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異世界Baby  作者: 本屋
20/112

20、ダンジョンデビュー

 

 街がお祭りムード一色になる中、とうの僕はダンジョンに来ていた。

 騒ぎになるのを見越しての雲隠れに近い。本来の予定では十日先がバーナデットのダンジョンデビューだったのだが、急遽の前倒しである。本来バーナデットのダンジョンデビューの日程に合わせて、ペラム家の家族が総出でサポートに出向く予定だった。家族の誰もが譲らない過保護な行為なのだが、ペラム家最大のイベントになってしまっており、家族総出のサポートは決定事項として、誰も止める事が出来なかったのである。バーナデットの一番下の兄、三男のトーリのパーティが予定よりも早く帰還したため、ライオネスの判断によるデビュー前倒しになったのだ。

 僕にはピンと来ないのだが、決められたバーナデットのダンジョンデビューを前倒しにしてまで、避難するようにダンジョンに逃げ込むのは、よほど竜殺しの名乗り上げに沸く祭りの混乱が、危険と考えているからだそうだ。名乗り上げの後では、ダンジョンデビューのタイミングが難しくなるという考えもある。それほどのお祭り騒ぎなら見たい気もするのだが、僕はバーナデットの遣い役となったことで強制的に今回のダンジョンデビューの参加となっていた。

 バーナデットのダンジョンデビューにトーリのパーティメンバー三人が、休養を取る事なく同行する事となっていた。

  

「ざまあみろ!兄貴達!」


 ペラム家の血筋の特徴の一つとなる赤い髪をつんつんに立てたトーリは現在十四歳だそうだ。

 世間では十二歳からと決められているダンジョンの探求参加は、ペラム家では八歳からと特別に許可されている。女子も本来男子と同じ八歳からデビューが出来るが、バーナデットが八歳をとうに過ぎてからのデビューとなったのは、これもペラム家の男達の過保護さとダンジョンデビューという記念日を共に参加したいという家族全員のスケージュールを合わせた事によるものだそうだ。

 本来ライオネスも参加するはずだったのだが、今回の《名奪い》や名乗り上げ関連のゴタゴタで参加を取りやめている。バーナデットの母親や兄二人の了解を得る前の強行なので、楽しみにしていた他の家族の不満を後で一身に受ける身としては、自らよ参加で角が立つような真似をするわけにもいかないようだ。

 ライオネスは何よりも他領のダンジョンへと大きな遠征出ている妻の反応が怖いようだった。現在バーナデットの母親と兄二人が共に大遠征に出ており、帰還はまだ五日先の予定で、殆どピークトリクトにいないそうだ。


 ダンジョンに入る前に、トーリの使い役の女性セリルが自己紹介と共に、トーリのことを頼みもしないのに詳しく幼少のころから今に至るまで親バカのように話してくれた。

 途中でトーリに見つかりセリアのトーリ物語は途中で終わってしまったのだが、初対面なのにトーリについてはかなり詳しくなってしまっていた。

 セリルは始めて顔を合わせたときは、スラッとした褐色の美女で、キリッと引き締まった表情から気難しい人に見えたが、トーリの話をしているセリルの狂気じみた表情は、また別のもので少し怖かった。

 セリルの話によるとトーリは、バーナデットの母親達の他領への大遠征に参加をしたかったのだが、未成年ということと実力不足ということで参加を認められなかったらしい。トーリは男兄弟の末っ子と言うこともあって、兄二人への劣等感とライバル意識を常に持った負けず嫌いな所があるそうだ。

 バーナデットが生まれた時は下の兄妹が出来たと大喜びしたが、次第に女の子という妹は、兄二人が扱う自分とは違うものだとわかると、より兄二人を意識するようになったという。

 ピークトリクトの街ではトーリ達ペラム家に崇拝に近いものを持った人々が多く暮らしているそうで、ピークトリクトへ大きな繁栄と恩恵を生産し続けている一族なのだから当然とも言えるのだが、これは大きなプレッシャーにもなっているようだ。只でさえトーリは男兄弟の三人の中でも能力、才能ともに、ぱっとしないことを自分でも自覚しているようで、それが劣等感となって自己防衛で反発的に大きな態度を取ってしまいがちなんだという。

 ペラム家一族の一人として外に出ている時は、同年代の者たちや街の人々は持て囃してくれるが、兄二人や家族と一緒にいる時は、自分がどうしても劣っていると思ってしまう。家族はそんなトーリの内情をよく知った上で触れ合っているが、そんな気を使われているような態度がトーリの内心を一番に苛立たせているとのことらしい。

