28、訪問者
アキちゃんにバシバシと叩き起こされて、お昼寝から起きると、バーナデットたちは帰った後だった。
そこに使者が来たのは、合間を見計らったのに違いない。
「マジク殿とお見受けする」
なんか、忍者みたいな人が居た。
姿形じゃなくて、仕草や物言いが時代劇に出てくるような様相で、顔を布で覆って目元しか晒していない。見上げてくる眼光は険しい、ちょっと芝居くさい感じで正座をしていた。
怪しさ満点だ。
「一応そうですが、何か?」
まずお前が名乗れよとか、前世の礼儀を持ち出すわけではないが、身分階級がある世界だと当たり前の対応なのかと溜飲を下げる。
誰とも分からぬ者なので、一階の使っていない部屋での対面となった。
初対面の人と会うこと自体、緊張するのだが、知らぬ内に上がり込んで母の料理の手伝いをしていたのだからもう手に負えない。
本当にペラム家はこの家に見張りや警備を付けているのかという疑問が湧く出来事だ。
当の母がどういう訳か今度はマジクに取り次いでしまったのだから、昼間のバーナデットとのやり取りすら悟られている節もある。そんな相手と思うと余計警戒心が増した。
「某一号、天神海領より、領主貞昌様の命を持って此度の訪問となりました」
「え〜っと、一号さんは他領の人みたいですけど、僕の事をどこで?」
「竜殺し、転移されし者となれば有名となりましょう」
「他領の人にまで、知れ渡ってるの!?」
「それに関しては、某らの技なればとお思い頂きたく」
それだけの情報力を持っていますよってことか、それなりの力を示すアピールなのかな?自領は他領とは仲が良く無いのだろうか………
「ならば、えーっと今回の訪問、ピークトリクト領主へのご許可は、お取りですか?」
「いいえ、危急の要件なればと取次を飛ばしております」
頭を抱える。
「完全に面倒事確定した!」
「それだけの力があると見越して、某がここに居るのです」
「そんな力ないですって!」
「マジク殿の力が必要となればの緊急措置で御います」
「面倒事に巻き込まないで下さい!」
「マジク殿にも関係する事となれば」
「はい?他領に知り合いとか居ないですよ!僕!」
「ペラム家当主の奥方にして、貴殿の主様バーナデット殿の母君の危機でございまする」
とんでもない名前が出た。バーナデットの母は遠征中で近々戻る予定のはずだ。僕は腰を据える。本当にバーナデットの母が危機に面しているならば、話だけでも行くべきだ。
「詳しくお話しを続けさせて頂きましても?」
僕は一号の言葉を胡散臭く感じながらも、耳を傾け頷いた。
「バーナデット様の母君及び兄君お二人が、此度の遠征に出ていらっしゃるのはご存知で御座いますね?」
静かに頷ずくだけにした。
話してくれるというのだ、余計な事は言わない。
まだ信用できない相手に僕から情報を与えることはしない。
「遠征地は我が領で、新しく発見されたダンジョンの探索を依頼したのも我が領主貞昌様でございまする。貴殿もご存知の通り、新しく発見されたダンジョンに関しては一般的な探索が解禁される前に、王国による調査が入りまする。今回、我ら天神海のダンジョンの発見となれば注目度も高く、ペラム家の遠征が王家より下りましてございます」
僕の知らない情報が一杯出てくる。
これを本当か嘘か判断できるだけの情報を僕は持っていなかった。
もし本当だったとしても全てが本当か、嘘が仕込まれているかという判断など到底できない話になってきた。
「探索の際に事故が起きましたのは今朝の話になりまする」
このまま、流石に聞き続けるのは無理だった。
話が進んでも知らない事だらけで、分からないところは聞かないと、もう頭の整理が追いつかない。
「少し待ってください詳しく聞きたいところですが、なぜそれを直接僕の元に持ってきました? 僕には貴方の虚偽を確かめる術が無いのです。ピークトリクト領主様の前で話をした方が話が早くまとまると思います」
「いいえ、少し強引なのは覚悟の上、ピークトリクト領主様への報告も考えましたが、某は今朝と申しました。一刻を争いますれば、多くの者の意見や質問を聞く時間も惜しく、対処できる者のみを口説き落としに来た次第であります」
「それほどのことに、僕に何が出来ると?」
「バーナデット様が母君スカーレット様と兄君の一人を死地に追いやっているのは竜人様でございます」
「兄君の一人って、まさか!?」
「いいえ、違います。今回の危機を知らせるがためにペラム家の次男殿レノックス様が単独でダンジョンを戻られた次第での事の発覚です。レノックス様が言うには試練部屋に行き着き、その場で試練の主として竜人様が現れたそうです」
つい二日前に辿り着い四つ腕の巨人を思い出す。
また試練部屋、嫌な汗が出る。
最終的には倒したが死にかけたのは事実だ。
