表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/6

可愛い義弟

カイザーと対面してから一ヶ月が過ぎた頃。

その後も何とか仲良くなろうと頑張ってはいるが、最終的にはカイザーに部屋から追い出される日々が続いている。

うん……まぁ、大抵は私のからかい過ぎが原因だろうけど。

でも仕方ないよね。あれはカイザーの反応が、一々面白すぎるのだもの。

真っ赤になって怒るカイザーは本当に可愛い。

でも私が泣く素振りを見せるとすぐに狼狽えて、ぎこちない手付きで頭を撫でて慰めてくれる。

もうそれが凄く可愛くて!!小さい頃の純粋なカイザー万歳!!っていう感じだったなぁ……


「……えーと、リリー?聞いてるかしら?」


おっと、いつの間にか現実逃避してたみたいですね……。

現実に戻り、私は目の前にいる少年の姿を見て固まった。

あれ?ちょっと待って、この子って確か……


「リリー、今日から貴方の弟になるオルバートよ!折角の姉弟なんだから仲良くしてあげてね!」


あぁ、人違いを願ったのですが……。

リリアンの義弟であるオルバートは攻略対象の一人である。

つまり、いま私の目の前にいるこの少年は、私を没落へと向かわせる不安材料の一つということ。

……お母様からは仲良くしてあげてと言われたけど、あまり関わりたくないなぁ。

オルバートは捨て子だったみたいで、髪もボサボサで服もボロボロだった。

何故拾って来たのか?と言いたくなるほど、彼はみすぼらしい姿であった。

ゲームの中のリリアンは、みすぼらしい姿をしたオルバートを忌み嫌い、彼を罵倒したり、暴力を加えたりしていた。

実際はとても綺麗な顔つきをしていて、ヒロインの言葉によって自信を取り戻したことで、リリアンは彼の手によって復讐をされるのだ。

つまりこの子の場合、最悪は“死”が待ち受けるわけで……

義弟になるとはいえ最悪の事態は免れるために、極力関わらないようにこれからどうするべきか考えていた。



「……ねぇ、僕のお姉ちゃんになるの?」

突然、服の袖を引っ張られたことによって、私は思考の渦から引き上げられた。

なんなの、いま考え事してる途中な……んだ……けど。


「……お姉ちゃん?」

あれ?目の前で可愛らしく首を傾げている子は誰だ?

私が知ってるオルバートじゃないっ!!

そういえば、ゲームの中では幼少期のオルバートの容姿明かされてなかったかも。ボサボサの髪で顔隠れてたし。

いや、でもここまでだとは思わなかった……。

というか、お母様はいつの間にか部屋から出ていってて、私とオルバートの二人きり。

あぁ、私の関わらないようにする作戦終わったわ……。

切り替えた頭で、罵倒とか暴力とかしなければ大丈夫なはず!と開き直った私は、オルバートの目線まで下がって自己紹介をした。

「えぇと……オルバート?私はリリアンと言って、今日から貴方のお姉ちゃんになります。突然で驚くかもしれないけど、仲良くしていこうね!」

頭を撫でて笑顔を向けてあげると、オルバートは途端に表情を明るくして抱きついてきた。

「うん!……リリアンお姉ちゃんよろしくね!」

「オルバート、抱きついてくれるのは嬉しいけれど……ドレスが汚れてしまうから一旦離れてくれる?」

「うわっ!ごめんなさい……」

突然抱きついてきたことに驚きはするものの、嫌悪感はなかった。むしろ私としては嬉しいくらい。

ただ一つだけ……いまのオルバートは拾われてきた直後のため、当然の如く所々汚れている。

一応このドレスお気に入りだったのだけど……まぁ、洗って落ちない汚れではないだろうし大丈夫だよね?

怒られたと思っているのか、オルバートは垂れた犬の耳の幻が見えるくらいシュンとしていた。

可愛い!けど、いまはお風呂とかが先かなぁ……?


「オルバート、怒ってるわけじゃないよ?ただ、これからは気をつけようね?」

「うん、これからは気をつける!」

「それじゃあ、先にお風呂に入ろうか!」


私の言葉を復唱するオルバート。

多分、分かっているはず……

お風呂場へと手を引いて連れてくと、後はメイド達に任せてしまおうと思った。

しかし、オルバートはしっかりと私の服を掴み離さなかった。

「オルバート様!手をお離し下さい!」

「嫌だっ!僕はお姉ちゃんと一緒に入るの!」

先程から、メイドとオルバートのこのやり取りが10分ほど続いている。

これではいつまで経っても入れそうになく、メイドも段々力が入ってきているような……と思って、私は助け舟を出した。

「オルバート……我儘言わないの。」

「だってお姉ちゃん……」

諭してみるものの、未だ引こうとしないオルバート。

「今度必ず入ってあげるから、今日は我慢して?」

「……うん、わかった!」

代わりに提案をすると、渋々とだが諦めてくれた。

うん。いい子だね。




お風呂に入った後、オルバートの身なりを整えてあげる。

すると、オルバートはあっという間に美少年へと変身した。

サラサラとした藍色の髪、翡翠色の瞳、陶器のような白い肌。

女の子と間違えられても可笑しくないような容姿だった。

オルバートも、鏡に映る姿が自分だと信じられないような顔をしていた。

お母様に見せに行くと、早速抱きつかれていた。

……助け求められてるけど、あれは私も受けたからなぁ。

オルバートが三途の川を渡りそうになったとき、私はようやく慌てて止めに行った。

縋り付く勢いで私の方へやってきたオルバートを見て、お母様は満足そうに笑っていた。

「あら、随分仲良くなったのね!姉弟が仲良くしてると私も嬉しいわ!」


あれ?こんなはずじゃなかったんだけどなぁ……

私の服を掴み無邪気に笑いかけてくれるオルバートは可愛い。

けど、これは死亡フラグ回避したところで、なんか違うフラグが立っているような……?


私はゲームと現実との違いに困惑しながらも、これで最悪の事態は免れるはずと内心ホッとしていた。

これから起こる様々なフラグ回避によって、違うフラグが乱立していくことは、フラグ回避に必死な私が気付くことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