 そんな彼にとって兄二人を出し抜く今回の抜け駆けは、楽しくて仕方がないようだ。

 ペラム家のダンジョンデビューは一般的に見れば特別で、ペラム家にだけ与えられる、八歳からデビュー出来るという許可は、あくまで低級層と言われる上層階のみの限定付きだ。ペラム家一族にとってダンジョンの上層は、大した脅威さも感じない一族の教育の場としてしか見ていないが、一般的な冒険者にとっては最上層でも気を抜くと死につながる危険な場所である。ダンジョンは複雑な迷宮と化していて魔物も出没するが、迷宮や罠の危険度が最も危険に直結しているとのことだ。出没する魔物はピークトリクトの周辺では東の山脈深くに行かなければ出没しない類のものが、ダンジョンには数こそ少ないが棲息しており、どちらかと言うと魔物の討伐目的で来る場所としては適さないそうだ。

 ダンジョンという存在は神が行く手を阻み試練を与える迷宮であり、その試練を越えたものに神が宝や貴重な素材を与える場所だという。それ故にダンジョンは聖なる場、神の住まう場所、ダンジョンそのものを神聖なるものとして崇めるのが、国民の認識として根付いているそうだ。

 

「バーナデット!そこ気をつけろよ!」


 いまのトーリは生き生きとしていた。


「大丈夫なのよ?マジクがいるのよ?」


 トーリの負の感情が籠った目線がバーナデットを通り越して僕に向く。現在バーナデットの左手をトーリが握り、右手を僕が握るという、何とも緊張感のないダンジョン探求が続いている。


「折角、兄貴達がいないというのに、何なんだコイツは?」

「ん?マジクだよ?」


 ダンジョンに入ってからというものトーリは指示を出している時以外はバーナデットの相手をしているか、僕を睨んで悪態をついているかの二つしかしてない。時折、バーナデットに注意を呼びかけるあたり、周囲の状況は把握しているのだろうが、とても居心地が悪い。

 セリル曰くトーリにして見れば、少しダンジョンに潜っている間にバーナデットが、ぱっとしない男になついているを見て愕然としたそうだ。いつも自分の後ろを付いて来ていた可愛い妹が、血を分けた兄妹であるはずの自分よりも、得体のしれない男の近くにいるのが気に入らないらしい。

 僕のことはライオネスに《名奪い》の経緯や幼竜殺しと名乗り上げのことを聞き説明を受けてはいるそうたが、トーリは僕にバーナデットを始めとしたペラム家が騙されているのではないかと疑がっているようだ。ライオネスの話だけ聞くと、セリルも、にわかに信じられない話にしか聞こえなかったそうで、トーリには一連の出来事が詐欺ではないかと僕のことを一切信用していないらしい。それは常にペラム家がそういった輩に付きまとわれているからだそうで、ペラム家がそれだけの力と財を持っているからなのだが、今回はペラム家の大人達を相手に近寄ったのではなく、幼くまだ世間に疎いバーナデットに近づいた卑劣で下衆な輩だと思われているようだ。幾らライオネスが説得しようとも、この考えは曲げる気はないとトーリは思っているとのことで、すっかり騙されたライオネスに代わってペラム家を守るのは自分なのだと、子供の頃から憧れ目指していた英雄意識がここで芽生えて来ているそうだ。


