78、お菓子禁止令
「わ~ん、マジクちゃんだけ旅行行くなんてズルいです~」
母が泣いていた。
「わ~い!メイはお出掛け組です!」
メイが楓を抱き上げ大喜びしていた。
「わ~ん~マジクちゃんが冷たいです~」
「神子様の面倒はメイが責任を持っていたしますよ!」
「わ~ん」
まあこうなったわけだが。母が泣き出すとは思わなかったので途方に暮れている。これの機嫌を直すのは骨が折れそうだ。
ユースモア領にダンジョンの探求に行くことを黙ってるわけも行かないので正直に母に伝えたのだが、母は初め勘違いして喜んでしまった。また僕達と一緒に旅が出来ると思ってしまったのだ。そこに今回は連れていけないこと告げたらこの世が終わったような悲しい顔に変わって、メイを連れて行くことを告げたら泣き出したというわけだ。最近母が幼児化してきている気がする。
「アキちゃん~お兄ちゃんが家族を裏切ったです~」
メイがいる前だが母の言うお兄ちゃんも、兄妹としてのお兄ちゃんと年上の近所のお兄ちゃんみたいに分かりにくいニュアンスがあるので平気のようだ。
疑問で引っかかっているような様子もない。
「わ~ん」
「うぎゃ~!」
母が泣きながら抱きついたのでアキちゃんも泣き出してしまった。
「マジク。オレはどっちなのだ?」
「優雨美様はどちらでも良いんですが、観光とか遊ぶ時間はないですよ。宿場にも寄りませんので移動中は全部野営の野宿だから持っていくの食料を食べます。美味しいものも一切ない旅になるでしょう。直接ダンジョンに行って探求して直ぐに帰ってくる予定にしています」
「ならばオレは行かないな」
「その方が良いですね。カウタは悪いけどマイリオリーヌ様のことをお願い」
「了解しました」
「メイ?喜ぶのも良いけど強行の旅になるからね。覚悟しておけよ?」
「大丈夫なのですよ!メイはあらゆる苦行を耐えて来ましたので!」
「何があったの?神殿で………」
「わ~ん~アキちゃんきっと私達はお兄ちゃんに捨てられるんです~」
「そんなことをしませんって。今回は安全が確保できないので連れていけないんです。馬車もないんで馬での移動になりますし、雨でも休まず進みます。アキちゃんもマイリオリーヌ様もとても耐えられる旅ではないんてす。わかって下さい」
「なんか騒がしいのう」
「マジク?女の子を泣かせではダメなのよ?」
「ダンジョンの探求遠征に連れて行けないと言ったら泣き出してしまったんだよ」
バーナデットとガルドーが部屋に入って来た。現在砦はオープンな感じだ。それもカウタがいるおかけで、知らない人間が入って来たらカウタが教えてくれるし、明らかに悪意を感じたら捕縛してくれるようになっている。とても優れたセキュリティと化しているのだ。
「ガルドーさん何かあったんですか?」
つい一時間ほど前に会ったばかりのガルドーが砦に来る理由が思い当たらない。
「いやのう、お嬢がのう………」
バーナデットが泣いている母とアキちゃんの頭を交互に撫で撫でしていた。微笑ましい風景なのだが、バーナデットの僕を見る目線が険しい。
「私もユースモアのダンジョンに行くのよ?」
「というわけじゃ」
「はい?ライオネス様が許可したんですか!?」
「いや。ライオネスもスカーレットも許可しておらん」
二人はバーナデットの説得に失敗したのか。いつものお菓子で懐柔する作戦は失敗したのだろうか。バーナデットがいつまでもお菓子で釣られるようなお子様ではないと成長を喜ぶべきなのかもしれない。
「ミーナがもうダメだとう言うのよ?」
ミーナはリリアの母だ。ペラム家の遣い役ではないがスカーレットを初めペラム家全体の家事を取り仕切っている存在だ。
「王都から帰って来たお嬢を見てミーナがのう……お嬢からお菓子を取り上げたのじゃ。しばらく禁止だそうじゃ。ワシらは気付かなかったが、お嬢は少し丸くなっとるそうだ」
「そう言われて見れば確かに、出会った頃よりふっくらしてるかもしれませんね」
