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異世界Baby  作者: 本屋
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79/112

79、同行者


「ペラム家の方々ですね?」


 男女の共に物腰は柔らかかったが、その無駄のない洗練された仕草は高位の戦士のものだと僕はガルドーの鋭く輝く瞳を見て確信した。


「レクスタ家由来の方ですか?」

「私はレクスタ=ディアナと申します」

「俺はレクスタ=サイラスです」

「私はペラム=レノックスです。よろしくお願いします。それと客人ガルドー様、遣い役ビギアルとマジクとなります」

「レノックス様。遠い所にご苦労様です。剣王ガルドー様お噂は予々伺っておりました。ビギアル殿とマジク殿の名も我が家まで届いております」


 かなり気を使われている気がした。今回の強引な手腕に対する引け目なのか、ペラム家の家名や剣王の名がそうさせているのか、確かにテーブルに座る面子を見てもかなりの豪華だと思う。レクスタ家の二人も合わせて流石にこれだけのメンバーが一堂に会して、その人物達の名が聞こえれば食堂を利用していた他の客達がざわめき出すのも頷ける。レクスタ家はユースモア領が自領ということもあって領民には名高い名家であるそうだし、ダンジョンの町だけあってダンジョンで生業を建てるものも多く、そんな者達がペラム家を知らないわけがない。そして武神十四信仰宗家があるユースモア領にて王国一猛者が集まる土地柄で剣王ガルドーの名を知る者が多いはず。視線が集まるのも、そんな視線を気にしない大物感も、明らかに楓にミルクを飲ませている僕だけが浮いているのも引っくるめて異様な雰囲気になるのが当然だった。


「マジク殿。この度のダンジョン探求におきまして指名をお受け頂きましてありがとうございます」


 これだけ名高い者達がいる中で僕の名を強調するような話しかけの内容に、周囲の興味が集まるのは当然だった。赤ん坊のお守りが指名?と食堂のギャラリーの頭の上にあからさまにクエッションマークが見える。すっと食堂の喧騒が収まり周囲の目線が僕に集まってきた。

 楓がミルクを飲み干し眉を寄せてきたので優しく背を撫でて上げる。


 ゲフゥー


 楓のげっぷが静かになった食堂に響く。わざとではないのだが、女の子の楓に悪いことをした気がして心の中で謝っておく。


「不躾ですがマジクに会話の許可を願います」

「これは失礼した。マジク殿。明日にはダンジョンを共にする身だ、今後は気兼ねなく話しかけてくれて構わない」

「ありがとうございます。ペラム家が遣い役マジクです。よろしくお願い致します」


 ライオネスとオリヴァーにはレクスタ家が何の目的で僕を指名して来たから調べては貰ったが、限られた時間では、はっきりとしたことは分からなかった。レクスタ家が掴んでいる僕の情報は、レイモンド卿が知っている情報よりも確実に少ないだろうとは言われている。レクスタ家とレイモンド卿の中は良好ではないとの事なので、レイモンド卿が情報を流すこともないそうだ。レクスタ家が掴んでいるとされる情報は、ピークトリクトがレクスタ家にマジクの言う名の少年のことを探りを入れて来たこと。タンドーラ家から嫁いで来たマイリオリーヌのとことに身を寄せていること。竜殺しであり、剣術の最高位である<剣術能力9>まで上り詰めた者で、その能力の高さに国王陛下にお目通りがされて将来有望と名を覚えられたこと。レイモンド卿が王都の屋敷に招待したことなどが挙げられていた。

 この中で母関連の情報だけが、レクスタ家で起きたこと言うこともあってレクスタ家が真相を独占しているはずだ。レクスタ家が接触したことで再度母に嫁ぎ先のことを聞いてみたのだが、出発前に結託していた母とバーナデットの反抗戦線の前に何も聞き出せなかった。母とバーナデットの双方の願いが聞き届けられるまで彼女らは頑なに反抗をしていて、ユースモアの遠征に連れて行くという選択肢は初めからないものなので、母とバーナデットを騙す形で嘘の情報を与えて前倒しの強行出発にまでなっている。何も解決していないままのユースモア遠征をスタートさせてしまったのだ。ライオネスが遠征から戻ってくるまでに火消しをしておくと約束はしてくれたが、母には僕からも何か埋め合わせを考えておかないと機嫌を直してくれないだろうと踏んではいる。

 遠征に出る前にオリヴァーとライオネスから国王陛下の覚えめでたい剣術能力最高位の僕に、探りを入れる機会を得るために指名をして来た可能性を示唆された。しかし一歩間違えば立場が危うくなる可能性を秘めているだけに、理由としては弱いと言うのが現在の見解だ。

 笑顔で握手を求めてきた好意的な女性のディアナと違って、男性のサイラスは僕に対して嫌悪を抱いているような表情で握手を求めては来なかった。


「丁度良いので明日のダンジョン探求への説明をさせて貰っても?」


 レノックスが問いかける。僕自身こんな食堂の場で話しても大丈夫なことなのだろうかと不安になった。軽視されていると囚われてもおかしくない。レクスタ家の二人もきょとんとしてしまっている。


「勘違いされませんように、私どもペラム家は決して依頼主に対して分け隔てをしません。我が母は王都の大貴族相手にもパーティーの最中に説明をしたことがあります。私どもペラム家はやり方在り方を隠しては居ないのです。公表もしていませんが聞かれたとして困るものでもないのです。聞いた情報だけで我々ペラム家と同じようにダンジョンを探求出来ると思うならやって見れば良い。我々ペラム家は情報を抱えることで今があるわけでないこと知る機会を得ることが出来るでしょう」