「あ?そこ危ないぞ?」

「へ?うぎゃ!」


 僕はトーリに言われて、怪しげな色の違うふみ床を避けたのだが、避けた踏板の周りが沈んだ。危うく足を挫きそうになるが、何とかバランスを保つ。


「ちっ、見た目によらず反応がいい奴だな」

「なっ、何するんですか!?」

「大丈夫?マジク?」


 こんなやりとりが、ダンジョンに入ってから少なからず起きている。


「トーリにい、だめなのよ?」

「違うんだぞ、バーナデット。コイツは絶対変態だ!」

「マジクはやっぱり変態さんなの?」


 バーナデットが眉を寄せて聞いてくる。ペラム家でのバーナデットへの変態=近づいてはいけないもの、怖いものという教育は徹底しているようだ。


「ちょっとやめてくださいよ、トーリさんバーナデットが不安がってるじゃないですか」

「違うの?トーリにい?」

「いや、そいつは絶対変態です!」

「リリアさんもやめてくださいって!」

「マジク?変態さんはだめなのよ?」


 バーナデットは瞳を揺らせて訴えかけてくる。


「いや、バーナデット。そういうんじゃなくてね」

「変態さんは、とても悪い人なのよ?」

「いや、あのね?」

「だめなのよ?」


 バーナデットは、不安な顔をする。


「だめなのよ?」

「僕は変態じゃない。信じてくれ」 

「リリア、ところであいつはどれくらい変態なんだ? 面と向かってバーナデットと変態話をしているぞ?」

「トーリ様、あいつの本性は獣の変態です。きっと想像を遙かに超えるド変態野郎です」


 僕はバーナデットに深々と見つめられている手前、目を反らすと変態疑惑を肯定と取られてしまうので、見つめ返す。少し離れたところで、トーリとリリアの会話が聞こえてくる。内緒話をするわけでもなく聞こえてくるのが癪な内容だった。

 暫くバーナデットと見つめ合って「変態じゃないよ」と伝えていると、急にバーナデットが目線を外す。

 進行方向の通路を凝視したまま身動きしない。


「トーリにい?」

「ああ、これはあるな」


 全員に緊張感が一気に広まる。バーナデットとトーリの雰囲気が一変して、獰猛な獲物を見つけた獣のような目を光らせていた。


「トーリ様、反応ですか?」

「間違いない」


 なるほど、これが<秘宝狂い>の能力というわけか………


 ダンジョンは常に動いていると言われている。先ほどまであった通路が塞がっていたり、またその逆に一方通行だった筈の通路に交差路が出来ていたりと、要はマッピングが役に立たないのだ。その事を聞いて僕は折角の<スクリーンショット>が役に立たないのかと肩を落とした。動いているという事はダンジョンに点在する宝の場所も常に動いていることとなる。宝の方が近づいてくることで、<秘宝狂い>が反応することもペラム家一族にはよくある話だそうだ。


「これは、かなりの反応だな。何でこんな上層に、これだけの反応がある?宝が近づいて来やがった?感覚的には中層か、下層かってところだぞ」


 トーリが声を低くさせる。リリアも目付きを鋭くして、更に緊張感が高くなった。


「いくぞ!」

「トーリ様、お待ちください! 今日はバーナデット様のダンジョンデビューです!お忘れですか!?」

「それはそうだが。これは手放すには欲しい反応だぞ? それに当のバーナデットがやる気満々だ」

「しかし不可解過ぎます!こんな低級層にそれ程反応など」

「だが上層は上層だ。それ以上のそれ以下でもない。それが違ったことが今迄あったか? 俺の経験だけじゃない。ペラム家としての経験でだ!」

「ですが上層にそれだけの反応が出たこともなかったのではありませんか?今の今まで」

「しかしこれだけの反応だ。バーナデットのダンジョンデビューが華やかになるのは間違いないぞ」

「トーリにい?わたしは行くのよ?リリアもいい?」


 トーリとバーナデットはリリアの制止も聞かずに再進行の準備を始める。無論油断はしていないようで、中層や下層で使う探索道具を取り出し、いつでも使用できるよう点検と始動確認をしていた。トーリはバーナデットにも同じ準備をする様に言い。細かいところまでチェックして、駄目出しをしていた。


「バーナデット様は私の側を離れないように、マジクはバーナデット様だけを見ていろ。怪我一つさせることを許さん」


 本来はバーナデットのダンジョンデビューとなる場で、予想外のことへの遭遇には敬遠するべきなのである。だがトーリは進むことを決めた。<秘宝狂い>は対象物を見つけると強い興奮状態を引き起こすようだ。反応した宝へ強く執着し頭から離れなくなる。これが<秘宝狂い>と言われる所以でもあり、強力な能力に付きまとう弊害でもあった。対象への反応の大きさに比例して、その弊害も大きくなるが<秘宝狂い>の特徴で、場合によっては自分の命を軽んじて反応した秘宝を手に入れようとすることもある。<秘宝狂い>故にペラム家は繁栄し、<秘宝狂い>故にペラム家は大事な家族を失ってきた歴史があるという。


「覚えておけ。我ら遣い役のダンジョンでの一番の仕事は、<秘宝狂い>に囚われた主人を第一に諭し、諭すことに失敗した時は第二にその責任を持って主人の身を守ることだ。主人の身についた傷は己の恥と知れ。それがペラム家の遣い役だ」


 自体の急変に僕は、ただ頷くことしかできなかった。

 




次話 「素人の説得」

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