35、ビロウル=エーカー
「この霧が発生する場所からが、一般的に竜の棲家と言われている領域になる。ここから先は、いつでも竜の襲撃に備えなければならない」
野営地からの出発は朝早く、日の出とともに行われた。楓の涙ながらにイヤイヤする姿を見ないように目をそらしての出発だった。
振り返っても野営地が見えなくなったころ泣き声が聞こえてきたが暫くして聞こえなくなった。
スカーレットが上手くあやしている事を願い楓の事を考える。
今後の事を考えると成長だけでもさせた方が良いのだろうか?
そうすると、逆にいつも自分の足で付いてくるようになるかも知れない。それはそれで困る。それに言葉で意思疎通するようになってくると直接能力を選択しろと言い続けてくるかも知れない。それも人前で言われては色々とまずい気がする。
楓は普通の赤ん坊ではない。選択枠の能力を見てみると分かるように、戦闘に特化したユニットのようなものではと考えたこともある。
契約により契約者の利となるために動く兵器のような立場を楓に思い当てはめる。あくまで最悪な事を想定した想像なのだが、当然のごとく明るい未来には思えなかった。
そうなると、何も選ばなければ楓は普通の女の子で入れるかも知れない。そこに楓の幸せがあるかは自信はないが、選択肢を選んでしまったらそれまでだ。
いまは選ばない事を選択しようと決めている。
これからも迷い悩み考えると思うが、それも楓を普通に育てようと思った時に覚悟を決めた事で、今は進むだけだ。可愛らしい楓を兵器になんてしない。
「何でコイツなんかと一緒に………」
野営地からの調査隊の人数は八人となっていた。
徒歩での移動となっているため馬車での移動のときと違ってピークトリクト駐在王国騎士団団長のエーカーが茶々を入れてくるようになった。
剣王たるガルドーがいるために明らさまには言ってこないところが、結構ガキっぽい。
エーカーのことはリリアやライオネス、スカレーレットから色々と聞かされていた。
エーカーはペラム家の英雄を題材にした物語信者で、ピークトリクトの駐在王国騎士団団長として赴任してからというものペラム家への接触を頻繁に行っている。当初は役職もあってライオネスも好意的な対応をしていたが、ペラム家と懇意になるためにバーナデットを嫁にと考えていることをそれとなく伝わるように仕向けた頃から、ペラム家は態度を一変させたそうだ。
エーカーにしてみれば王都での歴史のある家柄、若くして駐在騎士団団長に任命される経歴、街を歩けば女性の注目を浴びる容姿、王都では縁談の話を断るのが大変だったほどだ。それが今は上手く進まなくなる。意味がわからないと言って、ぼやいていたのもペラム家に筒抜けになっているらしい。
そこに僕がバーナデットに取り入って遣い役に任じられたという話を聞いたらしく、エーカーの目の敵にされるだけの理由になったようだ。
エーカーの不運はペラム家が過保護に育てている八歳の女の子を、嫁にと考えた事で、そのことを注意する友人がピークトリクトにいなかった事だろう。
友達がいないのは同情する。
「まあ、調査をしたからといって、何かが分かるわけでも無いんじゃがな」
過去に竜の棲家の調査に参加した事があるというガルドーが呟いた。
「年に一度は組まれておって、竜が騒がしくなるのは十年~二十年に一度ある。いまはちょうどその時期じゃ」
「ガルドーさん、竜がいたからといって飛び出して行ったりしませんよね?」
「ワシもそこまで命知らずじゃ無いが、お前さんが本気を出す場所を作るという意味では、確かにありかのう」
ガルドーがニヤリと笑う。
「冗談でもやめて下さいね!」
「馬鹿話もそこまでにしておけ」
副官のロイスの注意が入る。
副官のロイスも聖騎士という事もあって、王都に実家を構える貴族だそうだ。
仕事とプライベートをはっきりと区別しているそうで、仕事上で必要な事以外の言葉を話さない無口な部類に入る。無論エーカーの私生活にも口出しをしない。明らかに馬鹿な行動をしていても仕事に関わりの無い事は、気にもしないようで、有能だがこの冷たくも見える割り切り方から、王都では上手く人間関係が築けず現在はピークトリクト駐在王国騎士団副団長に任じられている。
それでも自分より若い団長のエーカーにも仕事として割り切れる所がロイスにはあるそうだ。
「それにしても、おまえさんは竜の事に関してあまり詳しいくなさそうじゃの。丁度文官魔法士もおる事だし後で聞いてみるとよかろう」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そもそも、竜の棲家が近くにあるというのにも関わらず、ピークトリクトの街が築かれたのは、やはりダンジョンが大きな意味合いを成してます。ペラム家がこの地に居を構えて代々、数多くの秘宝クラスの宝を持ち帰っている事で、人が集まり大きく発展してきました」
文官魔法士という事もあって、僕の質問に歴史的背景から細く語り出すことになったが、何も知らない僕にとっては好都合で一度の休憩で腰を落としていた時間では足らずに、既に三度目の休憩に入っていても話は続いている。
