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俺は波乱の実技試験を終え、筆記試験に移った。
その際に試験官は何かを考えるかのように俯いていたのだが、もしかしなくても先程の魔法の件かもしれない。てか、絶対そうだ。
先程俺が使ってしまった魔法は、自分が想像するよりも高威力で有り、広範囲だった。実際、グランドが火の海になったときは俺自身焦りに焦った。
俺でも焦ったその状況で動きもせずに、一言だけ呟いた髭親父は何を思ったのだろうか。恐らく、点数決めだろう。
忘れかけていたがこれはあくまで、試験。なので髭親父は、先程の魔法と剣術の実技点を割り出しているのだ。きっとそうだろう。
確信しきれない俺だったが、筆記試験の部屋に着いたのを理由にそれ以上考えるのはやめておいた。
「ここだ。ルール等は机の紙に書いてある。試験時間は45分。質問があれば言え」
俺が席に着いたと同時に、前回と同様に髭親父は事務的なことを淡々と述べていった。
そして話し終えると同時に、目つきの悪い顔でこちらを見てきた。
「質問はありません」
「よし、なら始めるぞ」
俺の質問がない事を理解した瞬間に、髭親父の合図で筆記テストは始まった。
この世界の常識を知らない俺にとって、筆記テストは地獄其のものだった。
なにせ、街の名前なんかを聞かれても知るはずがないのだ。
モンスター関連の問題も、見たこともなければ聞いたこともない奴ばかりで、一向に筆が進まなかった。
そんな俺に奇跡にも近い、最も見覚えのある問題が飛び込んできた。
Q.世界最古の龍の名前を答えよ。
A.
これは答えを確信することができた。
何せ自分の名前であるからだ。アルヌから初対面の時に教わったのが、ここにきて役に立つとは思いもしなかった。
俺は静かに、5点問題をクリアすることができた。
だが、俺はそれ以上の正解は見出すことができなかった......
*
その後、時間は無情にも過ぎていき、筆記テストはその場で終了した。
もう満身創痍といった感じだった。何を言おうが一問しか解けなかったからだ。
まぁ、事前に筆記は2割と聞いていたので、少し気が楽だが、それでも実技がパーフェクトというわけでもないのだ。
なので尚更俺は死にかけていた。
試験の終了が告げられると同時に、帰宅命令が告げられた俺は、アルヌの家へ帰る前にギルドへと向かった。
ギルドへ入り、ギルマスの部屋に直行する。
部屋の前に立ち、いつも通り年季の入った扉にノックを交わすと、中から声が聞こえる。
俺はその声を合図に中へ入り、そのままソファに腰掛けた。
何も言われてないのに、勝手に座るというのは礼儀としてどうなのかと思われるかもしれないが、ここが日本でもなければ貴族の家というわけでもない。だからそこまで、礼儀作法に厳しくないのだ。
俺がソファに腰掛けたと同時に、部屋にいたウォンが俺にお茶を出してくれた。
俺はお茶を静かに啜る。
「試験はどうだった?」
「ボロボロでした......」
お茶から口を離し、正直に述べるとウォンは笑いながら言った。
「その様子だと、筆記がダメだった感じかな?まぁ、仕方ないといったら仕方ないかな」
からからと笑うウォンに俺は疑問しか浮かばなかった。
仕方ないとはどういう意味なのだろうか。もしかしてこいつは俺がバカだと遠まわしに言っているのだろうか。
そう考えると無性に腹立たしくなってきた。
「仕方ないって言うのはあそこの試験問題が難しいからだよ。事前予習しても2割取れたらいい方だからね」
「そうなんですか......」
先ほどまで180度違った考えだった自分に情けなさを覚え少し肩を竦めた。それと小さく心の中でウォンに謝っておいた。
因みに筆記問題もワカラナイなりには頑張ったつもりである。
例えば、「魔法の元となっているモノは何か?」という問題があったんだが、それにはきちんと「やる気」って書いた。
いや、決して俺が脳筋とかそういうのじゃなくてね?知識が全くなかったからそう書くしかなかったんだよ?
脳内で自己弁明していると、伝えることがあったのかウォンが口を開いた。
「あぁ、今日の結果は明日には出るからね。明日またここにきてくれるかな?詳細も出るらしいよ」
「わかりました。明日また来ますね」
結果が割とすぐに届くことに驚いたが、よくよく考えたら今回の試験者は俺だけであり、採点も白紙に近いのでそこまで手古摺らないであろう。
また、詳細が出るとのことだったが、俺には全くといっていいほど興味のない話だった。
*
ギルドを出て、まっすぐ家に帰ろうかと思ったが少し街を見回ることにした。
恐らく、学園へ通うことになる、だからできるだけここの地理には詳しくなっておいたほうが良い。そう考えたからだ。
ギルドの道をまっすぐ行くと商店街......屋台通りみたいな場所に出た。
右左正面に色とりどりの屋根の色をした屋台が並べられていた。
屋台の種類もパッと見豊富で有り、食料店から衣服類の店まで出店していた。
そんな中、俺はある一つの店が気になった。武器屋だ。
何故気になったかと言われれば、ただ何となくだった。
だが、その何となくの中に言いしれない違和感を感じ取ることができた。
俺はそんな好奇心に吸い寄せられるかの如く、その店へ足を進めた。
店の前に行くと店主らしき人が目に入る。
店主は鯖を読んでも60代といった感じの容姿だった。
だが、その佇まいからは老いを感じさせず、威厳のある姿だった。
俺が視界に入ったのか、その老人はこちらを見つめてきた。
「ほう......良い目をしておるな」
老人は俺の目を見つめながらそう言ってきた。
少し恥ずかしくなってしまい俺は目をそらす。
「碧眼か......まさかこんなところで見ることができるとはの......」
「あの、どうかしましたか?」
流石にこちらをじろじろ見られるのはたまったもんじゃないので、俺は老人に問いかけた。
老人は少し考える素振りを見せてこちらに謝ってきた。
「いや、すまんかった。この年にもなって燥いでしまって......」
「いえいえ、それはいいんですが......お、私の目に何か?」
「あぁ、嬢ちゃんの目の色がね、とても珍しくて魅入っちまったよ。気分を害したのならすまんね」
「大丈夫です、少し恥ずかしかった程度なので......でも、その碧の目って珍しいんですか?」
正直、周りの髪色や目の色が様々過ぎて今更そんな問題は気にしていなかった。
そんな素朴な疑問に老人はとんでもない、返答を寄越すのだった。
「知らないのかい?目の色が碧の人は先祖をたどっていくと龍にたどり着くんじゃよ。この世に碧眼を持った生物は龍とごく一部の人と言われてるからね」
どんどん絡まっていく自分の特徴に、少しずつ頭が痛くなってきているのを感じた。
この話をここで初めてされたということはもしかしたらそこまで有名な話ではないのかもしれないが、もし下手にその点を気づかれてしまったら面倒だと思った。
「その話って結構知名度高いですか......?」
「いあや、そんなことはない。これはわしの家系に伝わる話でねぇ、外には滅多なことがない限り話が行かんよ」
そういうと老人はふぉっふぉっと高笑いをした。
なぜこうもいらない情報ばかりが耳に入ってしまうのだろうかと、俺は頭を抱えるしかなかった。
最近bキーの反応が悪くて「装備」が「相違」になったりする。
インフルで更新遅れてます...もうしばらくお待ちください。