表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界Baby  作者: 本屋
97/112

97、狂信者の襲撃


「外したか、ダンジョンマスターとして神格化されるだけのことはあるか」


 真っ白な外套を着た白髪の長身の男が、試練部屋の扉の前に立っていた。


「優雨美様!!」


 【 回復かいふく


 回復魔法をかけるが優雨美が回復した様子はない。床に崩れ落ちたまま動かなかった。


 【 女神(めがみ)息吹(いぶき)(もと)めるは、()(もの)に 】


 何時もと違うスレンダーな女神が現れて優雨美に息吹を吹きかけて微笑んで去って行った。優雨美の瞳は閉じたままだったが、鼻元に耳を寄せると呼吸音が聞こえた。


 ビキッ!!!


 僕が優雨美の対応優先にしていた間にガルドーは既に動いていた。しかしながら紅剣バナードは見えない壁に激突して大きな接触音を鳴らす。紅剣バナードの競り合いで生じる歪みで透明な障壁の存在が認識できる。


「何者じゃ?その服ダンジョンの神の信徒か?」


 ダンジョンの神の神殿にいた信徒の服によく似ているが豪華な刺繍が施されている。僕はこの信徒の服に見覚えがあった。


「過激派………」


 領主館に忍び込んで楓を攫った連中のリーダーとよく似た刺繍だった。


「神の名を利用する狂信者どもじゃたか」

 

 狂信者の男は見下した目線をガルドーに向けてくる。


「<剣術能力8>に剣王の称号か、<自然回復2>は厄介だな」

「貴様………まさか<鑑定能力>持ちか?」

「ご名答」

「ならば、この壁は貴様の力ではないな?」

「それもご名答。伊達に歳はとってないな。剣王の称号は厄介よ」

「<鑑定能力>を授かった者は、他の能力に見放されると言われておるからな」


 狂信者は体格に恵まれながらも頭髪は真っ白だ。世間で言う属性の神々に見放された人間となる。そんな狂信者の背後に隠れるように、同じ白の外套をフードまですっぽりと被った襲撃者の仲間がいた。背の高さが僕より低いので子供の様だがフードの影が顔を隠していて性別まではわからない。


「おい狂信者。また楓を(さら)いに来たのか?」


 優雨美を抱き上げ壁際まで移動すると狂信者の男を睨みつける。


「神の徒たる私を狂信者呼ばわりとは、神を畏れぬ不届き者よ」


 質問に答えずに反論して来る態度が、僕を会話の相手と捉えてないサインだった。ならば狂信者の心を(くすぐ)ってくれてやると挑発的な行動に移る。


「暗殺を講じる者など狂信者以外何があるって言うんだ?」

「暗殺ではない。神の手による間引きだ」

「都合の良い解釈しかしないのが狂信者なんだよ!」


 会話の成立しない相手ほど苛立つものはない。挑発的するつもりが逆に挑発されてしまったが、色々と暴力的なコミュニケーションを仕掛けて来たのはあちら側なのだから僕が行うことに異論はないだろう。

 僕の意思に従って右手にレクナハルバートが現れる。ガルドーの横手に回り込み透明な障壁を最大の力で一閃する。


 ガギャーン!!


 激しい接触音に試練部屋の空気が震えた。


「レクナハルバート。<剣術能力9>の神剣か?これは驚いた。阻害されるだけの力がある訳だ。失敗してしまったが貴重な魔具の許可が下りるに足る理由があるのだな」


 先程から疎外と口にする言葉に信者が僕のことを上手く鑑定出来ていないことを知る。目の前のウィンドウに選択された<フィルター>が<鑑定能力>を無効にしている結果を始めて実感した。とても有効的な能力で鑑定能力者がまたも現れる僕の現状を良くも先読みしてくれた正に神の所業だと思った。


「都合の良い解釈に僕達を巻き込まないでくれ」

「我らが一致して、お主を神の敵と判断したのだ」


 会話が成立している様でしていないこの苛立ちをレクナハルバート越しにぶつけようと思うが、レクナハルバートを拒絶する様に反発してくる透明な障壁は破れる気配さえ見せない。そんな時に僕の対面からぴーちゃんが炎を吹きかけた。弾かれるだけで効果がないと見ると氷化の光線が目から放たれる。ぴーちゃんの攻撃はどちらも効果が得られなかったが、透明な障壁の全体像が弾かれ方でハッキリとした。狂信者と仲間を囲むように半球体のドームになっている。本気の振るったレクナハルバートでも防がれた透明な障壁は、ガルドーの言う通り能力ならばかなりのものだ。だが能力ならばと次の行動に移す。透明な障壁を展開した理由を考えて魔法を選択する。


 【 音波おとなみ


 強烈な不快音の波を見えない壁にぶつける。僕自身は試練部屋内に反響する音への覚悟をしていたので、耐えられるが僕以外の者には全てを受けなくてもかなり辛いはず。思った通りに狂信者の男の背後にいた子供が悲鳴を上げて耳を抑えると壁が消えた。透明な障壁は僕達の攻撃を認識し易くする為。目に見えない攻撃ならどうかと音による攻撃に切り替えた。相手が見えない障壁ならと、こちらも見えない攻撃を仕掛けたのだが効果は抜群だった。