「現在二十九のダンジョンが王国に認められています。つい先日まで二十八だったのですが天神海領にて新しいダンジョンご発見されて正式に二十九のナンバリングをされました」
「ダンジョンの管理を数字で管理しているんですか?」
文官魔法士は、こちらが無知と分かると、得意顔になって饒舌になって細く語り始める。
「そうです、王都にあるダンジョンがNO.1、ピークトリクトにNO.2~5まで他領に残りの二十四のダンジョンがあり、最もダンジョンを抱えるのがポートファグ領の七つです。ポートファグ領は産出量では王国一ですが、産出品の質や総合の希少性、価値ではピークトリクトが上となります」
「やはりピークトリクトのダンジョンは有名なんですねー」
「それはもう、ペラム家の英雄達が王家に献上した国宝クラスの宝は勿論、数多くの武具や希少な鉱物をどれだけ産出してきたか!僕がピークトリクトの文官の目指すきっかけになったのも、王学院にてペラム家の偉業を学んだ事が切欠なのですが」
ペラム家の話で興奮しだした、この文官魔法士もエーカーと同類だったことに後悔を覚える。
ペラム家の話が出るたびに明らかに聞き耳を立てているエーカーが話に混ざりたそうに落ち着かないのが見てわかった。
ペラム家の話が中心に脱線したことに、僕自信が落ち着かなくなった。
「そう言えば、有名な武器など産出が何処か知りたかったんだ!」
無理くり、話の方向性を変えようとする。
「あ~武器ですか? そう言えば先日ペラム家のライオネス様が《名奪い》された剣の名が正式に決まりましたね。紅剣バナードと命名され王国に登録されるそうです。本来の姿を見せたそうで紅剣と渾名かつきましたねー」
思いもしない上に、行って欲しくない方向に話が向いて内心頭を抱える。
「そうだったな、キサマも居たのだな。ライオネス様の紅剣バナードの勇姿拝めて光栄と思よ?」
等々、エーカーが話に加わってきて、面倒臭さいことになった。
「なんだ、その顔は?」
表情を変えたつもりは無いが、以外と鋭いようだ。
「いえ、なんでもありませんよ」
「ライオネス様が紅剣バナードを手に入れたのは二十四歳の時だ。奥様のスカーレット様と共にダンジョンの試練部屋という生涯に一度見れるかどうかの部屋で手に入れたものだ」
エーカーは目の前で見てきたかのような話し方をし出した。
生涯に一度って、僕三日に二度も攻略する羽目に陥ったんだけど………
「紅剣バナードと言えば<剣術能力8>以上の使用者しか触れることを許さない最高位の剣で、剣神を崇めるレクスタ家に伝わる<剣術能力9>の魔剣デルガルテリアの次に名高い剣と王国でも認められている」
確認されている最高位の剣が魔剣って、剣の名前が魔王ぽいし、絶対に近づかないようにしないといけないな。嫌な予感しかしない。
「騎士の家に生まれた以上、剣術の最高位を目指すのが務め。これでも俺は名剣名高い白剣ケンビニアを振る事が出来た。近い内に紅剣バナードに認めてもらうことも叶おう」
一人で語り出したエーカーの話を片耳で聞きながら、文官魔法士に質問を小声で投げる。
「あの、白剣コンビニアって有名なんですか?」
「ケンビニアですよ。<剣術能力6>以上が必要とされる王国の聖騎士団本営に崇められてる剣ですね」
「そして将来はペラム家を背負って立ち、令嬢の妻と共に数々の秘宝を王国に知らしめる。我が英雄譚は王国中に広まるのだ!」
「伊達にバーナデットの変態さんにはなってないか………」
「何か言ったか?」
「いいえ」
それにしても、今の言い方だと剣術能力のランクって上がるものなのかな?
確かにガルドーも上を目指している言い方していたのを思い出す。<剣術能力9>が露見してる僕が聞くのは、おかしな話というか、嫌味に取られそうだなと思いながらも、エーカーは僕が<剣術能力9>持ちというのを知らないようだし、自分のことを話し始めるように促す事ができればと策を考える。
「エーカー様は凄いですね。流石その若さでピークトリクト駐在王国騎士団団長になれるわけです。<剣術能力6>とは凄まじいです」
エーカーが睨みつけてくる。
やば、失敗したかな………
「キサマ剣術だけで、駐在王国騎士団の団長になれるわけがなかろう? これだから平民は教育が足りていない」
「すみません………」
「確かに、白剣ケンビニアに選ばれる事も、団長位を得るのに必要な事ではあるが、それ以上に、聖騎士の心得や在り方、歴史、品格を学んでこそ王都の代表たる者として認められるのだ」
ロリコンでもなれるんだから、そこら辺適当なんじゃないのかな………
「なんだ、先ほどからその顔は?」
「いいえ何でもありません」
鋭いのか鈍いのかわからない人だな。
「俺はキサマのように、とり入ったり、おこぼれを貰って地位を得るような真似はしない。騎士道に反する行為だからな。確かに俺が産まれて<剣術能力4>を与えられていたのは、剣神の加護、我が家系の血によるところが大きいだろう。だが<剣術能力6>に上り詰めるまでに至った剣の道は並大抵のものでは無い。キサマには分からぬだろうがな!」
<剣術能力9>の事が知られたら滅茶苦茶面倒臭いことになると、自分で地雷を埋めてしまったことに後悔する。情報収集とはいえ、人を選ばないと得るものより失うものの方が多いと改めて反省することとなった。
次話 「脳筋」




