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まものたんていしゃ  作者: 星野翔


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第13章 ウロボロスの魔術師

千鈞一髪のその時、耳を劈く狂暴な金属の衝突音が夜空に轟き渡った!


「ガキィィン——!」


一筋の電光石火の漆黒の影が、何の前触れもなく戦局へと強引に割り込んだ。一見すると平々凡々でありながら、実のところ凄まじく重厚な錆びた鉄杖が、正確無比に長剣の剣脊(はもと)を力任せに叩きつける! 必殺の一撃は強引に大きく逸らされた!


シリウスは手元に排山倒海のごとき巨力が伝わるのを感じ、右手の虎口(ここう)が一瞬で痺れた。手中にある聖剣の軌道が猛然と狂い、粗い石畳の上で幾筋もの刺すような火花を撒き散らす。


「ズシャアッ!」


彼は顔色を劇変させ、眉根を深く寄せると、突如現れた不速の客を猛然と仰ぎ見た。


昏いガス灯の灯りの下、一人の老人が悠然と数歩先に立っていた。


少し背を丸め、手中には錆びついた、しかし古樸な威厳を漂わせる鉄杖を確かに携えている。幾多の波乱を潜り抜けてきたその深遠な瞳には、駆魔公安に対する畏怖の念など微塵もうかがえなかった。


「堂々たる公安の特別行動隊隊長が、深夜の街頭で瀕死の淑女に刃を向けるとは……この光景が世に広まれば、いささか紳士の風上に置けませんな?」


老人は緩やかに口を開いた。その語調はまるで今日の天気を語るかのように平淡だったが、魂の奥底から身震いさせるような恐怖の威圧感を秘めていた。


だが——シリウスの視線が老人の手にある鉄杖を捉えたその瞬間、彼のトレードマークだった糸目の笑みが完全に凍りついた。僅かに開かれていた両目が急激に見開かれ、瞳孔が凄まじく収縮する。全身が氷室に叩き落とされたかのように強直した。


剣柄を握る両手が、制御不能なほど激しく震え始める。瞳の中に映し出されていたのは、歳月の彼方に埋もれかけた、しかし魂の最深部に刻み込まれた極致の恐怖だった。


「ウロボロス……」


シリウスは声にならない悲鳴を漏らした。その声には彼自身すら信じられないほどの砕け散った動揺が混ざっていた。


「お前は丸三年間、完全に消息を絶っていたはずだ……なぜ……なぜこんな場所に現れた……!?」


「銜尾蛇(ウロボロス)」と呼ばれた老人は軽蔑するようにフッと笑うと、手中的な鉄杖を無造作に石畳へと一頓(ひとつき)した。ズシリ……と重厚な音覚が響き渡る。


彼は緩やかに眼簾を上げ、その視線は鋭い刀のようでありながら、緊迫した戦場には不釣り合いな気だるさと散漫さを帯びていた。


「なに、ここ数年はどうにもロンドンのこの反吐が出る空気が嫌になりましてな。」


老人は思わせぶりに語り、ある事柄に言及した瞬間、その瞳の奥の光芒が急激に殺気を孕んだ。周りの大気が一瞬で氷点下へと叩き落とされる。


「少し外に出て、気晴らしに散歩をしていただけですよ。ついでに……」


彼は鉄杖を地表で二度、軽やかに叩いた。その重苦しい打撃音は、シリウスの心臓を直接叩くかのように響く。


「ついでに、あの我が古き友が、当時なぜ無念にも命を落とすことになったのか……その真相を調査していたのですよ。」


老人は神色自若とし、眼前にある殺気立った権力者の公安隊長など、まるで道端の障害物に過ぎないと言いたげだった。彼は軽快なトーンで告げる。


「シリウス隊長にこれ以上の用がないのでしたら、この可哀想な小花猫(ぶち猫)は、老いぼれが連れ去らせていただきますよ。」


シリウスの顔面筋肉が、極度の憤怒と驚懼によって歪み、引きつった。カッと見開かれた血走る両目が老人を死死と睨みつける。

両手で剣柄を硬直するほど固く握り締め、指節は白く変色していた。喉の奥から絞り出すような沙啞な怒号が漏れ出る。


「貴様……よくも公然と公安の公務を妨害する気か……!」


その言葉を聞いた瞬間、老人の瞳の底に残っていた最後の戯れが完全に消え去った。


彼は深く息を吸い込んだ——次の瞬間、周りに沈寂していた恐怖の気場が、まるで目覚めた火山のごとく猛然と爆発した!

無形の魔力威圧が実体化した狂風となり、周りに立ち込めていた濃霧を力任せに数メートル外側へと吹き飛ばす!


「ゴォォォ……!」


「ほう?」


老人は一歩踏み出し、冷徹な視線でシリウスを完全ロックオンした。覇道にして極寒の咆哮が夜空に弾ける。


「まだ遊び足りないというのでしたら……今日はこの老いぼれが破例として少し体を動かし、代わりにお相手をして差し上げましょうか?」


その頃、アンバーは腹部の魔核の粉砕と極度の失血により、意識が完全に漆黒の深淵へと落ちかけていた。


彼女はあの蒼老でありながら圧倒的な安心感を伴う声を遠くで聞いていたが、目の前の人物が敵か味方かを確認する力すら残されていなかった。最終的に氷冷な窒息感の中で、意識を完全に失ったのだった。