 障壁が消えた瞬間に狂信者の喉元にレクナハルバートを突きつけた。仲間ごと不意打ちした音の魔法からガルドーが回復して透明な障壁を発生させていた子供に剣先を突きつけ動きを封じる。余りの不快音にメイが飛び起きて耳を抑えながら何事かと周囲を見渡してフラフラと落ちるぴーちゃんと楓に気付く。危機一髪で落ちる楓と床の間に体を滑り込ませて背中でキャッチすると目を回す。心の中でメイに感謝を告げると対峙した僕よりも頭一つ大きい狂信者を睨み付ける。


「詰んだぞ?どうする?」

「二手であの壁を破ってみせるか。消去の命令が納得出来るほどの危険性は確かにあるな。隠された能力にどれほどのものが眠いっているのか不気味さを理解した」

「隠すも何も、お前達の神が無闇に鑑定されぬようにと承った能力だ」

「何故我らが神が、お主にその様な能力を施す?」

「お前らみたいな出来の悪い信者が悪さしているのを僕に食い止めて欲しかったのかもな?」

「我らが神を侮辱するのはそこまでにしてもらおうか」

「何だ。怒ったのか?出来の悪いお前達よりも僕を懇意にしている主人がいた現実に嫉妬したか?」

「黙れと言っている」


 狂信者は僕が狂信者の喉元にレクナハルバートの剣先を突きつけているにも関わらず御構いなしに凄んでくる。狂信者ゆえに死を恐れていないのか。死よりも己の狂った信念を優先しているのか。目には恐怖など微塵も感じていないように僕を射抜いて来る。そんな思考をしてしまったのが油断だったのかも知れない。狂信者の体が淡い光を放つ。


「斬り伏せろ!!」


 ガルドーの叫び声が聞こえたが僕は躊躇してしまった。その躊躇が決定的な失敗だった。強い衝撃と共に意識が遠のくのを成すすべなく受けるしかなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 目を開けると楓が心配そうに僕の頬をペシペシしていた。いくら優しいタッチでもペシペシはないと思うが。


「気が付いたか?小ドラゴンが回復能力まで持っておって良かったのう。回復薬を準備していては間に合わなかったかもしれんぞ?」

「ありがとう楓。助かったよ」


 楓のペシペシが強くなる。怒っているのか。


「前々から思っておっが、お前さんは甘過ぎるぞ?相手を殺すことを躊躇して自分が死に掛けては大馬鹿者じゃぞ?」

「楓が怒るのも無理ないですか………」


 確かに僕は躊躇した。喉元に突きつけた剣先を少し押すだけで、狂信者の息の根を止めることが出来ただろう。そんな状況で強行して来るなど思っても見なかった。その結果、避ける判断まで鈍らせて死に掛けたのならば、怒られて当然だろう。


「狂信者には、こちらの常識など通用せん。自滅覚悟でも教義を遂行して来たのが、今回良く分かったであろう?」

「はい痛感しました。死の前に恐怖や躊躇いなど全く感じさせない目をしていました」

「ああいった手合いは躊躇わず殺せる覚悟を持つべきじゃ。今回は死なずに済んだが、お前さんが死んだら悲しむ者が多くいることを肝に命じておけ。そして良く考えることだ。また奴らはお前さんを襲って来るだろうからな」

「そう言えば狂信者達はどうしました?」


 試練部屋には横になったままの優雨美と目を回したままのメイ以外は僕達しか居ない。


「逃げたぞ。魔具を使って転移しおったわ。優雨美様やお前さんを行動不能にするほどの魔具と合わせて、転移の魔具まで使って豪気な事じゃ。鑑定の能力で余程の優秀な魔道具製作者を抱き込んだのだろうな。だが奴らの行動に全ての者が賛同するとは思えぬ。強引なやり方をしていても奴らなら十分ありえそうだ」

「次は今回の僕達の能力を考慮して襲撃して来る可能性が高いのですね?」

「そうじゃ。どうする?」

「煽ってるの自覚してますよね?」

「待つのは性に合わないだけじゃ」

「その物言いは、あいつらの居場所を知っているように聞こえますが」

「ああ。セインズビー領の深い森の中に奴らの根城があると前に聞いたことがある」

「セインズビーですか………」


 セインズビーは王都の南に位置する海産物が豊富な土地柄と聞いていた。海に面しているという意味では天神海領と同じだが西の海と南の海では取れる資源に違いがあるという。王都への行程距離は同じぐらいだ。


「毎回ながら移動手段がネックになりますね」

「天神海から船という選択肢が使えるぞ?定期船で半日もかからん」

「あれ?王都への移動も、そちらの方が早かったのでは?」

「領主と王族が移動するのに船は使わぬのが習わしじゃ。何百年か前の王船の沈没事故で王族の血が途絶えかけて以来、王族と領主は船に乗ることが禁止されとる。他の王族の船も壊された程の徹底的な珍事じゃな。王族からは水属性の者が生まれぬのも水属性の神に嫌われているとさえ言われているからの」


 王族は大半が土属性が主だそうだ。大地を潤し恵みを与える土属性の神に愛されているのも王国を反映させる大きな責務らしい。


「船の乗車賃は高いのですか?」

「そこそこはするが、馬や馬車の移動を考えれば安いものよ。通常の行程で三日で着くしのう。天神海領の最北の港町で一泊して、早朝の船に乗って昼過ぎにはセインズビーに到着する。翌日の馬車か馬の手配をして一泊。さらに近くの町で一泊したい所だが、奴らの本拠地近くの宿では休むものも休まぬからな」

「後は、ついて来たいと言いそうな人達の対応ですね」

「一番の問題はそこじゃな」





次話  「レクナハルバートの惹きつける魅力」 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