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異世界Baby  作者: 本屋
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95/112

95、メイと罰


 楓の頭の上に小ドラゴンが乗っかっている。楓の頭より大きな小ドラゴンこと、ぴーちゃんは重たくないのかと楓ごと持ち上げることでぴーちゃんの重さを測ろうとしたのだが、あまり楓の重さと変わらなかったので、ぴーちゃん自体は殆ど重さがないようだ。楓も重さを感じないようで頭と体をいつもと変わらないように動かしている。楓の従属となったぴーちゃんは、<スクリーンショット>に残したインフォメーションログを見る限りかなりの高性能なドラゴンだ。そもそもドラゴンと竜の違いが分からない。カウタに聞いたら、はっきりと自分達とは種が違うと言われた。ドラゴンの定義を僕は良く知らないし前世の空想物の定義に当てはめていいのかもわからない。

 楓はぴーちゃんを従属化したことにより自由な移動方法を手に入れた。パタパタとぴーちゃんが楓を掴んで飛ぶのだ。楓が嫌がることなく身を任せているのは、ぴーちゃんの行動が楓の命令で動いているからに他ならない。ぴーちゃんが落したらどうするんだとか、部屋の中にある赤ん坊を近づけさせたくない危ない所とかがあって、自由な移動を止めさせたいのだが、いくら言っても止めてくれない。今まで自由でいれなかった反動からか、やたらめったら動き回っているのだ。そして問題はこれだけではない。このまま放っておくと楓のベビー服がぴーちゃんの爪でボロボロになるのが、ほつれ始めたベビー服を見ても明らかだった。これ以上はベビー服を作ってくれた母に悪いので、不本意ながらもベルトとぴーちゃんの爪が掴みやすいように把手を拵えた。

 ぴーちゃんという従属が出来てからというもの楓は積極的にお手伝いをするようになった。母に褒められてからというもの暖炉や竃に火をつけるのも今は楓とぴーちゃんの仕事となっている。みんなの役に立っていて満足げな表情をしているので、赤ん坊に火を使わせるのもどうかとは思うのだが、本人がやる気満々なので取り上げるのも可哀想だと黙認する他なかった。

 こんな風景も砦の中でだけなら問題ないが、砦の外では色々と人目につくので、黙認することは出来ない。ぴーちゃんと一緒にいる楓を人目の多い所に連れ出すのも、落ち着くまではと現在自重中だ。ダンジョンの神は楓が僕の役に立ちたがっていると言っていた。この先ぴーちゃんを使って楓が危ないことに首を突っ込んでくるのは目に見えている。どうすれば楓に言うことを聞かせるかが悩みの種となっていた。


「楓あのな、人前ではぴーちゃんを使って飛ばないこと。危ないこところにはついて来ないこと。いいな?」


 楓は頭の上にぴーちゃんを乗せたまま小首を傾げる。何で駄目なの?と訴えかけてくるようだ。楓にしてみればやっと掴んだ僕と共に戦える力だけに、やる気が満々だった。

 これは困った。可哀想だとしても、このやる気の芽は摘むべきなのだろうか。

 でもそんなことをして楓の将来にどんな影響を及ぼすのだろうかと考えると決断など出来ない。既に彼女の選択肢を僕は握り潰して大きな可能性を奪っている。彼女の選択肢可能な能力が常軌を逸した途方もない力の数々なので選ぶ責任から逃げているだけなのだが、この逃げは一生付きまとう逃走だとは自覚している分、向かい合った上での楽な逃げではない。


「赤ちゃん相手に真剣に難しい話をしているあなたを側(はた)から見てると心配になってくるわ。特に私の未来が」


 ラヴィニアが酷いことを言ってくるが、いまのラヴィニアは僕と一蓮托生の身の上とも言えるので、その心配も分からなくはない。

 やる気一杯に満足げな表情を見せている者がいる一方で意気消沈しているのはメイだ。メイがおんぶ紐で背負っても直ぐにぴーちゃんを使って抜け出してしまい僕の所に飛んでくる。思いっきりショックを受けて半泣きのメイを見るのが居たたまれなくなってきた。