バーナデットを始めとしてパーティメンバー全員が死にかけた。ガルドーが二十年前に出くわして以来という希少性が疑わしくなる。
一昨日の話ですよ。
こちとらバーゲンセールよりも間隔が狭い。
「現れた竜人様はスカーレット様達探索隊を一蹴すると、強者を求めたそうです」
少し話がおかしくなる。自分たちの場合はやるかやられるがだった。
「求めたって、意思疎通ができたって事ですか?」
「そうなります。言葉を交わし、宝を求めるならば我を倒して見せろと仰せで、スカーレット様達の挑戦はしたものの力の差は歴然だったとの事です」
「スカーレット様達の戦力は?」
「それはかなりのものです。我ら天神海領の生え抜きも同行しておりますれば、神魂の使い手も同行しておりました」
「神魂の使い手とは?」
「失礼、魔法の使い手と思って頂けたら」
「なるほど、その意思の疎通が出来る相手に危急とは?」
「ダンジョンの改変がスカーレット様達が試練部屋に突入してから二十四時間という事での制限時間とのことです」
「逃げる事は出来なかったのですか?」
「挑戦の対価だったそうです。ただ興にも示さなかった戦闘に納得できなかったようで、思いついたように時間内に強者を連れて来て、試練者である竜人様は再度の立会いの機会を与えたそうです」
「それで危急ですか………時間は後どれくらいになります?」
「後六時間ほどとなりますれば………」
それが本当なら危急と言うのも納得できるが、一つと問題がある。
いまピークトリクトにいる自分が天神海領にそれもダンジョンの試練部屋に六時間で行けるというのか。
「残りの時間を聞いてのその困惑顔には理解いたします。しかしながらここからは、お返事次第の話の続きという事で……お許しを頂きたく」
これは簡単に予想が付く、この情報をいまこの場まで運べているのだ。それはまた逆も然り。
「何か移動手段があると言うのですね? それもピークトリクト領主には出来るだけ知られたくないもので」
「申し上げられませぬ………」
ピークトリクト領主話を持っていけない理由がはっきりとした。
個人との話し合いだけで完結に話をまとめて時間の短縮をしたいのもそうだろうが、ピークトリクト領主には移動方法を知られたくないのだ。だが成功すれば、ことの事情説明で言わないわけにもいかなくなるだろうから、ピークトリクトにもわかることになってしまう。失敗した場合は闇の中。成功したら移動手段が知られても仕方がないという感じか。
「ならば、そこまでする理由が聞きたいです。ペラム家や面子でここまでの事をするとは思えない」
「これは、我が領の恥となればここだけの話と約束願いたく………」
領主間の仲が、どうなっているか知らないが、他領の秘に口を閉ざすのはピークトリクト領主への反逆と取られるのかと頭の中で天秤にかける。
だがそれも一瞬でバーナデットの悲しむ顔を想像するとそんな事はどうでも良くなった。
「……分かりました。約束します」
「今回の探索に姫が同行しておりまして、姫の命の危機でもございます。そして、領家血族の危機でもございます。正統なる天神の血を引くものは姫しか居りますねば………」
あぁ、必死になっているのこれが原因か、釈然としなかったものがすっきりとした。一応調べては居るんだろうけども、ぱっと出の僕に縋るほど余裕が無いというのも………こちらにしてもバーナデットのお母さんとお兄さんの命がかかっている。
頭をガシガシとかいた。
本当に何か仕組まれてるとしか思えないほど、面倒ごとが次から次へと。それも、逃げられないような状況のお膳立て付き。
「分かりました。僕の力が通用するか分かりませんが行きましょう」
「ありがとう御座いますれば、事が叶った時には、何なりと申して頂きたく思います」
「お気になさらずこっちもバーナデットのお母さんとお兄さんの命が懸かっているんです。直ぐに向かいたいところですが、マイリオリーヌ様に、外出の許可を頂いてきます。僕がいない間のマイリオリーヌ様の身の安全は?」
「某が命に代えても」
「貴方は行かれないのですか?」
「移動には限界がありまする。某は行けませぬ」
「少しだけ不安なんですが」
「マジク殿を罠にはめている心配ですか?それならばこれほど回りくどい事はせぬと言いたいところですが、こればかりは某を信じて頂きたく御座いますれば」
「まあ、自分で役に立つかわからないと自信の無い僕が、罠に嵌められるかもと自意識過剰になるのは意味が分からないというか、支離滅裂ですしね」
「ここまで、話が早くまとまりまして嬉しい限りです」
「ところでもう一つ伺ってない事が、僕が相手をしなければならない、そもそも竜人様とは?」
「姫様が竜人様と言われていたそうなので真偽はわかりませぬが、天神海領では海の神として崇め奉りうるもので御座いますれば……」
………また、神様かよ
次話 「天神海領」




