↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界Baby  作者: 本屋
PR
27/112

27、おもちゃ

 

 バーナデットが砦にやって来たのは、ダンジョン探索から戻って来て二日後のことだった。

 僕が丸一日眠っていたようにバーナデットも一日半以上眠りから目覚めなかったそうだ。《名奪い》による僕への強制的な命令や、一度とはいえ魔法の行使はかなりの負担だったようだ。

 それでも目覚めた昨日の夜に、マジクとのリンクが切れていることに気付いたバーナデットは、夜にも関わらず砦に来ようとしたらしい。勿論ライオネスやリリアの大反対にあって断念したそうだ。


 そして、いまバーナデットは僕のことをジッと見つめている。


「初めて見る子なのよ?」


 バーナデットとユウキは初対面だ。アキちゃんはお昼寝中だが楓はぴたりと僕にくっついている。


「アキちゃんのお兄ちゃんです~」

「この前、会っていないのよ?黒髪なのよ?ダンジョンに居たこの子もとても懐いているのよ?」


 バーナデットの目は完全に疑いの目だった。

 そろそろバーナデットが来るのは予想していたが、僕が寝ている間にそれも、母さんがマジクは留守と伝えていたのでややこしいことになっている。

 前にバーナデットが砦について来た時は、マジク姿の僕と一緒だったこともあって、偽ユウキを準備出来なかった。あの時のミスがいまになって、僕がマジクに変身している姿だと疑われる原因ともなっている。バレバレの嘘をついているようでとても気まずかった。


「まあまあ、お嬢。赤子を睨みつけるなんて可哀想なことはやめときなされ。怯えてっしまっておるぞ」


 今日はガルドーとリリアがバーナデットに付き添って来ている。

 マジクが留守だと聞いたバーナデットは、目ざとくユウキの存在に反応した。バーナデットはマジクが蘭堂に変身した時に自分とのリンクが切れるのを気付いている。

 四つ腕の巨人を圧倒したマジクより一回り小さい少年の姿は、黒髪もあってすぐにマジクの変身した姿だと分るだろうし、マジクに戻った後で《名奪い》のリンクが戻り、四つ腕の巨人に止めを刺す瞬間の一部始終も見られていた。ガルドーにその事を聞いたそうなのだが、内緒にして置くようにと念を押されたらしい。僕に対して秘密の内緒と言ったのはそういう背景があってのことだ。

 ダンジョンの帰りにガルドーから他の人に話すとマジクがバーナデットの前から居なくなると脅されていたことも話してくれていた。バーナデットには頷くことしか出来なかったそうだ。バーナデットはその時のガルドーの笑顔がとても悪い顔だったと言っていた。僕はバーナデットが思い出して怖がっていたにも関わらず、居なくなることに関して否定の言葉を投げかけることは出来なかった。マジクはユウキの仮の姿である以上仕方のないことだった。

 ガルドーが半ば脅しの行為ではあるが、上手くバーナデットとの間に入ってくれたおかげで、《名奪い》の効力が変身によって切れることと蘭堂の存在を隠すことが出来て色々と助かっているのだが、ガルドーに弱みを握られたようで、この先が怖い気もする。バーナデットが口を噤(つぐ)んでくれていることで、絶対とは言えなくとも僅かながら安心を得ていた。それなのに、いまバーナデットの目の前で、僕こと黒髪のユウキが、窮地に立たさせる結果が生んでしまっている。

 バーナデットでなくても、疑ってかかる人物はもう一人いる。ガルドーのことなのだが、こちらの方は疑うというより確信しているようで、僕に向けている笑顔が分かり顔の合図のような思えてきた。リリアはバーナデットから一歩引いた立場でガルドーの手前もあって我関せずといった形で静かにしていた。

 

「バレバレなのよ?」


 バーナデットはユウキを指差してガルドーに訴えかける。バーナデットは僕の活躍を見て、自分の<秘宝狂い>が間違っていなかったことへの興奮と、《名奪い》のリンクが切れていることへの不安で居ても立っても居られないなかったようだ。砦に来てみれば、やはりマジクはおらず、マジクが変身しているのではと思われる赤ん坊がいれば、多少不機嫌ななるのも分からなくもない。主人が会いに来ているのに居留守を使っているようなものだ。それでも僕の口からは、マジク=ユウキとは一言も言うつもりはなかった。


