37、痛い検証
「あの、それ痛くないんですか?」
「はっは!この痛みと傷が戦いの糧となる戦利品じゃて!」
滅茶苦茶高価だが傷を治せる薬がありながらも、ガルドーが体のあちこちに傷を残している理由がやっとわかった気がする。
結論を言うとバトルマニアは頭の中身は普通とは違うということ。
優雨美とガルドーの一戦を見て、もう関わりたくないと本気で思った。
血しぶきが舞う中、笑いながら互いを傷つけ合うとか意味がわからない。優雨美が満足したようなので、ガルドーが良い仕事をしたのは間違いないのだが。優雨美が次は僕とやりたいと、無理やり約束を取り付けてきた。来ないと直接住処に乗り込むとまで脅された。
気が重い。本当に重い。
一つ優雨美と話してわかった事がある。
それは竜が活発になった理由。
竜人である優雨美が竜の領域に住み着いたのが原因のようだ。
二度ほど、ぶっ飛ばしてやったと優雨美が言っていたので、あまり刺激しないようにとお願いはしておいたが、優雨美が楽しんでいるようなので、竜達には悪いが、我が家の静かな日常の為に犠牲になってもらおうと思う。
宜しくお願い致します竜達よ。
エーカー達には、嘘を言っても仕方がないので正直に新しいダンジョンを見つけた事と試練部屋に竜人がいた事と竜の活動が活発になっている理由が竜人にある事を告げた。
「くっ、折角の試練部屋。剣王でも無理なら、オレの腕ではとても………」
エーカーは、ガルドーの傷痕を見て歯を食いしばる。熱血バカの称号を授けよう。
猪突猛進型でなく、己の分をわきまえる事が出来る人物で助かった。団長の器は持ち合わせているようで何より。熱血バカロリコンを少し見直した。文官魔法士が、ダンジョンを見学したそうにしていたがエーカーの野営地に戻る指示に従って大人しくしていた。やはり出来立てで罠のない一本道のダンジョンは貴重な資料になるそうだ。
そしていま、野営地に戻りのんびりと足を伸ばしている。
腕の中で楓が嬉しそうに足をバタバタさせているが。
「パパが帰ってきて嬉しそうでちゅね~」
「スカーレット様、そのネタをいつまで使う気ですか?」
「あんたが帰ってきて、こんなにはしゃいでるんだもの、言い続けるに決まってるでしょ?」
スカーレットが楓のほっぺをつんつんする。
「ね~楓ちゃん」
「はあぁ、楓も少し落ち着いて、お腹蹴りすぎって、もしかして怒ってるのか?おまえ?」
「そりゃ怒るわよね~。竜の調査に行くと言ってダンジョンで遊んでくるんですもの」
「楓とスカーレット様を一緒にしないでください。そもそも遊んでいませんし」
「そんなことないよね~楓ちゃん、一緒にダンジョン行きたかったよね~」
「そんなに行きたいなら、今度ガルドーさんに連れて行って貰ってください」
スカーレットは顔を逸らして手を振る。
「遠慮しておくわ、罠のないダンジョンなんて面白くないもの」
「スカーレット様らしいですね」
「私らしいってどういう事よ?」
「レノックス様にマタニティブラッドとか、初見のダンジョンが面白いとか」
「レノのヤロ〜、帰ったら覚えておきなさい」
スカーレットとの話に夢中になっていたら、楓が、かまってとばかりに、顔をペシペシしてきた。
「離れててゴメンなぁ~楓」
ほっぺちゅーをしてあげる。
今まで、楓からされることはあっても、してあげることはなかった。
楓は今まで見せたことのない花が開いたような満面の笑み浮かべていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
調査は必要がなくなったと、新しいダンジョンの発見を手柄に野営地も引き上げて、ピークトリクトの街に戻る事となった。数日は滞在すると思っていたため、広げた荷物を再び荷馬車に積み込むのに半日、出発するが昼過ぎになろうかという時、<危機察知3>の警報が頭に鳴り響き、二人の来訪者が野営地にやって来た。
背丈が二メートルを越えようかという、筋骨隆々の色黒の男と同じく色黒で頭一つ背の低い女の二人だった。
いち早く異変に気付いた兵士とロイスが剣を持って近付くが、来訪者がひと睨みしただけで動きが固まる。
