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53.いや、まだです

 木桶に「奇運プラズモン」を静かに落とし、しばし待つ。

 そろそろ大丈夫かな? とアリアドネに目くばせするとコクリと頷く。

 「奇運プラズモン」は一見するとただのシルバーコインにしか見えないが、秘宝と呼ばれるこの世界の神秘の一つである。

 効果は「奇運プラズモン」を浸した水を飲むと0.01パーセントの確率でクリティカルヒットを起こすこと。

 

「さて、ファフサラス。そこに座っていてくれ」

『何をするんだ?』

「こうするんだ」


 取り出したるは中に液体が満たされた小瓶。

 

 《ポーション(低級)

 説明:傷を癒す(小)》


 これだよこれ。懐かしい。

 キュポンと蓋を外し、床に座って上を向く駄竜の頭に中の液体をかける。

 

『ポーションか。特に傷を追っていないのだが?』

「まだまだ。行くぞ。効果が出るまで」

『何をしようとしておるのだ?』

「そら、クリティカルヒットが起きるまでひたすらポーションをかける作業をするんだよ」

『お主、正気か? 確率が0.01パーセントと聞いただろう?』

「なあに、たった1万回に1回だろ?」


 ドサドサドサと山のように積み上がるポーションに駄竜だけじゃなく、アリアドネとベルヴァもあんぐりと口を開いたまま固まってしまった。

 1万個? 余裕余裕、余裕過ぎて笑いが出る。

 ポーションの在庫は約1億個あるんだぜ? は。ははははは。

 

「ギルドに顔を出すまで10日もある。それまでに終わるだろ」

「お、お手伝いします」


 ベルヴァがポーションの蓋を外して俺に手渡してくれた。


「ありがとう。どんどん行くぞ」

「は、はい……」


 単純作業に飽きないか? 俺を誰だと思っているのだ。

 1億回のチュートリアルをこなし、更にジャンプの練習だけでも数万回こなしたんだぞ。

 計測はしてないけど、作業に慣れてきたらだいたい1分間で3本くらいいける。


「あ、そうだ。別に一本一本丁寧にかける必要はないか」

「も、勿体なくないですか?」


 ベルヴァの頬が引きつり、尻尾が忙しなく左右に揺れていた。

 対する俺は親指をグッと突き出し、爽やかな笑顔を見せる。


「いくらでも量産できるから、全然問題ないよ」

「薬師様でもこれだけの量となると」

「1本生成するのに1分くらいだから大丈夫。無くなったら無くなったでまた作ればいい」

「は、はい……」


 中の液体が流れきるまでに時間がかかるのだ。蓋を開ける速度に合わせると1分間で8~10本いけるようになった。

 1時間で48~60本か。14時間作業したとして672~840本。間をとって一日の作業量は750本程度。うーん、10日で1万は厳しいか。

 ベルヴァに蓋を開けてもらうのではなく、俺とベルヴァがそれぞれ作業をするように変更したら、倍ほどの効率になった。

 いいぞいいぞ。

 

 五時間後――。

 ベルヴァが離脱した。代わりにアリアドネを投入。

 俺? 俺は平気だ。食事や睡眠をとる必要がなかったら延々と続けることだって問題ない。

 1万回程度だったら心の中を無にするまでもないぜ。

 

 駄竜はポーションをかけられ続けているというのに、目を閉じて眠っている。勝手にしろ状態だろうか。

 気にせずガンガン行くけどな。

 そして、三日が過ぎた。

 

 ベルヴァとアリアドネの様子がおかしい気がするが、腱鞘炎ぽい症状が出ているのかな?

 そう思った俺は彼女らの手首にポーションをかけたのである。

 すごく嫌そうな顔をされた。

 

 

 昼食を取り、ベルヴァとアリアドネが交代する頃、ついに変化が訪れる。


『お、おおおお!』


 寝そべっていた駄竜がむくりと起き上がり、後ろ脚だけで立ち上がり前脚を上に伸ばした。

 それと前後して、ぐぐぐぐと額から角が生えてくる。

  

「お、来たか、クリティカルヒット」

『まさかポーションで我の力が戻るとは』

「サイズがそのままだが?」

『こいつを見ろ』


 駄竜は短い前脚で額の角を指す。前脚が届いていないのはご愛敬。

 確かに、角無しミニドラゴンから角有りミニドラゴンに進化したけど、大して変わったように見えない。

 俺以外の二人は何かを感じ取ったようで、ベルヴァは肩を小刻みに揺らし、もう一方のアリアドネは口が頬まで裂け触覚をせわしなく動かしていた。

 二人の様子から想像するに、角付きミニドラゴンは以前より力を持っているような気がする。

 

「それでファフサラス、完全に力が戻ったわけじゃないんだよな?」

『我の力はいかな奇跡を起こす秘宝であれ完全には戻らぬな。我の器の大きさよ』


 得意気に小さな炎を吐く駄竜を完全にスルーして質問を続けた。


「で、どんなもんなんだ?」

『8割だな』

「8割も回復してえらい言いようだな、ほんと」

『何だと!』

「まあいい。そうだな。その戻った力で獲物を狩っててくれ」

『こら、尻尾を掴むなと』


 何かまだわめいていたが、アイテムボックスの外に放り出す。

 夕飯ごろには回収に行こう。迷子にならないか心配だけど、迷子になったらアリアドネに魔力を追ってもらうなりしたら発見できるだろ。

 

「ポーションも随分余りましたね。良かったです!」


 ベルヴァが積み上がったポーションに目をやりつつ、尻尾をピンと立てる。

 いやいや、ポーションはまだまだあるんだぞ。時期尚早だ。

 

「いや、まだです」


 決まった。

 呆気にとられたベルヴァの口が半開きになっている。すぐに再起動した彼女が質問を投げかけてきた。


「え? まだとは? もう一回、蒼竜様にクリティカルヒットを?」

「駄竜は一旦置いておく。先にアリアドネ、君に決めた」


 ビシッとアリアドネを指さす。

 指名を受けた彼女は少し間を置いてから「私?」と声を出した。

 

「お次はアリアドネの蜘蛛の脚を元に戻すのだ」

「そのうち生えてくるけど?」

「数十年とかかかると困る。人間の寿命は短いんだって」

「そう。私にとっては嬉しいことだから、否はないわ」


 そしてポーションで奇跡を起こそうキャンペーンの第二段が始まる。

 配置換えも行ったぞ。ベルヴァとアリアドネは飽きて辛くなるまでポーションタイムを実行。俺はひたすらアリアドネにポーションをぶっかける。

 

「頭からじゃなく、腕とか脚とかにしてもらえるかしら……」

「おっけ。座ってくれた方がやりやすい」

「分かったわ」

「アリアドネ様、失礼いたします」


 と言いつつもベルヴァは躊躇なくポーションをアリアドネの背中に垂らす。 

 あっという間に夜になり、駄竜を回収、寝るまでポーションタイムを実行――。

 

 更に5日が経過した。


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・タイトル

緑の魔女ルチルの開拓記~魔力無しと追放された元伯爵令嬢ですが、実は魔力が数倍になっていました~

・あらすじ

魔力無しと追放された女の子が実は計測できないだけで膨大な魔力を持っていて、その力と仲間たちと協力して快適な村を作って行くおはなしです

― 新着の感想 ―
[一言] コインをポーションに漬けてから使ったら暴走しやすくなったりしてな(棒
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