表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界Baby  作者: 本屋
81/112

81、檻の中の女の子


 ガルドーの紅剣バナードが紅い軌跡を描き、僕の剣が風を巻く。ダンジョンの神の悪戯から下層のダンジョンに難易度が一気に上がり、進行方向の通路の途中に出来た広間に足を踏み入れると、四方八方から魔物が襲って来た。

 僕が扱う無骨な剣は王女達の戯れでトライセルに用意してもらった剣で白騎士サルバとの対戦で使用した物だった。ディナスとの対戦の後にトライセルに返却しょうとしたら、そのまま預けられ僕の相棒が一振り増えることになった。飾り気を除外することで、<剣術能力7>が必要にまでに仕上げた性能重視の剣で銘はないが、僕は一目で気に入った代物である。神剣レクナハルバートは余程のことがない限り使わぬように心掛けている。東神の竜族の長に頂いた理由の重さがレクナハルバートを使う意味を重要視させ、軽はずみで抜ける剣ではなくしていた。東神の竜族の長が求める応えをレクナハルバートを通して伝わるだけのことを僕は成さねばならならない。

 魔物は人型だが体が鉱物で出来ていて、壁と屋根から溶け落ちるように生えてくる。無限に生まれ出て続くような感覚だっだが、体を慣らすため広間に止まり続けていた。魔物の特性が興味深く修練に適していたからだ。


「剣王と最高位がここまでとは………」


 魔物は体が様々な鉱物で成り立っているようで、鉱物によって属性が違っていた。属性に合わせて対属性で攻撃を与えるのが効率よく、剣に属性を纏わせるガルドーが得意とする剣術の良い練習の場となる。バーナデットのダンジョンデビューの場で見たガルドーの技を盗み、同じように扱えるようになるまでは、かなりのアレンジとなったが見た目ではガルドーと僕のやっていることは周囲からは同じに見えるだろう。中身は全くの別物なのだが。その事実に気付けている者はこの中で僕とガルドーしかいない。レクスタ家の二人が気付けないということは、二人のレベルがそこまでということで、彼女らの実力を測る結果ともなった。

 ガルドーと僕の違いは一目瞭然で、ガルドーは二属性持ちだが、魔法特性は持っていないので魔法は使えない。だが剣に属性の魔力を纏わせる技をガルドーは習得していた。ガルドーと同じことをしようとしても出来なかったので、自己流にアレンジして僕の場合は剣刃全体に属性の魔法を纏わせている。一々魔法名を言わなければならないのと、前の魔法を消さないと属性同士が干渉して危険なので、効率の悪い面倒なアレンジだった。ガルドーと違って僕は全属性に対応できるため、やろうと思えば全て変化させられるのだが、流石に一体一体消しては掛け直すのは面倒で疲れるので実行はしていない。僕の魔法の行使に必要なイメージとなる魔法名を発声する工程をうまく短縮出来ればとは考えてはいるが、何一つ取っ掛かりが出来ていない。僕の魔法行使はイメージが大事なので、何かを省くことでイメージが弱まり、発現された効力まで弱まってしまっては意味がないのだ。


「無限に湧いてくるタイプかのう?」

「そのようです。劣化も見られませんし、かなりの劣悪な部類の罠です。この手の罠はガルドー様とマジクが居なければ、犠牲を覚悟して突破するか引き返すしかないですね」


 ビギアルが専門家らしい分析をしてきた。いつもなら進行方向として通る選択肢を初めから持たない、罠が確実にある広間だそうだ。


「そろそろ終わりにするかのマジク」

「了解です。殿(しんがり)は僕が持ちますので通路に進んで下さい」


 進行方向の通路付近で戦闘をしていたので、いつでも止めることが出来た。初めは殲滅することで新たな通路などが出来る仕掛けが施されている可能性も考えての戦闘だったが結局は何もなく、ただの修練の場になって終わってしまった形だ。


「帰りも通るかも知れんからの、派手な魔法はやめておけよ?」

「承知してますよ」

「え?魔法!?」


 レクスタ家の二人から驚きの声が上がるが無視して魔法を使う。


 【 乱風らんぷう(やいば)