兵士とロイスは硬直したまま、来訪者が素通りするのを見送ってしまっていた。
二人の来訪者は真っ直ぐ、こちらに向かってくる。
嫌がって離れようとしない楓を無理やりスカーレットに預けると二人を庇うように前に出た。
「間違いない、コイツだ」
「ええ」
「あの、どちら様か知りませんけど、彼らの硬直を解いてくれませんか?」
「ふん」
酷く好戦的に睨みつけてくる。僕に用があるようだ。
「僕に何のようですか?」
「生意気だな、卑怯者の人間風情が」
完全に見下した視線。人間風情という言葉と人とは思えない威圧感が、この二人を人外と判断する。
「お前さん、まずいぞこいつは………」
気付けばガルドーがすぐ横に立っていた。
一振りの剣を差し出してくる。
今回の調査に際して領主オリヴァーから預けられた剣だった。扱うには<剣術能力6>以上が必要の業物なのだが、宝剣の類らしく、柄や鞘が宝飾されていて少し派手で趣味ではなかった。
それでも、この一触即発は雰囲気の中ではとても頼りになる。
それにしても対峙しているのが野営地の中心と場所が悪い上、楓のウィンドウが消しても消しても続けて開いてくる。
「楓、大丈夫だから静かにしていて」
楓を落ち着かせるために振り返って笑顔を見せる。
「マジクッ!」
ガルドーの呼びかけに反射的に身構える。
激しい衝撃に体が浮いたのを感じ視界が回転して、次に体全体が叩きつけられた。
滲む視界に地面が見え、出来ない息を何度か繰り返し無理やり吐き出すと目の前の土草が真っ赤に染まった。
「マジクくん!」
スカーレットの叫び声が一幕隔てたとこから、さら反響したように聞こえてくる。
かっ【 回復 】………
すっと、体が随分と楽になる。それでもまだ動けない。
【 回復 】
からだを起き上がらせると、すぐ近くにスカーレットが駆け寄ってきた。
「大丈夫!?回復薬を!」
「要りません、大丈夫です。それは取っておいてください」
「後これ」
スカーレットは僕が手放してしまった剣を回収してくれたようで、しっかりと手に握らされる。
ガルドーが女の襲撃者と攻防の火蓋を切っていた。文官魔法士が魔法での援護をしようと構えているが、タイミングわを取れないらしく、右往左往している。
かなり、吹き飛ばされたようでガルドーとの距離は十メートル近く離れていた。
「スカーレット様、離れていてください。ヤツらの目的は僕みたいです。楓をよろしくお願いします」
「そうだ、オマエに用がある。卑怯で下等な人族」
僕はゆっくりと立ち上がると、男の襲撃者を睨み返す。
スカーレットの気配が背後からなくなる。素早く離れてくれたようで助かった。スカーレット達に気を配っている余裕がない。目の前の襲撃者から目を反らすのは、先ほどの二の舞になる。口の中に残る血を唾と一緒に掃き出し、襲撃者を睨みつけた。
「僕達を下等と言われる貴方は、どちらの種族で?」
「答える必要はないな」
鞘から剣を抜く。もう油断はしない。
何をされたよくわからないが、攻撃をされ吹き飛ばされた間にスカーレットと楓に危害が及ばなかったのは、たまたまだ。僕が倒れていた間に、楓とスカーレットが狙われていれば、最悪二人とも死んでいてもおかしくなかったと甘えを一切捨てる。
襲撃者は相変わらず高圧的な態度。会話が成り立つかも今の所怪しいが、しない訳にも行かない。他の人達が避難できるまでの時間稼ぎ。
「お見受けしたところ高等種族の方でいらっしゃるようで、下等な僕に何用で?」
挑発的な物言いなのは分かってるが、襲撃者の口を軽くするのに冷静さを奪う。自尊心に触れたのか、顔が強張る。
「このような人間ごときに、兄者が!」
「!」
脹れる怒気に、背後に体を逃す。
尻餅をついてそのまま、後方でんぐり返しをして態勢を立て直すと襲撃者の手には槍が握られていた。
「そ、その槍は何処から?」
「………………」
「答えは頂けない………ようでっ!」
踏み込む足に合わせて、剣先を地面の上を走らせると地面を離れる際に剣先を横にして土を払い、そのまま刃先を襲撃者に叩き込む。
ガツン!
