食堂での爆弾発言
「そういえば!リリー、急で悪いのだけど明日カイザー王子と会う予定が入ってるわ。高熱出したり、怪我した後で大変だろうけど、仲良くしなさいね?」
「!? ……危なかった」
次々の出てくる美味しい料理に夢中になっていると、突然お母様がまるで世間話でもするかのような軽い感覚で、爆弾を落としてくれた。
危うく、スープを吹き出すところだったよ……。
お母様は、今なんとおっしゃったのだろうか?
カイザーに会う?こんな早い段階で!?
流石に復活した翌日に会うなどと予想はしていなかったため、まだ作戦も何も立てていない状態である。
どうにかして、明日会うのは延期にできないかな……?
頭を働かせて打開策を必死に考えていたところで、私はまたしても問題にぶつかった。
あれ?……もしかして私が記憶喪失なことまだ伝えてない?
伝えようと思った矢先に、両親のペースで物事が進んで言ってしまったため、未だ記憶喪失を伝えられていなかった。
これは、今言うしかない!!
両親と真面目な顔で向き合った私は、覚悟を決めた。
「お母様、お父様。」
「あら、どうかしたの?」
「先程から話しているカイザー王子とは、どなたでしょうか?」
両親は私の顔を見ながら、呆気に取られた顔をしている。
私は心の中で言い切ったことと、伝え方がよかったことを自画自賛していた。
あれだけ熱烈にアタックしていたリリアンが、カイザーのことを知らないはずがない。そしてカイザーのことを知らないということで、更なる混乱を防ぐためにも明日会う予定はなくなるだろう。おまけに、本当に分からないと言ったような困惑した表情をしながら。
我ながら最高の作戦だと思った。……そう。思ったのだが。
「……もしかして、リリアン。何も覚えてないの?」
「はい。申し訳ありませんが……」
「そんな、記憶喪失だなんて……いいっ!全然いいわ!むしろ大歓迎だわ!」
「……は?」
両親の問いかけに演技を続行しながらも頷いてみせると、ここで予想もしないことが起こった。
なんと、両親が記憶喪失だと知って喜んでいるのだ。
え?な、なんで?驚き過ぎて一瞬、素が出ちゃったよ!
「最近のリリーの行動には、目に余るものがあったのよ。例を挙げると、カイザー王子に対して下僕の様な扱いをしたり、同年代の女の子達に「自分は将来の王妃なのよ」などと威張り散らかししてたわねぇ……。」
「流石の僕らもこれはやり過ぎだと注意をすることにしたんだけど、これもまた「将来の王妃に楯突くつもり?」なんて言葉を吐かれて終わりさ。その時は絶句したよ。まさか、自分の親の言葉も聞けないような子供に育っていたなんて……」
私は頭を抱えたくなった。
リリー……これは確かにやり過ぎだよ!
王子に対して下僕扱いって!そりゃ嫌われるわ!
しかも同年代ならまだしも、親に向かって将来の王妃発言だなんて……流石にここまで馬鹿だとは思ってなかったよ……。
「でもさっきまでの様子を見る限り、記憶喪失になったリリーには、以前のような傲慢さがなくなったみたいだし、問題がなくなって万々歳よ!」
両親は本当に嬉しそうですが、二人で話してる「これなら問題ないわね」ってどういうこと?
待って、嫌な予感がするんだけど……
「じゃあ、早速明日カイザー王子と仲良くするように!向こうには私達から事情を話しておくからね。大丈夫、緊張しなくても今のリリーなら、きっと仲良くなれるわ!」
嫌な予感が当たった……
こうして私が口を挟む隙も無く、あっという間に明日の予定が決まってしまった。
そしてお母様……これは緊張して震えているのではなく、怒りで震えているのですっ!!
……もうこれは腹を括ってやってやるしかない!
時期が早まっただけで、いつかはやらなきゃいけないことだったし……。
とりあえず、部屋に戻ったら詳しい作戦立てなくちゃ!
はやる気持ちを抑えて食事を食べ終え、両親に挨拶をしてから食堂を出ていく……と同時に廊下を走り出した。
使用人達から怪奇なものを見るような視線を浴びながら、私は自室を目指してダッシュした。
はしたない?今はそれどころじゃないのよっ!!
その夜、私は十二時を回っても机に向かい、明日の作戦を必死に考えていて、結局私が眠りについたのは、空が明るくなってきた時間となってしまった……。
明日、ちゃんと起きれるかな……?
不安を胸にしながらベッドへと身を沈めれば、瞬時に私は夢の世界へと旅立っていった。