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私、いつ人間やめましたっけ?  作者: 雲梯
一章
15/21

15

完治しました!

 ある程度街の散策を終えた俺はアルヌの家へと帰ることにした。

 もうお昼時なので帰る途中に、ギルド内にある食堂によって行くことにした。

 帰路の途中でギルドに立ち寄った俺は、本日三度目のギルドの扉を開けた。

 最近はここに通い詰めているので、ある程度の人とは顔見知りになることができた。

 特に冒険者の人たちとは仲良くなることができたのが大きい。

 この街は人の入りがよく、外部からこの街へ旅してきた人は珍しくなく、ギルドに入るたびに新顔を拝むことができる。


「お、嬢ちゃん!また来たのか?次はどうした、忘れもんか?」


 今気さくに話しかけてきた人はランドルフという冒険者だ。

 ランクはBランクと、ここにいる冒険者の中では比較的高いランクを持っている。

 ランクはどうやらBからAに変わるところが魔境らしく、今の冒険者の比率はBが圧倒的に多くなっている。

 最近ではBになったら満足して、Aを目指さない人も出てくるようにまでなっているが、ランドルフは別にBで満足しているわけでは無く、日々努力を欠かさずこつこつと魔物狩りに出ていた。

 正直、俺的好感度が高い。

 努力家であり、実は彼......愛妻家でもある。

 冒険者というギャンブルな職につきながらも安定した収入をとり続けているのは、少なからずその愛妻精神の御陰だろう。

 長々と語ったが、簡単に言えば彼は人間の鑑である。弱いものにも手を差し伸べるその姿はまさに、ヒーローといったところだろう。


「おーい、大丈夫かー」

「あ、すいません。考え事をしてました」

「疲れてんならしっかり休めよ」


 心配なのか、こちらの顔を見乍らランドルフは優しい目でそう言った。

 俺が男じゃなくて、ランドルフに妻がいなければ堕ちてた。そう確信せざるをえない。


「大丈夫です。多分お腹空いてたせいなので......」

「そうか、なら早く食えよ、じゃあな」


 俺が誤魔化しつつ微笑むと、ランドルフさんはギルドを出ていった。

 もう少し話がしたかったが、長い時間考えてしまった自分が悪いと割り切り、俺は食堂へ向かった。

 


 食堂へ着くと、カウンターの上にメニューがあった。

 メニューを見ると見たことのないものから、生前の知識にあるようなものまで見つかる。

 俺は無難そうな「カツオーク丼」を注文した。

 注文の際に使ったメニューには、実物と見間違うほどの絵が描かれており、どのような商品なのか見ることができた。便利なものである。

 それにしてもオーク肉とはどのような肉なのだろうか。

 俺の中にある知識では、オークは豚の魔物だ。どこぞのウス異・本によく登場しており、女騎士を捕まえるイメージが強い。

 まぁ、それは恐らく偏見まみれなのだろうが、実際それくらいしか俺にはオークの知識がなかった。


「お待たせいたしました、カツオーク丼です」


 店員さんの手により運ばれてきたカツオーク丼は、見た目は本当にそのままのカツ丼だった。

 しかも香りまでもがカツ丼で有り、カツ丼としか言いようがないまでにカツ丼で有り、カツ丼だった。

 あまりの空腹の所為か、もうカツ丼のことしか頭にない俺は、行儀なんてものなど忘れ一心不乱に飯に食らい付いた。

 カツとその下に敷かれているキャベツのようなものと、恐らく麦が口の中に広がった。

 米じゃないのが少しもどかしかったが、味は一級品だった。

 オーク肉とか言う只の豚肉には、飲んでもくどくない優しい脂がたっぷりとのっており、俺の胃袋を刺激した。

 そした噛みしめた瞬間に広がる、ソースと肉の調和が俺の下の上で新たな楽園を生んだ。

 ここまで肉のうまみを殺さず、綺麗に味わえるソースがあったのだろうか。いや、ない。

 うな重で、うな重のたれがあれば満足といわれる様に、大体の丼ものは汁やソースに味覚のメインをうばわれていた。

 しかし、この料理は違った。素材そのものの味が主役になりながらも、脇役がしっかりと自分の存在をアピールできている。素晴らしく共存できているのだ。

 そこに、追撃するかの如く麦とキャベツの甘みが自分の舌を支配する。

 あぁ......なんて良い食感なんだ。モチモチとシャキシャキが合わさり、俺の口の中で楽器が奏でられているかのようだった。

 まさか、異世界に来てこんなおいしいものが食べられるなんて思っても見なかった。

 アルヌの母さんの料理もまずくはないし、普通に美味しかった。

 だがここの料理は別格だ。明らかにレベルが違う。

 そう確信することができるほど、ここのカツ丼は絶品だった。

 今度アルヌを誘おう。俺はそう思った後、再び味わいながらカツ丼を食べ続けた。


 カツ丼を食べ終えたころに、隣にウォンがやってきた。


「お、もしかして胃袋を掴まれたかい?ここの料理は美味しいだろう」

「やばいです。毎日通いたいくらいうまいです」

「そ、そんなにかい?そりゃあギルマスとして鼻が高いよ」


 ウォンは少しはにかみながら俺の横に腰掛けた。


「何か用ですか?」

「あ、そうだった。少し話があってね......」


 先ほどまで緩かった雰囲気だったが、ウォンが表情を変えたのと同時に少し、空気が引き締まった。


「実はもう合格通知が来たんだよ」

「......ふぇ?」


 俺は有り得ないほど情けない声を出した。

 仕方ないじゃないか。だって俺は明日だって聞いていたんだから。


「何だか僕もよく分からないんだけどね......学校からあいつは合格で良い。筆記は目を瞑るので総合科に来いって」

「えぇ!?よりによって総合科ですか!?」

「らしいね......いったい何をしたんだい?」

「いやいや、お......私が聞きたいくらいですよ!」


 心当たりのない謎の信頼に疑問を浮かべながら、合格したことに少しだけ安堵を覚えるのだった。

飯テロなんてサイテー

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