90、楓の奇行
試練部屋に入って直ぐにも見えた大男達が血だらけになった様子に戦闘態勢に入る。咄嗟にレクナハルバートを展開したが正解だったようだ。蟷螂に似た巨大な魔物の振るった巨大な四本の鎌はレクナハルバートで受けたにもかかわらず健在な強度を保っている。大男の防御力高そうなフルアーマーの鎧に切断された切れ目が沢山あってボロボロになっていた。子分たちが大した怪我をしていないところや先頭を切って魔物と対峙していたことを見ても大男が子分を庇って魔物との間で体をはっていたのだがわかる。態度は大きかったが子分の身を守るだけの気概を見せるだけ人物であったことはわかった。ならば助ける理由としては申し分ないと、僕は鎌をレクナハルバートで押し返す。
レクナハルバートに力を伝えて押し返したにも関わらず魔物の鎌は健在だ。揺らめくオーラが漂う四本の鎌はそれぞれ色が違くて魔物ながらに凶悪な威圧感を感じる。受け止めたのは青の鎌、他に赤、緑、黄色と四属性を連想させるオーラを纏った鎌が隙を伺いながら左右に揺れる。
【 回復 】
大男に回復魔法を行使したが効果が得られなかった。赤の鎌が仕掛けてくるのを見て大きく舌打ちする。体を捻って躱す。目の前を髪の毛が何本か散った。続けざまに振るわれる緑の鎌にガルドーが紅剣バナードを叩きつけた。その隙にレクナハルバートを斜に流し、青の鎌から逃れて間合いを一度取る。レクナハルバートの抑えを失った青の鎌は溶け込むように床に突き刺さった。
【 炎よ 】
行使したはずの魔法に結果が発生しない。
「ガルドーさん!魔法が発動しません!」
「また厄介よのう!」
「回復魔法の行使が出来ません!早く外にでて治療を!!」
振り向いて大男に退避を訴える。魔法が使えない試練部屋とは、また面倒な試練だと思った。メイのやつがダンジョンの神に余計な祈りを捧げるからこんなことになる。後で頭ぐりぐりしてやろうと、大男達が避難しやすいように蟷螂の魔物に肉薄した。
「魔法が使えないなら物理のみでというなら思考が複雑にならなくて良しとしてやるよ!」
八の字を書くようにレクナハルバートを二度切り上げ、赤と青の鎌を弾き飛ばして懐に入り込んだ。一度魔物の腹部に蹴りを入れるがゴムの塊のような感触だ。素早く二、三度目おなじ様に蹴りを入れだが同じ反応だ。振り下ろして来た黄色い鎌を誘い込むようにギリギリで躱して鎌の背を後押しして、蟷螂の腹部に鎌を突き刺し自滅をさせる。
ギギギギィイイ!!
紫色の血が噴き出す。ガルドーが魔物の背後に回り込み背中を斬りつけている。薄い翅が宙に舞った。魔物の注意が背に向いたのを見て、赤い鎌の部分と腕の間にある節にレクナハルバートを叩きつけた。宙に舞う赤の鎌と続けて舞う青の鎌。返す刃で緑の刃も斬り飛ばした。
ガルドーとの連携がうまく行って魔物を四本の鎌を全て斬り落とすことに成功した。
ガルドーが最後に魔物の首を刎ねる。魔物の体が鈍い音を立てて床に投げ出された。
「鎌は強力でしたけど、思ったより弱かったですね」
「お前さんが強くなったのじゃろう?儂も随分と、お前さんの動きに合わせられるようになったしのう」
「この魔物消えませんね。素材として売れそうですよね?」
「売れるじゃろうな。見たこともない魔物じゃからな。試練部屋の魔物という触れ込み付きで王都辺りが黙っておるまい」
「それってトライセル殿下に渡した方が良いということですか?」
「お前さんの力の一端を示す殿下の思惑の手助けとなるじゃろうな。目先の利益より将来に向けた投資だと思えばええじゃろ」
「あんまり嬉しくな投資になりそうなんですが?」
「お前さんには、力を示す物的な証明がほとんどないからな。状況証拠ばかりでは殿下も王都で苦労しておるじゃろう」
「仕方ないのか~」
「それにほれ宝の箱らしきものがあるぞ?奴らは宝箱の罠にハマったようじゃの。目先の宝に罠の確認が甘くなるのは誰もが通る道じゃな」
「開けますか?」
「開けないという選択肢はないが儂は遠慮しよう。お前さんが開けるといい」
「そんなに大きくない箱なので、中身が赤ん坊や人でないのは安心出来ますね」
「お前さんの安心の度合いは異様じゃが、今ままが今ままでじゃからのう。気持ちはわからないでもない」
「ではお金に換金できるものが入っていますように…………………うへぇ~」
「なんじゃ?お前さんの反応みれば大体の予想はつくが、面倒なものなんじゃろうな」
箱が小さいからと甘く見ていたのが良くなかった。宝箱の中には手のひら大の黒い卵が入っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