ペラム家で目を光らせていたミーナから一月以上離れている中で、両親には懐柔目的に大量のお菓子を与えられて、兄達からは競争するようにお菓子を与えられ続けたバーナデットはふくよかになっていたらしい。一緒にいた僕達には変化がわからなかったが、ミーナが見た瞬間ぽっちゃりしていたのがわかったらしい。それで、お菓子を禁止されたわけだが、懐柔手段がなくバーナデットはユースモアのダンジョンの探求について行くと行って反抗したそうだ。いままでお菓子で釣っていた反動も大きかったのだろう。都合が悪い時はお菓子を貰えるという生活に慣れてしまっていたのだから、その生活を崩されれば反抗するに決まっている。お菓子好きを利用して、お菓子に対する執着が大きくなるのを野放しにしていたツケが回って来たのだ。大好きなお菓子を禁止されて楽しみにしていた二回目のダンジョン探求も延期され、その理由が僕達のユースモアのダンジョン探求遠征を優先したからだと知ったバーナデットが癇癪を起こすのも無理ない。
「バーナデット?今回は強行日程になる予定だし、不確定な要素も多くて安全な計画が立てられそうもないんだ。だからね――――」
「いやなのよ?行くったら行くのよ?」
話をしている途中で遮られた。これは少し意固地になっているようだ。普段見られない目付きは三白眼なので、しっかりと記録をしておく。バーナデットのアルバムも順調に集まって来ている。僕だけしか見れない僕だけの秘密のアルバムだ。
「わ~ん~アキちゃん~ママが泣いてるのに楽しそうにしている~わ~ん」
ちゃんと母とアキちゃんのアルバムも更新しております。
「お前さんにも説得して貰おうと思って来たのだが、やはり望み薄よのう」
「もう一纏めにバーナデットの二度目になる探求も、ユースモアのダンジョンで行なってしまうのも良いんじゃないですか?」
「なにを思い付きで話しとるんじゃお前さんは?一日で済む予定のバーナデットの探求を、十日の期間を予定しているユースモア遠征と一緒に出来るわけがなかろう」
「やっぱり駄目ですか。まあ駄目元で言ってみただけですので」
「そうなのよ?それがいいのよ?マイリオリーヌもアキちゃんもみんな一緒に遠征に行くのよ?」
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兼ねての予想通り決まったレクスタ家からの依頼となるユースモア領のダンジョン探求遠征組のメンバーは僕と楓にメイ、ガルドーとレノックスにレノックスの遣い役のビギアルとなった。ビギアルはトーリの遣い役であるセリルの夫である。レノックスは遠征で他領に赴くことが多いこともあってビギアルとセリルは夫婦として共に過ごせる時間が少ない。それもわかった上での結婚だったので、二人はその事について気を使ってなど欲しくないのだが、そうも言えないのがペラム家の身内に対する人の良さなのかもしれない。ビギアルは冒険者として、とても優秀だそうで遣い役でありながらも三級まで上り詰めており、三十歳では異例のスピード昇級だそうだ。冒険者としてのランクはダンジョンの探求回数とダンジョンでの新たな罠や仕掛けの発見と対処法の確立などが最も高く評価される。他にも魔物の討伐数や希少な物の発見なども評価対象となるが、他の冒険者へ生存率に直結する罠の対処法を多く発見して報告して来たビギアルは若くして有名名高い冒険者の仲間入りをしたというわけだ。ビギアル自身は全てペラム家の為になると思って取り組んで来た事だったのだが、当主のライオネスが冒険者を管理する王国騎士団にその情報をビギアルの功績として報告したのがビギアルの高ランクへの昇級に繋がっている。ライオネスは認められた功績を持ってビギアルに自由に生きる道を示したかったのだが、当の本人が遣い役で居続けることを望んだため今もレノックスの遣い役としてその能力を発揮していた。とはいえその積み重ねていた独自の知識は王都の学院でも高く評価されている為に、国王からの勅命で時折王都の学院に客員として招かれるまでになっていた。
天神海領の新しいダンジョン発見に対して行われたペラム家の探求に参加していなかったのも、学院への出向が命じられた日と重なってしまったか故の結果で、本人は大事な時にペラム家の役にたてなかったことを今も嘆いている。