「ヤツにも色々あるのじゃで、お嬢よ、深い詮索はせぬのが吉じゃぞ?」

「う~、マジク後で覚えておきなさいなのよ?」


 バーナデットが僕の目を覗き込んで言った。バーナデットは納得いっていないようだが、いまは折れてくれたらしい。ガルドーがウインクしてきた。流石は年の功といったところだろうが、問題を先送りにしただけで、後で何をされるのかが不安だ。


「うんぎゃああああぁぁぁ!」


 僕の不安を察したようにアキちゃんが目を覚まして急に泣き出した。母が席を外しているので、バーナデットが少しオロオロしていて可愛らしい。


「お嬢?」


 ガルドーに促されてバーナデットがアキちゃんをあやし始める。


「アキちゃんどうしたのかしら?泣いていてはわからないのよ?」


 両手両足を縮めて伸ばしてを繰り返している。


 ちょっとアキちゃん……思いっきり蹴ってますよ~僕も泣いた方がいいのだろうか?


 バーナデットがアキちゃんを母のベッドがら抱き上げるがアキちゃんは一向に泣き止まない。

 しばらくの間、泣き続けるアキちゃんとオロオロしているバーナデットの様子を愛おしくい表情でガルドーが眺めていた。


「あら~アキちゃんどうちたでちゅか~」


 母が戻ってきてバーナデットからあやすのを交代はするが、アキちゃんはご機嫌斜めのままだ。


「こんなときはですね~」


 母がバーナデットの心配顔を覗き込みながら「お兄ちゃんにおまかせなのです~」と言って僕の前にアキちゃんをお座りさせる。ぴたりとくっついて僕を独り占めしている楓を見て、アキちゃんがピタリと泣き止んだ。「お~」っとバーナデットが声を上げる。だが直ぐにアキちゃんは僕のお股に顔を埋めるように倒れ込んできて泣きじゃくる。


「うばぁばはぁああぁ!あばぁああ!」

 ちょっとアキちゃん!はしたない!


「お嬢様に見てはなりません。まだ早すぎます」


 リリアがバーナデットの目を塞ぐ。


「ガハハハハッ!」


 ガルドーが馬鹿笑いをして、楓がアキちゃんのお尻をペシペシしていた。僕は流石に暴力はいけないと、楓のことを嗜(たしな)めていると、後ろに影が出来て抱き上げられる。目の前にいないのは一人で、後ろから大きな紅い瞳が覗き込んできた。


「あなたは、ユウキと言うのね?覚えておくのよ?」


 思わず生唾を飲み込んでしまった。すんなりとベッドに戻してくれたが、何やらリリアに合図してバーナデットは受け取った袋の中身をごそごそ漁り始める。


「本当はアキちゃんに持ってきたのよ?」


 バーナデットは音のなるおもちゃを僕に持たせてくる。中が空洞のようで、入れられた複数の物がカラカラと鳴る。


 継ぎ目が無いな‥‥魔法で作ったのかな?


 魔法が使えるようになったので、魔法への興味や試したいことがいま一番、体をうずうずさせている。技術ではなく魔法の関与を匂わせるものには、興味を惹かれずにはいられなかった。

 バーナデットは次々とおもちゃを僕の目の前に重ねていく。気付けばアキちゃんが泣き止んでいて、僕と同じく興味を持って色々と弄りだした。本当にアキちゃんは気分屋である。もう一人の赤ん坊の楓は僕が触れるおもちゃを目で追っていた。


「まあ仕方あるまいて、儂も腰を落ち着けて話したいことがあったのだがな。こんな日もあっても良いもんじゃ。だがなユウキ、一つだけ言っておくぞ、何か面白い事があったらワシにも回せよ?」


 ガルドーがとても楽しそうに笑いかけてきた。僕は回すどころが全部上げると言いたかったが、いまはユウキなので我慢する。

 ご機嫌を取り戻したアキちゃんがバーナデットと遊び初めて、ガルドーは少し砦を見て来ようと出て行った。母は部屋の片隅で編み物をしており、リリアは有難くも持ち込んでくれた食べ物などの保管場所を聞いて、片付けに行ってくれている。

 しばらくして母がチクチク作っていたレースのピンクのリボンをアキちゃんに、黄色いリボンを楓の頭括り付けていった。二人の記念を一杯撮影する。二人を近づけると眉間にシワが寄るのがとても可愛らしい良い思い出になるだろう。

 最後にバーナデットが胸元の黒いリボンを緩めて僕の頭に飾り付け、赤ん坊三人並べられはしたが、少し嫌がる程度の抵抗で止めておいた。

 今回のことではっきりとした、ユウキでいるのも大変だ。

 僕自身が、おもちゃにされ放題なのだから。



次話 「訪問者」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。