試練部屋から戻ると、大男達が頭を下げて来た。
「助けて貰ってすまねえ。あんたが間に入ってくれなければ俺は死んでいただろう。きっと若い奴も全員だ。ナマ言ってすまなかった」
「いいえ気にしないで下さい。ですが一つだけ忠告させて下さい。試練部屋は試練の名の通り発見者に合わせた能力の試練が与えられる傾向があるようです。発見者以外の者が試練部屋に入るならば、発見者の力を上回っている必要があります。発見者が何か特殊能力を隠し持っていたら、その能力がないと試練部屋から出る事さえ出来なくなる罠さえ仕掛けられていることも考えられますので気をつけて下さい」
「わ、わかった………貴重な情報を頂けて恩にきる。あんたが剣聖マジクだったんだな。ガキなんて言ってすまなかった。剣聖の剣技と言葉はシブリス家が責任を持って代々受け継ぎ教えて行こう」
「ちょっ、ちょっと待って下さい!何ですかその剣聖って!?」
「王都ではその話で持ちきりだった。成人したばかりの見た目は子供が剣聖となり、王都に現れた魔王を倒して、トリンプル家の令嬢を助け、王都を騒がせた変態を退治、ダンジョンの神殿から巫女姫が同行を許したって話と王国中の名家が婿にと争奪戦で……後は―――」
「もういいです!」
スカーレットが爆笑して呼吸が苦しいのか、ひぃーひぃーと言っている。
「だから、言わんこっちゃない………」
ライオネスがスカーレットを見て、ぼそりと呟く。
「あの記者そのまま書いてやんの!ひー!」
王都で広がっている話の発端が誰にあるのか直ぐにわかった。
「それでは失礼する。この借りは必ず返そう。モルタジフに来た時は必ず寄ってくれ。シブリス家が盛大に持て成すことを誓おう」
大男を含めて全員で綺麗に頭を下げて去っていった。シブリス家の大男の背が見えなくなると先程から待ち切れないと興奮して見えたバーナデットがとてとて近付いて来た。
「何を見つけたの?ピキピキーって来てるのよ?」
「俺も感じてるぜ、かなりだな?」
「儂も紅剣バナード以来じゃなこの感覚は」
ペラム家の<秘宝狂い>持ち四人に囲まれる。早く早くとバーナデットに急かされて試練部屋から運び出したモノを袋から出す。蟷螂に似た魔物の鎌は鎌だけになると四色のブレードのようで、このまま柄を付ければ逆反り片刄の風変わりな剣になりそうだ。それが四本も久し振りに臨時収入になりそうだっただけに、まだトライセルに渡すのが惜しくなってしまう。
「これは魔物の素材か?かなりの物のようじゃが――」
「違うのよ?もっともっと凄いのよ?」
「うん。これではないね」
「なんですか?反応が悪いですね。良さそうな戦利品なのにな~」
レアで高く売れそうな魔物の素材を手に入れたというのに皆んなの反応は普通だ。これだから上流階級の金持ちはと息を吐く。
「勿体ぶらないで早く試練部屋の戦利品見せなさい?」
スカーレットに睨まれた。何だまったくと僕は黒い卵を渋々取り出す。興味津々で取り囲んできたペラム家全員だが、黒い卵を見てバーナデット以外の全員が眉を寄せて無言になる。
「何じゃこれは?卵か?」
「凄いのよ?すんごく凄いのよ?」
バーナデットがぴょんぴょんと跳ねる。
「何が産まれるですか!?」
バーナデットとメイが目を大きく見開いて僕の手のひらに包まれた卵を覗き込む。
「また、あなたえらい物手に入れたわね。うちの子の反応見ても、大きな宝石見つけるよりも反応が良いわ」
「お主のことだから、頭を抱えるような生き物が生まれるのだろうな」
「でも卵って、魔物の素材と一緒に入れて大丈夫だったの?」
「ええ、ちょっと叩いて見たんですけどこれ見て下さい」
僕は指を弾いて卵を叩いて見せるが透明な膜がそれを阻む。
「持つのは平気なんですけど叩こうとすると弾かれるんです」
「落としたらどうなるの?」
「え?流石にそれは――」
「駄目なのよ?可哀想なのよ?」
「駄目です!ダンジョンの神からの贈り物に何と罰当たりな!」
「さてこれどうしましょうか?」
「反応は凄いが、これはやはりお主の管轄だろうな」
「私欲しいのよ?駄目なのよ?」
「ダメよバーナちゃん。きっと変なの出てくるから」
「変なのですか!?」
「きっとコイツの卵だから変態さんが出てくるわよ」
「変態さんは生まれてきては駄目なの?」
「ダンジョンの神の贈り物に変態など…産まれませんよ?」
「メイ。何で最後は疑問形なんだ?」
「だってねぇ~」
「そうよねぇ~」
「黒いし」
「真っ黒な卵なんて初めて見たよ」
「黒だしの~」
「皆んな楓と僕の頭を見て言わないで下さい」
「あー!あぅーあー!!」
楓が両手を伸ばして来た。卵に興味があるようだ。楓の頭と殆ど同じ大きさの卵を近づける。
ペシッ!