「マジク様!メイはもっと頑張ります!だから追い出さないで下さい!」


 メイが今にも泣きそうな思い詰めた表情で訴えかけてくる。


「………えっと、追い出さないよ?」


 悲痛な思いを訴えかけてきたものだから一瞬思考が停止した。


「でもいまのメイは役立たずです!要らない子です!」


 メイは少し震えていた。震えになの抗(あが)って僕に強く訴えかけて来る。

 まだ十歳の女の子がこんな切羽詰まった思いをしているのがこの世界の現実なのだろうか。メイは神子(かえで)付きを命じられたとはいっても事実上は神殿から追い出されたと同じようなのことなのは本人も理解しているのだろう。そんなことがあっただけに色々と思い詰めていてしまったようだ。いつも元気一杯なメイだけに、この様子を見るのはとても痛々しく思えた。


「何ちっさい子泣かしてるのよ?」

「僕が泣かしている訳じゃないんですけど?」

「あなたは、ここの家長なんでしょ?その家で泣いている子が居たら原因も含めて家長に責任があるんじゃないの?まあ、これは私達エルフだけの話かも知れないけど人間は違うのかしら?短い付き合いだけど、そこら辺は人間もエルフと変わらない様に思えたのだけど」

「いや合っている。確かにそうだ。実際世間がどうなのかは知らないけど、僕はそうありたいと思う。気付かせてくれてありがとう」

「良いのよ。私も出過ぎた真似をしているのは承知していただけに、お礼を言われるとは思わなかったわ」


 僕はメイの視線に合わせて中腰になる。メイが不安そうに瞳を揺らしていた。


「メイは失敗ばかりです。この間はダンジョンでマジク様を危ない目に合わせてしまいました。メイはいつもみんなに迷惑かけるです。ごめんなさいと、いつもいつも思っているんです。それなのにみなさん優しいです」


 メイは僕達と暮らすようになってから、甲斐甲斐しくいつもお手伝いをしてくれている。その上で少し洗濯を失敗したり、皿やカップを割ったりする事はちょくちょくやっていた。でもメイは直ぐに謝って来るので、その事で怒ったことは無い。


「ここでは罰もないです。メイは叱って欲しいのです。罰も受けたいのです。一日や二日なら、ご飯食べなくても平気なのです」


 規律の厳しい神殿では謝罪をしたからといって、それで許される事はなく、怒られたり罰を受けさせられていたようだ。起こした失敗の罰を受けたことはあっても、優しくされることないのがメイの生きてきた世界だったようだ。メイがバーナデットよりも二つ歳上なのに体の大きさがバーナデットと変わらないというか少し小さい理由が食事抜きの罰を何度も受けて来た弊害なのではと頭に血がのぼってくる。


「ちょっと!あなた!なんて顔してるのよ!!」


 気付けばメイが真っ青で震えていた。そんな怯えた顔をさせてしまったことにスッと頭の血の気が引く。


「メイ?怖がらせたね。ごめんよ。違うんだよ。別に君を叱ろうとして頭に来ていた訳じゃないんだ」


 ダンジョンの神の神殿は楓のこともあって好きにはなれない。それでもことを起こしたレーテルは神殿を去っているし、知らずに加担してしまったメイも連帯責任で咎められた。これ以上怒っても仕方がないと気持ちを整理したつもりだっだが、いくら失敗や間違いを起こしたからと言って幼い子の成長期の食事を抜くような団体がまともだとは思えなかった。メイの告白を聞いて本気で頭に来たのだ。でも目の前の子を怯えさせては神殿も僕も変わらない。


「メイ。よく聞いて?砦に住んでる皆んなは家族なんだ。僕は家族は迷惑をかけて甘えれる存在だと思っている。そして家長としての僕がメイを不安させないでいつも笑っていられる環境を維持しなければならないんだ。間違えたり失敗したりしたら謝ることはしなくちゃいけないけど。反省はしているんだから罰は要らないんだ。その事でメイは思い詰めては行けないんだよ」

「メイはあまり頭が良くないので家族とはどうすればいいのか、わからないです」

「いまは分からなくてもいいんだよ。これから時間をかけて家族とは何かをメイ自身が見つければいいんだ」

「時間をかけてもいいんですか?迷惑じゃないですか?」

「いいんだよ。迷惑も時間も一杯かけて築いていくのが家族ってものだから」

「メイはやっぱり馬鹿だから、マジク様の言ってることがよくわからないです………」

「わからなくても良いんだよ?僕だってまだまだ、よくわかっていないんだから。きっと家族というのは決まった形なんかがないんだよ。正解や間違いもない。目指すものはあるけど。皆んながそうではない。そんな集まりが家族じゃないかな。いま偉そうなこと言ってる僕も、何言ってるかわからなくなって来たよ」