 レノックスの言葉には他者を威圧するだけの重みが感じられた。他領への遠征が許されるペラム家の者が求められる能力を初めて見せられて、トーリにはまだ許可されていない理由を知る。王国中の貴族を相手にして来ただけのことがあるということなのだろう。


「さて説明に移りますが、その前に同行はディアナ様とサイラス様のお二人になられますか?」

「はい。私ども二人が同行を仰せつかっております」


 レノックスの空気に飲まれてしまった二人が緊張した顔で返事をした。


「分かりました。我々ペラム家側からは、ここにいるメンバーにメイ様という巫女様が加わり六人、レクスタ家からお二人と言うことで計八人の探求チームとなります。レクスタ家のお二人には自らの身を守ることだけを役割として貰います。これはどの依頼でも同じことなので反論は認めません。おわかりのように探求に関しての全権は私が持ちます。既にご理解は頂いてるとは思いますが宜しいですね?」


「はい依頼を請け負う条件とされていますので、ダンジョン探求においては全てに従います」

「結構です。お二人のダンジョンでの探索では、あまり力は入れずに私どもの後について来てくれれば問題ありません。今回は都合の良いことに戦力としては申し分がありません。多少のトラブルにも問題なく対処できるだけの人材が揃っておますのでご安心ください」

「次に最低限の探索時間として二日間が与えられております。一日目に大した成果が得られない場合のみ二日目には依頼主の意向も組み込みますので、一日目は我々の判断に反する行動がないようお願いしておきます。二日間というのは最低限の探索時間ですので、私の<秘宝狂い>が反応している限り探索は延長されますので、その時間も含めて五日間の準備をお願い致します。もし五日を過ぎて反応が続き<秘宝狂い>が示すものに行き着けない場合は、お二人には我らの中から護衛の者をつけますのでダンジョンを出て頂きます。その後の探索は私達だけにお任せいただくことになりますので、ご理解をお願いしておきます」


 これは遠回しな足手まといを切る事前確認だった。<秘宝狂い>が反応していて五日目を過ぎてもその場所に辿り着けないのは、同行者に原因があるとペラム家は言っているのである。<秘宝狂い>が反応して三日で辿り着けないことなどペラム家の者にとってはあり得ないのだ。原因があるとすれば全て同行者が足を引っ張っていることに他ならない。


「はい。そちらに関しても依頼前の条件として理解しております」

「ご理解ありがとうございます。ペラム家としての実績は事前にお知りと思いますが、今回も二日でペラム家の力をご確認して頂けると思います」


 レノックスはレクスタ家の二人に笑みを浮かべた。これがペラム家であり、ダンジョンを生業とする者達の尊敬を集めるダンジョンマスターと呼ばれる者達の自信とプライドだった。

 だかこれは外向けのペラム家がいつも行うデモンストレーションで、レノックスは移動の途中で僕に対してずっと愚痴を言って来ている。「本当はバーナデットとダンジョン探求を楽しむ予定だったのに何てこんな事に」「君の手綱なんて私には手が余るに決まってるじゃないか」「君と出会う試練部屋は死神が付きまとういうもっぱらの噂だからね気が重いよ。私はまだ死にたくない」「もし神様が出てきたら私は一目散に逃げるからね?後は君が何とかしてよ」天神海領のダンジョンでのレノックスの印象は身も心もイケメンの格好良い男だったのだが、あれから何があったのだろうか。いまは残念イケメンにしか思えなかった。


 部屋に戻るとメイがまだ目を回していた。何か食べさせた方が良いのかも知れないが、このまま休ませることにする。楓もあくびを繰り返しているので寝かせて僕も早めに寝ようと思う。明日は昼前からのダンジョン探求となるが、朝早く起きて探求に使う荷物の最終確認を行わならければならない。楓が眠るまで横で小さな手のひらに人差し指を持って行き、楓が握ってくることで安心して眠って行く。


「もう少し待ってくれる?」

「いいよ?」


 楓が眠ったのを確認して振り返ると男の子が立っていた。メイと同じぐらいの身長で髪がボサボサで片目しか見えない。<危機察知>は反応していないが、扉も開いた形跡がないのにこの部屋に侵入している時点で警戒は怠らない。


「どちら様かな?」

「あんまり驚かないんだね?」


 予想を超えるトラブルに慣れ過ぎたお陰かも知れないが全く有難いとは思わなかった。


「何の用ですかね?」

「楽しみ過ぎてもしも、ここまで来て会えなかったらと思うと居ても立っても居られなくて、挨拶に来たのさ。礼儀正しいだろ?」

「礼儀正しい人間は、そもそも人の部屋に忍び込まないんだけどな」

「それは君達の種族が決めたルールだろ?」


 聞きたくない言葉が出て来てしまった。目の前の少年は自分が人外だと言っている。


「挨拶は済んだし明日は楽しみにしているよ。じゃあな」


 少年の姿が霧となって消えたことで、人外の者ということを証明して去っていった。まだ何かの能力の可能性もあるが明日にはわかることだろう。


「名を名乗らない挨拶は、挨拶とは言えないと思うんだけどね」





次話 「メイの背中で」

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