6歳で前世を思い出しました
悪役令嬢もの書いてみたくて連載始めてしまいました!ゆっくりと更新していくので、よろしくお願いします!
高熱に魘され続けた三日間。
私はこの三日間で前世の記憶というものを思い出していた。
魘される中で次々と流れ込んでくる情報に初めは困惑していたが、途中からだんだんと状況を把握できるようになって、いま目が覚めて顔の整った一組の男女を見たことで全ての記憶を取り戻した。
どうやら私は転生というものをしたらしい。
寝起きのぼんやりとした頭で、とりあえず思ったことは
「あ、ここ。乙女ゲームの世界だわ。」ということだけだった。
『初恋blue』は前世の私がどハマリしていた乙女ゲームである。舞台は中世のヨーロッパで、数々の見麗しい攻略対象が相手であり、スチルも綺麗で人気があったゲームだった。
しかし、このゲームには大きな問題点があった。
ヒロインの性格がひどいのだ……。
設定では天真爛漫で天然の入った無邪気な女の子というものだったが、実際は様々なイベントに首を突っ込んでは自滅するという、ただの馬鹿な子である。
しかも、どう見てもヒロインの自滅なのに、何故か全てが悪役令嬢のせいになっているという非情っぷり。
最後には婚約者や取り巻きに糾弾されて、爵位剥奪のうえ身一つで家を放り出されるという没落コースまっしぐらという後味の悪いENDだった。
これには、プレイヤーも「ヒロインの性格どうにかして」「スチルはいいけどストーリーが……」などと多数のクレームがあったらしい。私もその中の一人であった。
さて、そこで私が何を言いたいかというと、私はそのゲームに出てくる悪役令嬢―――リリアン・ハーシュに転生していた。
ゲームでは、公爵家の長女であり一人娘だったリリアンは、周りに蝶よ花よと育てられたことで、プライドの高い我が儘な令嬢へと育っていった。
五歳のときに、第二王子であるカイザーと婚約者として対面したときに一目惚れする。ただ、ベタベタとしすぎたせいでカイザーには嫌われていたらしい……。
ちなみに私の今の年齢は、今世の記憶によると6歳。
つまりカイザーと既にエンカウントしていて、私にとって黒歴史となりそうな醜態を晒してしまっているということになる。
恥ずかしすぎる……!いくら今まで記憶がなかったとはいえ、前世で「これはないだろ。」と笑っていた行動を、そっくりそのまま自分が行っていたとは……。
問題は、記憶を取り戻した状態でどう行動を起こすかだ。
いきなり180°性格が変わってしまったら、流石に周りも驚くだろうし、引かれるかもしれない。かといって、私はあんな醜態を晒したくはない……。
考えて考え抜いた末、私は高熱によって記憶が混濁してしまったことで、記憶喪失になってしまったということにした。
「リリー?大丈夫なの!?」
「……うわぁっ!?」
前世の記憶を引っ張り出して現状を把握しようとしていた私は、真横から聞こえてきた声に驚いた。
ベッドサイドには美男美女がいて、涙を浮かべながら私の手を握っていた。
前世の記憶によると、この人達は私の両親であるらしい。
私ことリリアンを親バカ全開で常に甘やかし、我儘令嬢へと成長させた張本人である。
その癖に都合が悪くなったことで、最終的には私を身一つで家から放り出すのだから大人とは怖いものだよなぁ……。
あ、ちなみにリリーとは私の愛称である。
これも前世の記憶からだけど……。
「あぁ……無事だったのね!!」
ギューギューと抱きついてくるお母様らしき美女に苦笑いで返す。
……心配してくれたのは嬉しいけど、腕に力入りすぎて骨がギシギシいってますがっ!?
息が吸えないっ……
え?私、前世の記憶思い出した途端に死んじゃうの!?
あぁ、もう駄目だ。三途の川が見えてきた……。
「………………ごほっ、ごほごほ」
「……リリー?リリー!?死なないで!!」
急に肺に酸素が入ってきたことに驚き咳き込むと、原因であるお母様が肩を揺さぶってきた。
ちょ、ちょっと待って!いま揺さぶられるとやばいって!
かなり暴走しているお母様をお父様が宥めて下さいました。落ち着いてきたときにお父様にお礼を言うと、二人して目を見開いて固まってしまった。
え、なに?ちょっと怖いんだけど……
その直後「素直なリリー可愛いっ!!」とお父様が抱きついてきた。お母様もベッドを叩いて悶えている。
あれ?状況が悪化してる気が……?
というか、私が前世からイメージしてた公爵家とはかけ離れているなぁ……もっと冷酷な感じだと思ったんだけど。こんなものなのかな?
さて、まずどうやってこの状況を伝えようか。
とりあえず記憶喪失っていうことを言わなきゃダメなんだけど、さっきまでの反応見てるところ、そんな事言ったら取り乱す様子が容易に想像できる……。
「リリー?どうしたんだい?」
何を言おうか考えていると突然お父様が顔を覗いてきた。視界にいきなり端正な顔が現れたため、思わず仰け反ってしまった。「あ!」と思った時にはもう遅かった。ベッドの上にいて、尚且つ端の方に座っていた私の後ろには支えが何も無い。
当然そのままベッドから転落し、後頭部を思い切り床にぶつけてしまい、その直後に鈍い痛みが襲ってきた。
私はあまりの痛みに意識を手放してしまった。
……私、3日ぶりに起きたばかりだったのに。
そんなことを考えながら、意識を手放す直前に聞こえたのは、お母様の悲鳴とお父様の焦ったような私の名前を呼ぶ声でした。