12
ダンザールから逃げるように部屋へ戻った俺は、布団に身を隠しそのまま深い眠りについた。
それから気が付くと外はもう明るく、どうやらあのまま寝てしまっていたようだった。
あまり思い出したくもない記憶が脳内を埋め尽くすが、朝から嫌な気分になるのはごめんなので必死に振り払った。
あのまま寝たということはお風呂に入っていないということに俺は気が付いてしまった。
というより、よくよく考えたら俺はまだこの世界に来てから風呂なんて入ったことがなかった。そもそも存在の有無すらもわからない。
俺は風呂の存在を聞くために部屋を出て、一回へと足を運んだ。
一回に降りるとそこにはエプロン姿のイルネさんがいた。幼いその容姿の所為か、何やら危なげない雰囲気が漂っていた。
俺の存在に気付いたのか、イルネさんは料理の手を止めこちらに向き直った。
「あら、ラレウスさんおはようございます。昨夜は大丈夫でした?」
「あ、はい。別に大丈夫です」
「そう、なら良かったです。父が迷惑を掛けたようで......」
「いえいえ!そんな!単に疲れが溜まってただけですから!」
俺が抗議の意を述べると、その意思が伝わったのか、イルネさんはそれ以上言及することはせず、料理を再開した。
元の要件を忘れそうになっていた俺は気を引き締めた。俺はイルネさんの手を止めさせないよう、返答を聞く形の質問をとることにした。
「すいません。お風呂ってありますかね?」
「あぁ!そういえばラレウスさん昨日早く寝てしまったからお風呂に入ってないんですね。お風呂は一階のトイレ横にありますよ。」
親切に教えてくれたイルネさんに見えないかもしれないが一礼し、俺は目的地へと向かうことにした。
前日トイレは使用したことがあったので場所は普通に見つけることができた。
俺はドアノブに手を掛け、ゆっくりとその扉を開いた。
扉の先には脱衣所が広がっており、思いの外スペースがあった。人6人くらいは入れそうだった。
初めてみる異世界の脱衣所に、興味を持ちながら俺は服を脱いだ。服を脱ぐと言っても本当に服しか来ていないのだが。
裸になり、久方振りの解放感を味わいつつ、浴場へと向かった。
その時、ふと何かが目に入る。隣で白い何かが通り去ったような気がしたのだ。
俺はすぐさま真横へと振りむいた。
そこにいたのは......紛れもなく少女だった。
服など纏わず、純粋無垢そうな顔をした少女が俺とおんなじポーズをとり、こちらを見つめていた。
何を言おうが俺だった。だが、実際に顔を見るのが初めてだったもので少し動揺してしまった。
自分だとわかると急に興味が湧いてきた。
いざ見てみると、俺の容姿はとても素晴らしいものだった。
悪いがここまでの美人は見たことがない。自分で言うとナルシストに聞こえるのがとてもつらいが......
肌はシルクの様に白く、女性特有のもっちりとしたものになっている。顔も童顔で、イルネさんに子供っぽいと言えたものではないような顔だった。目は翠色で髪は白く、肩甲骨の辺りまで伸びている。お世辞にも綺麗とは言えなかった。これはkawaiiである。
今まで本当に気にしてなかったが身体つきはとても良かった。自分の語彙力のなさに呆れかえるが、これは良いとしか言えない。
下を見ると自分の足元ではなく胸が見える仕様。足は細く、お尻は魅力的な大きさをしている。ボンキュッボンとまではいかないが、逆にそれが可愛らしさを引き立てていた。
自分でなければどれだけ良かったことだろう。俺は確実に彼女で抜いただろう。
だが現実は非常であり、この体や顔は紛れもなく俺自身だった。
そう思った瞬間、なんだか無性に悲しくなってしまいお風呂へ入ってる間もなんだか気が滅入ってしまっていた。
*
お風呂から上がり、ずっと着ている白いワンピースを着ると、俺は食卓へと速やかに足を運んだ。
俺が食卓に着くともうアルヌは座っており、とてもいい笑顔で俺を出迎えてくれた。
「おはよう!昨日はよく寝れたかな?」
「御陰様で」
「それなら良かった!ラレウスさんが寝れなかったらどうしようと思って逆に私が寝れなかったよ」
欠伸をしながら笑うアルヌに、俺は少し申し訳なく思った。しかし、ここで何か言うときっと気を使わせてしまうので、これ以上言葉をつづけるのはやめておいた。
「今日は学校があるんだけど、確かラレウスさんはウォンさんと試験日決めるんだったよね?」
「あ、そうですね」
「なら、途中まで一緒に行かない?ギルド方面の路を通っても学校には行けるしどうかな」
「アルヌさんが良いなら、ぜひ」
「もうさ、さん付けとかやめない?一晩同じ一つ屋根の下で寝た仲じゃん!」
「それはいろいろと語弊があるんですけど!」
「まぁ、そういうことでよろしくね!ラレウスちゃん!」
笑いながらアルヌに俺は折れることしかできなかった。
実際ちゃん付に猛烈な違和感があったが、きっと慣れなければいけないことなのだろうと、簡単に諦めることができた。
朝食を終えた俺とアルヌは早速アルヌの家を出て、ギルド方面へと向かった。
アルヌは前回と違い、学園の制服らしきものを着ていた。
制服はとてもかわいく、白を基調に作られていた。
どうやら胸の紋章が学科を分けているらしく、剣の紋章が付いてるアルヌは戦士科のようだ。
「制服、かわいいでしょ?これがこの学園の良さの一つでもあるんだよ!」
そう言いながらくるりと、その場でアルヌが回った。
可愛いのだが、俺がこんなものを着ていいのだろうかと少し不安になった来た。
「ラレウスちゃんは何科に入るのかなぁ...ステータスだけでは測れないからね!結局はどれだけその才能を扱えるかが科を決める最重要点なんだよ!」
「そうなんですか......まだ俺は自分の力がよくわかってないので何になるか分かりませんが、もし戦士科になるときはよろしくお願いします」
「勿論!」
俺とアルヌが他愛無い会話をしていると、割と早くギルドについてしまった。
この時間がもっと続いてもいいのだが、今回の目的は違うことなので話を切り、一旦分かれる事にした。
「じゃあ、着いたしこれで」
「ラレウスちゃん頑張ってね!」
何を頑張るのだと突っ込みたかったが、これが彼女なりの気遣いなのだろうと勝手に納得して、吐きかけた言葉は飲み込んだ。
別れを告げ、俺はギルドへと入りギルマスの部屋へと足早に向かった。
扉の前に立ちノックをすると、中から聞き慣れた声が聞こえた。
「入っていいよ」
その声に答え、俺はギルマスの部屋の扉を開けた。
部屋は昨日と何ら変わりなく、相変わらずといった感じだった。
「まぁ、座ってよ」
俺をソファへと案内すると、ウォンも俺の正面へと腰を下ろした。
「じゃあ、いきなりだけどラレウス君はいつがいいかな?」
本当にいきなり本題を振ってきたウォンに俺は少し驚いた。
少しは何か世間話的なものを振られると思ったのだが、そんなことはなかった。
「俺は出来るだけ早いほうが良いです」
実際、何もすることがない今、早いとこ学園へ入学し勉学共にいろいろと勉強したいのだ。
俺がそう言うとウォンはある提案をした。
「なら今日これからはどうだい?」
「え?」
俺は耳を疑った。
迷ったら買うが私のモットー