 乱した風が刃となって魔物を切り刻み、切り刻まれた魔物の体が風に舞って新たな凶器と化して更に魔物に襲いかかる。連鎖する破壊は広間全体に広がり、破壊をし尽くした。

 ディナスか言うクリエイトした魔法。この世界の魔法は既に偉大な魔法使い達が、試行錯誤を繰り返して魔法構成を編むことで発現させることに成功したものだ。多くの魔法は書物に記されて王国中に広がり、幾つかの魔法は一部の者達が独占する。そんな年月と歴史を吹っ飛ばして魔法を行使している僕は異端で非常識な魔法使いであった。僕の魔法はそのほとんどが、前世でプレイしてきたゲームのものだ。


「凄い……魔法も一流………」

「そして剣でも最高位。これが英雄と呼ばれる者の力か………」


 レクスタ家の二人が僕の魔法の行使を見て、そう呟いた。武神十四信仰宗家の纏め役レイモンド卿も知っている僕の力の一旦だが、二人の元にまで僕の情報が回っていないようだ。王国中に分家を従えるレクスタ家にしては、お粗末な気がする。武神十四信仰宗家は組織として裏では上手く連携が取れていないのか安易に連想させた

 魔法の行使が終わった広間を確認してみると、魔物のリポップは収まっていた。広間に居続ける事で永久的に沸き続ける仕様のだったようだ。


「ほらメイ。行くよ?」


 三十分は戦闘していたので、みんなには休憩をして貰っていたのだが、知らぬ間にメイは寝てしまっていたようだ。やはり初めてのダンジョンで気が張っていたのかもしれない。楓はメイの体の上でメイの顔を弄くり回していたのだが、目を覚まさずにされるがままになるほど疲れているようだ。ダンジョンに入って、そろそろ五時間になる。一度は休憩を入れているが、大人のレクスタ家の二人も疲れた様子を見せていたので、初めての経験となるメイには目に見えている以上の疲れがあるはずだ。


「ふあ~い」


 楓が僕に向かって手を広げてくる。メイの疲れも考えて楓の要求を呑むことにした。楓を抱き上げるとしっかりと両の手で二度と離さないと言わんがばかりに僕の服を握りしめてきた。

 楓が嫌がっているのは確かだが、泣くまではいかないので、メイにはスカーレットの代わりが出来ると見ている。


「楓?暫くの間だけだからな。危ないときはメイの元に行くように」


 楓が首を傾げてくる。母の手作りのリボンが揺れて可愛いが、分かっていない素振りだ。最近都合よく使い分けられているような気がする。小悪魔化をしている感じがする。


「メイは手を繋いで行くよ」

「ふぁいです」


 まだ寝ぼけているようで声に元気がない。


「足元だけ気を付けてな。危ないからな」


 まともに足がついて来ていないので危ない。メイも暫くおんぶして歩こうかと考えていたときだった。メイの足元に魔法陣が光る。咄嗟の行動だった。メイの手を引っ張り上げて投げ飛ばすと同時に、片腕で抱いていた楓も放り投げた。体が魔法陣が発する光に包まれて視界が真っ白になる。

 ガルドーの方に投げた楓とメイのことだけが気掛かりだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 いつも思うのだが、もう少しスマートに案内出来ないのだろうかと思う。罠にはまったのが僕一人だけだったので一安心する。僕も随分と急な状況変化に慣れたものだと思う。思ったより動揺していないし冷静だ。

 罠は転移の魔法陣だったようで、連れてこられた場所は大きな扉だけが鎮座する狭い部屋だった。扉は試練部屋特有の豪華な意匠のもの。真っ黒なところがいつもと違って禍々しい。

 まずは扉には触れずに部屋の壁をチェックする。出来れば扉の先には行きたくない。もしかしたら壁に隠し扉があって引き返す選択肢が用意されているかもと甘い期待を抱いて探す。

 僕の甘い考えをあざ笑うかのように隠し扉などなく、唯一の扉が早く開けろと急かしてくるような錯覚を感じた。一つ深呼吸をして覚悟を決める。昨日の訪問者は一応言葉を交すこと出来たので、まずは交渉からだ。

 扉に手を当てて押すとずっしりとした重さを感じた。冷んやりとした空気が足元に抜ける。試練部屋に入ると扉と同じく部屋の中の壁から天井全てが真っ黒で狭い空間だった。今までの試練部屋と違って戦闘を行うようなスペースがないので拍子抜けしてしまう。壁に灯るクリスタルの明かりだけで薄暗く陰湿な雰囲気がある。部屋の奥に檻があって目を凝らすと中に何かが見えた。