ペラム家に対して拾って貰った恩を返すべく全身全霊をかけて忠義を尽くして来たのがビギアルという男だった。ビギアルの体にはレノックスの危機をその身で守った大きな傷が幾つかある。ビギアルにして見れば当然のことで支えるべき人を守った誇らしい勲章なのだが、ペラム家の者達は主従の関係でありながらも多大なる感謝を感じていた。その事も含めてビギアルは遣い役であり大事な家族の一員であり、ペラム家の全員が幸せになって貰いたいと思うのは当たり前のことだった。
今回のユースモア遠征ではビギアルには参加の予定がなかった。ビギアルにはバーナデットの探求に合わせて休暇が与えられる予定だったのだ。バーナデットの探求には上層階のみと決められていることもあって過剰な人数は必要ないという判断からリリアと僕以外の遣い役には休暇が言い渡されていた。ユースモア遠征が急に決まってもペラム家としてはその休暇を与えようとしたのだが、ビギアル本人が納得しなかったのだ。バーナデットのダンジョン探求とユースモア遠征では、話が違ってくると遣い役として責務を果たすと譲らなかった。ビギアルは強い信念と仁義をペラム家の為に尽くす律儀な男だった。
そんなビギアルは僕に対してとても厳しい。僕が主人であるバーナデットを呼び捨てにしていることが起因していた。出会いは偶然で初めから主従関係を持つ事ことを前提に出会ったのではないので仕方がないことだと思うのだが、遣い役としての示しがつかないから直すように言われて直したら、バーナデットには不評で結局本人の希望もあって今も呼び捨てである。もちろん公の場などでは主従関係を明確にする為に主人とした呼び方をするがそれ以後はバーナデットは呼び捨てだ。その事に関してビギアルから呼び捨てでも構わないが、尊敬を持って呼び捨てにしろと難しいことを言われた。未だに出来ていないとビギアルに注意と反省を促される。
「ビギアル様、そろそろ休憩に入るとのことです」
「わかった。何度も言っているが俺のことはビギアルと呼び捨てにしろ」
ビギアルはペラムの名を持つ主人以外の、遣い役と下働きを上下分け隔てなく接することを是としている。年齢の差など関係なく半分の年齢でしかない僕のことも、分け隔てなく同等と見ているのは凄いことだと思う。
移動は予定通り馬になった。特注の抱っこ紐に楓を入れて前に抱きながら馬を駆る。メイはガルドーの馬に乗り、馬を休憩させながら駆ることを繰り返してた。ユースモア領に出るにはバルジニア領を抜けなければならない。ペラム家の遠征では他領への出入りが自由になる。これはペラム家に無駄な入領審査を受けさせないことで貴重な時間を浪費させない配慮だ。依頼を願い出る前に依頼主が全ての道中に発生する入領審査に代わる責任を負う旨を書面に認め、該当する領主に送ることが義務付けられているからこそ実現する荒技でもあった。
荷物専用の馬と、一切荷を背負わせない休ませる馬も合わせて九頭が今回の遠征で準備された。小まめな休憩も入れるが、出来るだけ最短の時間で移動を済ませる為の出資はレクスタ家が賄ってくれることとなっている。そのレクスタ家の同行者がダンジョンある町にて先に待っている手筈となっていた。ダンジョン探求の代行依頼には何人かの依頼主側の同行を認めている。任意ではあるが、大概の依頼主は信頼の置ける同行者を用意して来るのが常だ。
二日での移動を済ませて目が虚ろになっているメイを励ましながら着いたユースモア領の依頼場所となるダンジョンには小さい町がある。王国で発見されたダンジョンの周りには例外なく町が築かれた。ダンジョンが発見された年季に比例して町の大きさも変わるが、ダンジョンから発見される宝や希少品の量と質にも大きく関わってくる。今回探求が求められているダンジョンにもエルドという名前の町があり、ダンジョンがある場所に築かれた町としては最小の人口と町の規模だった。
到着したのは二日目の夜とあって今晩は町に用意された宿で疲れを癒す。明日の昼前からダンジョンに探求に入る予定になっていた。
生返事しか出なくなっている遠い目をしたメイをベッドに横にすると、食堂でレノックス達と合流して食事を済ます。そこに現れたのは真っ青な髪の毛と眼球を持つ、男女のペアだった。
次話 「同行者」