「人間ごときの卑怯な技が通用するか!」
刃先を槍に防がれた僕は刃先を寝かして柄の上を滑らし槍を握る襲撃者の手を狙う。
「そんな、卑怯な小手先に兄者殿はやられたんですけどね!」
襲撃者はこちらの狙いを読み取り、槍の柄先を自らの足で払うと、僕が刃先を滑らすを槍の回転で防ぐ。更に回転を変化させて、槍先を僕に向けて打ち込んで来た。
「やはりキサマ、兄者に卑怯な手を使ったのだな!」
僕は抑えを失った刃先に合わせてそのまま、重心を倒し体の軸を傾けたまま回転させると剣の根の部分で槍の穂先を向かい打つ。
情報を得るために、襲撃者の自尊心をくすぐり続ける。意味もわからずに命を狙われるなんて、はっきり言って気持ちが悪い。
何か悪いことをしていたとしても、簡単にやられてやるつもりは無いが、謝罪は告げることも出来る。自己満足なのだが、それでも意味もわからず襲われ、それも家族に危害が及ぶのは納得が行かない。
「卑怯な手なんて使わなくても、本当はちゃちゃっと、やれたんですけどねー」
「我ら一族が脆弱な人間ごとき、しかもキサマのようなやつに卑怯な手を使われずに負けようがない!」
槍が大振りに振り回される。
一つ躱し二つ躱すと襲撃者は体を回転させながら、加速して連続して大振りを繰り返した。
力任せに大振りを繰り返してくる姿に、身体能力に絶対の自信と、冷静さに欠けてきているのが一目瞭然だ。
ガルドーの方も気になる。
僕は相手が冷静さを取り戻す前に、決着を着けようと決意を固めた。
一つ試したいこともある。
僕は引いて躱し続けていた体を前に出して間合いを詰めると、襲いかかる槍を屈んで躱し、通り抜ける槍を片手で後押しする。
加えたのは回転のスピード。
途中で回転を止めさせないための布石。
僕は更に踏み込むと剣を手放す。
襲撃者は狙いに気付いたようだが既に遅い。
〔 神氣功・覇掌龍点改 〕
踏み込んだ足が、地面にめり込む。
求めるのは無力化。
ボグッ!!
鈍い音。
襲撃者の背の中心に重ねた掌が叩き込まれる。
高位剣技では手加減ができない。
中位や低位剣技では無力化できるかわからない。
そこでの打撃技。
そして、この技は大好きだった漫画のキャラクターのものだった。
襲撃者の体が背側からくの字に折れながら、手足をピンと伸ばして激しく体全体が痙攣する。
その場に崩れ落ちた後も電流が流れ続けているようにしばらく痙攣した後に動かなくなった。襲撃者の体から湯気が上がる。技を受けた対象者は吹き飛ばさずに、発生した氣功エネルギーの全てを体の内に叩きつける格闘の技。ゲームのわざではなく漫画の技でも、いつもと同じく再現するには肉体の限界を超えたようで僕の体も無事では済まない。
踏み込んだ足、打ちつけた両手の皮膚が内部から破裂したように裂けて血が吹き出る。
打ち付けた掌底から漏れ出た衝撃波が着ていた服の上半身を切り裂き、顔を始めとして裂傷だらけので血まみれになる。それでも裂傷の痛みは感じないほどの、とてつもない激痛は両腕の付け根と軸足の付け根から。そこから先は逆に感覚がなく体はバランスを崩して襲撃者の横に並んで倒れた。
「痛い!滅茶苦茶痛い!そんな気はしていたけど!何をやってもこの痛みは付いて回るのかよ!」
【 回復 】【 回復 】
「治せるって分かってても、もうヤダ!」
痛みによる半泣きのまま、回復した体を転がして男の襲撃者の横から少し離れる。
「また、服がボロボロ。マイリオリーヌさんに泣かれると本当に辛いんだぞ」
体を起こすと信じられないものを見たような顔をしたスカーレットが十メートル程先の大きな木の根元で固まっていた。楓がスカーレットの腕の中で両手両足を激しく動かして興奮しているのもわかる。
「スカーレット様にまた見られちゃったか、まあ仕方ない。発動するとは思ってたけど。やっぱり派手だな」
マジクの体でも、ゲームキャラの蘭童の技を発動できたのは優雨美の時で実証済み。
更に増えた実証が今回の漫画キャラの格闘の技。頭の中にあるゲーム、漫画、アニメの技が再現できる可能性が高いことが分かった。だが、自分の体に懸かる負担とリスクを念頭に置かないと、技の発動と共に即死なんて笑えないことにも成り得るのが問題だ。そして格闘術に分類されるのではないかという素手でも発動出来る技は【格闘術能力】を持っていなくても左右されないのか、<?????????> か【+Ω】の効果なのか。滅茶苦茶痛い思いをしないといけないので、今の所検証は実戦でしか行えていない。本当は痛いのを我慢して検証をした方が、いざという時役に立つのは分かっている。でも何で訪れて欲しくない、追い詰めらた状況が来るのを前提に滅茶苦茶痛い思いをして検証しなければいけないのかという結論に至る。最悪の結果に対しての対策をするのも大切かもしれないが、そうならないようにする対策を取る方が建設的な考えで、ポジティブな思考だと思う。
本来は大人に変身することなく、らくに楽しく赤ん坊ライフを愛おしい妹と共に過ごしたいのだ。
こんな、血生臭い赤ん坊いますか?
いや、いませんね!
っと自問自答して、剣を拾うと倒れて動かない襲撃者の首に剣先を突きつけた。
「そこまでです!剣を納めてください!」
次話 「代償」




