラウスに縁談を申し込んでいたシュナイダー侯爵令嬢もいた。噂とは何だろう。悪いことだったらどう対応しよう。エリーゼは戸惑いを隠せないまま問いかける。
「あの……。噂? とは何のことでしょう?」
「あら、ご存じないの? 『身分を超えた愛は永遠に~』というお二人をモデルにした大ベストセラーの小説のことよ。先日とうとう舞台化も発表されて大人気なの。苦難を乗り越えた愛に国中の女性が涙を流したのよ」
エリーゼとクラウスには身分差があったが他人が涙を流すほどだったとは思えない。
どうしてこんな話になっているのか訳が分からない。
「エリーゼお姉様。この本にサインをして下さいませ。ぜひカタリーナへと名前もお願いします」
シュナイダー侯爵令嬢が喜び一杯の笑顔でその本とペンをエリーゼに差し出す。
一体いつ自分はお姉様になったのだ? しかもサインを求められても自分は役者でも作者でもないのにいいのかしらと疑問に思いつつ、逆らえない勢いに押され言われたとおりにする。
結局、お茶会はエリーゼ歓迎の雰囲気で終始和やかに進められた。ありがたいことだが……エリーゼ本人と言えば狐につままれたようだった。
帰宅してクラウスにその話をすれば意味深な流し目を向けられそのまま誤魔化されてしまい説明はしてもらえなかったが、クラウスが何かしたことをエリーゼは確信していた。結婚して分かったがクラウスはただの紳士ではなかった。少し……たぶん……少しだけ腹黒い紳士だったのだ。それでもエリーゼが抱く愛情に変わりはないが。
聞いてもきっと教えてもらえないだろうと思っていたので、お茶会の帰りに噂の本を買った。
それをクラウスに気付かれないように隠れて読もうと決意したのだった。
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