「あのー?どなたかいらっしゃいますか?」


 声を掛けるが返事はない。二メートル角の大きな檻で正面に三つ鍵穴が見えた。檻の中の様子は薄暗くて良く見えないのでレクナハルバートを装備して最大限の警戒でゆっくり近付いて行く。近付くにつれて檻の中の様子が見えるようになって来た。檻の中の正体が見えて息を飲んだ。

 太い鎖に体中を雁字搦めされた女の子がいた。腰まで伸びる長い銀色の髪に真っ白な肌。長い睫毛(まつげ)が伸びる瞼は閉ざされていた。


「あの?すみません?」


 反応がない。檻に手を掛けると一瞬にして風景が変わった。真っ白な空間になっていて、<危機察知3>が鳴り響き頭の上に影がさしたのを感じてその場から飛び退く。

 ズドンっと激しい音と振動が響いた。巨大なゴーレムが拳を床に打ち付けていた。何が何だか意味がわからず呆然としてしまったが、相手が待ってくれない。レクナハルバートを構えながら身を引いてゴーレムが振り抜いた拳を躱すと、レクナハルバートでゴーレムの腕を切断した。切断した時の鈍い感覚でゴーレムの体がかなりの硬さを持っていることが伝わる。レクナハルバートは神々の塔の壁さえも抵抗なしに切り裂くことが出来た剣である。そのレクナハルバートで切断は出来たが確かな抵抗を感じたのだ。警戒度を最大限まで上げる。腕を一本切り落としても攻撃が止まらないゴーレムを相手に大きく体を振って躱し続ける。躱すことに徹しながら、またもや転移されて来られたらしいこの部屋を観察する。檻の部屋と違って数十メートル四方ありそうな巨大な空間に出入り口らしき扉や窓はなく密室のようだった。状況から判断して目の前のゴーレムが出口と考える。


 【 氷牙ひょうが


 氷の牙がゴーレムの体を上下から串刺しにしようとするが、レクナハルバートでも斬るのに抵抗を感じたほどなので傷など付かない。だが狙いはゴーレムの足止めなので問題はなかった。一瞬でもゴーレムの動きを止める事が出来れば良かったので、隙を見せたゴーレムの動きに十分の効果を得られたと攻撃に転じる。


 【 炎鬼えんき


 炎で出来た鬼がゴーレムに掴み掛かって衝突するとがっぷり四つの体勢になる。僕はレクナハルバートを正面水平に構えて手を添える。


 【 呀炎がえん


 レクナハルバートの刀身に荒れ狂う小さな炎の牙が暴れ狂うのを見て、ゴーレムの背後に回り込むとレクナハルバートで袈裟斬りする。抵抗を感じず振り抜いたゴーレムの切断面で炎の牙が暴れていた。ゴーレムの体にヒビが広がり炎の牙が更にゴーレムの体の中で暴れ狂って見える。痙攣するゴーレムを見て大きく後ろに距離を取るとゴーレムの体から光が漏れて爆散した。

 飛び散る破片をレクナハルバートで弾き飛ばすとやっと一息つく。


「流石にまた転移させられるとは思わなかったな」


 周囲に変化がないか警戒は怠らずにしていると、ゴーレムが爆散した場所に光るものを見つけた。恐る恐る近付くと鍵が落ちている。黒光する鍵だった。拾おうと鍵に手が触れたら風景が変わって、元の真っ黒な檻の部屋に戻っていた。掌には黒い鍵があって目の前には三つの鍵穴。


「うへ。もしかして三つの鍵を手に入れるために三回も転移させられるのかこれ」


 黒い鍵には髪の長い女性のモチーフが彫られている。


「鍵を回すと次の転移が発動するのかな?」


 一番下の鍵穴に射し込んで鍵を捻るとガチャリと音が鳴った。すると目の前の女の子の鎖が外れて床に散らばる。それでもまだ一部の鎖だけで、相変わらず女の子体に鎖は巻き付いたままだ。


「ふむ……切れないかなこれ?」


 何時もの反則技を思い付く。この檻自体をレクナハルバートなら切れるのではな無いかと刀身を前に出して魔法を纏わせる。


 【 黒炎こくえん


 レクナハルバートの刀身が真黒い炎に包まれた。吸い込まれそうな黒い炎にどきどきする。少しやばいかも知れない。(はす)に構えて檻に向かって刀身を振り下ろす。レクナハルバートの刀身が檻に触れたか触れないかのうちに風景が変わっていた。また先ほどと同じく真っ白な広い空間に三つの首を持つ龍が待ち受けていた。



次話 「大罪を犯し者」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