「だぁー!」
卵を引っ叩かれた。床に叩き付けられた。
「何すんの!?オマエ!?」
ガチで楓に怒鳴ってしまった。
「びぇ~ん!!」
「神子様!大丈夫ですよ!?よしよし!」
転がる卵は割れていないが、かなりのびっくりした。
楓の行動といい黒の色といい、メイが余計な祈りを捧げるからやはり変なことになって来た。楓が黒い卵と一緒にされて憤慨したのか、第二回バーナデットのダンジョンデビューは楓の思いもしなかった行動で幕を閉じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 風よ斬り裂け 】
樹木が数本根元から伐採される。魔法とは本当に便利なものだ。
「まるで破壊者のようです!」
僕は砦から北へ深い森の奥に楓とメイを連れて訪れていた。ガルドーから隠したい素性があるなら、念のために偽装工作をしておくようにと言われたのが発端である。あればあるで確かに何かの役には立ちそうなので直ぐにも行動に移したというわけだ。
メイに背負われた楓が機嫌悪いのは、昨日ダンジョンで怒ったのが尾を引いているようだ。派手な魔法を使っても楓は、ぶすっとしている。いつもなら落ち着かせるのが大変になるほど興奮するのだが。
【 風よ 】
伐採した樹木を建築資材に加工する。
「まるで手品師のようです!」
自分でも驚くほど思い描いた通りにパーツが出来上がったのは、<家事能力>が関係しているようだった。ピースクリフトのダンジョンで転移によって迎えられた先にいた美丈夫の神の助言に従っておいてよかったと思う。一番初めに邂逅した神は何処の何の神か未だにわからないが他の神に比べて雰囲気が別物の様だった。神に上位や下位といった区別があるか知らないが、あの美丈夫の神は明らかに上位の神だと今は断言できる。その上位と思われる美丈夫の神が助言してくれた<家事能力>は、はじめは何で他の魅力的な能力よりも薦められたのだろうと疑問に思ったが、確かに言われてみれば家事と一括りに加えると様々な能力が必要となることが使って見てわかった。応用力が高い能力として<家事能力>を選択しておいて本当に良かったと思う。
あらかた伐採した樹木で部材を作り終えると家を建て始める。マジクが生れ育った生家の建築だ。オリヴァーとライオネス達のピースクリフト上層部の密談の内容をリークしてくれたガルドーの情報から、僕の偽装工作としてピークトリクトの人里離れたところで今まで育ての親と二人で生活していたという僕が考えたシナリオだ。育ての親が死んで家を出たのが一年前で、行き倒れていたところを助けてもらったのがマイオリーヌという安易な設定となる。今回は出生に関わるこの生家の事だけをうまく漏らして、マジクとマイオリーヌとの出会いは秘密にしておくことにした。嘘ばかりで話せば話すほど、考えていない前後関係の辻褄が辛くなるのは目に見えていた。所詮作り話なのでいつボロが出てもおかしくない。今は信じたいと思っている相手に信じられるだけの情報を与えるのだけが目的なので安易な偽装工作でも問題はない。ガルドーが情報をリークしてくれて僕の側として動いてくれているのは、僕と共に行動したいが故である。協力の見返りはガルドー自身の更なる向上故だった。
適当に作った家というか小屋だが、これも<家事能力>のおかげか中々上出来なものになっていまった。
勿体無いとは思うが致し方ない。
【 炎よ暴れよ 】
完成したばかりのマジクの生家が炎上する。
「まるで破滅者のようです!!」
僕の生家は、僕が家を出た後に火事で燃えたことにする。
【 雷よ 】
放電の音が鳴り近くの木が燃え上がる。
【 砂塵よ 】
「まるでこの世の終わりです!」
あたり一帯が酷い有様になる。これで僕の生家が存在したと思われる場所の偽装は完了だ。結局メイ一人が興奮していただけで楓のご機嫌取りとは行かなかったが、当面の誤魔化しとして後のことはまた考えるとする。
次話 「禍の種」