「マジク様も分からないんですか?メイも分からなくてもいいんですか?」

「いいんだよ。みんなわからないんだから」

「でもでも神子様には嫌われてしまったのです」


 パタパタとぴーちゃんを飛ばせて、僕の背中をキープしている楓に振り向く。


「楓?」


 楓がじっと僕を見つめてくる。暫くして顔をぺしぺしと叩かれた。ぴーちゃんがパタパタと移動を開始する。楓が僕の背中からメイの背中に移動した。


「神子様が戻ってらっしゃいました!」


 不安で暗い表情を落していたメイの顔に笑顔が戻る。感情の変化の激しい子だとは出会った時から思っていたが、今までの生活がそうさせていたんだとメイという女の子を今日やっと知ることが出来た。


「メイは入っちゃいけないって言われていた聖堂に間違えて入ってしまって、神の言葉が見えたものだから小間使いから急に巫女姫になったです。暖かい部屋にベッドにご飯。夢のようでした。それなのにメイが調子に乗ったからダンジョンの神の罰が下ったのです。神の言葉が見える能力も要らないし暖かい部屋もベッドもご飯も要らないから神殿に残りたかったです。でもユキエが、もう神殿に居てはいけないと神子様の所に行くように言ったです」


 ユキエが僕にメイを押し付けた本当の理由が分かった。ユキエはメイが神殿で生きて来た現状を知っていたのだ。今回のことを好機と捉えて楓のお付きとメイに納得させて僕の所に来させたのだ。そんな場所だと分かっているのに今も王都で神殿に残ったユキエが心配になって来た。トライセルも神殿に関しては関与することは消極的だった。楓を拐(さら)おうとした過激派と穏健派は違うと聞いていたが根っこでは同じようにしか思えなかった。いっそのこと根本から潰してしまった方が良いのではと過激な感情が渦巻いた。


「また怖い顔してるわよ?どうしたの少し変よ。どうせ私にしか聞こえないんだから、吐き出しちゃった方が楽よ?」


 ラヴィニアが僕の心の隙間をついて来る。頭も良くて気がきく彼女をなぜ神が大罪人として千二百年にも渡って幽閉していたのか、彼女を知れば知るほど分からなくなる。それでも彼女に甘えてしまおうと思うのは、アクセスは違うがこの知らない世界に迷い込んだ仲間と気持ちが楽になるからかも知れない。

 それなのに僕はラヴィニアに大してフェアな行動をしていない。僕は転生者である事を告げずに独りよがりで仲間意識を持っているだけなのだから。それでも甘えてしまうのはラヴィニアが楽になると言った言葉が事実だと知っていたからだ。いつまでも溜め込むのは前世でも社会人で経験した失敗だったのだ。


「メイを苦しめて来たものを壊すだけの力があるのに僕まだ迷っている。メイ以外にも助けが必要な人達がきっといるのに、いま感情に任せて行動することは間違だと僕は決断出来ずにいるんだ。ツケが巡り巡って自分に返って来るのが怖いんだ」

「そう………あなたはあなたで辛い目に遭って来てるのね」

「僕は考えなしで行動して大きな失敗を犯した経験がある。それなのにメイのために学んだ失敗の経験を無にしようとしているんだ」

「それはきっと、そこまでしても良いとメイのことが大事に思ったからでしょ?」

「分からない。でも間違いだと分かっていても抑えられないんだ。負の感情が」

「助けられた私がこんな事言うの変な話だけど、私にはあなたが未だにそんな大それたことが出来るだけの途方もない力があるようには思えないのよね。あなたの力の元が何処にあるか分からないけど、あなたは本当の姿はまだ赤ちゃんなのでしょう?メイは辛い経験が遭ってもあなたよりもお姉さんだわ。力が有っても歳下が口出すことじゃ無いと思うわ」

「メイから見た僕は、十五歳の王国で成人したと認められたれっきとし大人さ」

「………ねえ?何があなたをそうまでさせるの?初めて分かったわ。あなた危ういわ」


 そうだ僕はいつも急地に立たされて危ういところを紙一重で超えて来た。

 だから危うさに麻痺していてもおかしくはない。





次話 「優雨美の微笑み」

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