レヴィン——伝説の「ウロボロス」は、淡々とした神色で前へ歩み出た。

彼は動作こそ穏やかだったが、拒絶を許さぬ圧倒的な手つきで身を屈め、意識を失ったアンバーを軽々と抱き上げた。


そして背を向けると、錆びついた鉄杖で青石畳の道を規則正しく打ち鳴らしながら歩み始めた。その一歩一歩が、シリウスの張り詰めた神経を足蹴にするかのように響く。


シリウスは硬直したままその場に佇んでいた。

手に握られたばかりの殺気に満ちた聖剣は、今や万斤の巨石のごとく重く感じられた。


彼はただ眼を剥き、老人の背中が、己の獲物であったはずの小猫を抱えたまま、ロンドンの深く溶けない濃霧の中へと消えていくのを見送るしかなかった。自始至終、両脚は鉛を流し込まれたように一歩も動かすことができなかった。


かつて無数の高階魔物を血祭りに上げ、畏怖された公安特別行動隊隊長。

いまや絶対的な実力の鴻溝(こうこう)と、長年蓄積された心理的トラウマの前に、ただ魂を抜かれた石像のごとく、冷たく刺す夜風の中で無様に立ち尽くすことしかできなかったのだった。


どれほどの時間が経過したのだろうか。


アンバーは乾ききった喉の奥に、再び冷涼な感覚が滑り込んでくるのを感じた。意識が深い闇の底から一滴一滴と引き上げられていく。


本能的に跳ね起きて警戒しようとした彼女だったが——驚いたことに、先ほどまで全身を灼熱で焼き尽くすようだった腹部の激痛が、奇跡的に収まっていたのだった。残されていたのは、微かで温かな魔力の脈動だけだった。


彼女は猛然と両目を開けた。


視界に飛び込んできたのは、薄暗く古樸な古い木造部屋の寝室だった。

空気中には濃厚な草薬の清香と、金属が冷却された際の特有の匂いが漂っている。


震える手で腹部をさすると、その身体の奥深くに、温潤にして強大な魔力が再び穏やかに流れているのを確かに感じ取った——それは極めて高次元な錬金術によって精確に重鍛され、修復された魔核の脈動だった。


彼女は自分の両手を凝視し、自分が本当に地獄の門前から引き戻されたのだと確信した。


「目が覚めたかい?」


あの聞き覚えのある気だるげな声が、部屋の暗い隅から聞こえてきた。

レヴィンは図面が積み上げられた作業台の前に静かに腰掛け、手元にある精密な魔能パーツを熱心にいじっていた。振り返ることすらしていない。


「小花猫(ぶち猫)ちゃん、君の命は実に打たれ強いな。」


レヴィンは工具を置くと、椅子を回転させて向き直った。その深遠なる瞳には、かすかな戯れの色が浮かんでいる。


「魔核がほぼ完全に粉砕されていたのだ。文字通り半身をロンドンの路地に捨ててきたようなものだぞ。この老いぼれの手腕が確かでなかったら、今頃君はテムズ川の冷たい浮き袋になっていたところだ。」


アンバーは歯を食いしばり、虚弱な身体を押して木製ベッドから起き上がった。

金色の猫目の中に、劫後余生(きょうこうよせい)の茫然さと、一流の殺手としての消えない警戒心が複雑に交錯する。


彼女は眼前にある伝説の人物を死死と見つめ、低く沙啞な声で問うた。


「なぜ……なぜ私を助けたの? 前・駆魔公安總司令『ウロボロス』……いいえ、魔物探偵事務所のレヴィン先生。」


彼女は深く息を吸い込み、先ほどコルヴォスと死闘を繰り広げた光景を思い出していた。語調がいよいよ重くなる。


「私は……あなたの弟子を殺しかけたのよ?」


レヴィンはそれを聞き、苦笑を漏らした。

使い古された木製椅子に深く腰掛け、両手を鉄杖の頂点に軽く重ねると、その視線は薄暗い室内を透過し、極めて遙かな過去へと向けられた。


「だが、あやつも死んではおらんのだろう?」


レヴィンは一息置き、視線をアンバーへと戻した。その瞳の奥には、滅多に見せない温もりと蒸留された悲傷が宿っていた。


「実はな、私にも君と同じ年格好の娘がいましてね。当時、もし私が手をこまねいて見ていたら、君がシリウスのような冷血な畜生の手に落ちて死ぬ……そう思ったら、どうしても見過ごせなくてな。頭で考えるより先に、身体が動いてしまったのですよ。」


彼はまるで道端の迷い猫を拾ったかのように淡々と語ったが、そこには拒絶できない真摯さが込められていた。


やがてレヴィンは立ち上がり、ゆっくりと窓辺へ歩み寄ると、厚手の遮光カーテンを軽く引き開けた。外には相変わらず灰色の濃霧に包まれた、重苦しいロンドンの空が広がる。


「しかし……あやつの件に関しては、むしろ私の方から君に感謝しなければならんのだよ。」


レヴィンは振り返り、その蒼老でありながら鋭利な瞳でアンバーを直視した。語調には惜しみない賛辞が込められている。


「あの夜、公安にあやつの素性を一切漏らさなかったこと……感謝する。あの小猫は、私が思っていた以上に骨のある子だったようだ。」


アンバーは微かに呆然とした。すぐに眼簾を伏せ、瞳の中に渦巻く異様な感情を隠した。


あの日、傷だらけになりながらも死戦を諦めなかったコルヴォス、そしてその後駆けつけてきたシリウス——彼女は確かに、コルヴォスに関するあらゆる秘密を口にしなかった。たとえその頑固なまでのこだわりが、あの血生臭い夜に己を灰燼に帰させかけたとしても。


自分のあの愚直なまでのこだわりが、他人の口からこれほど真摯な感謝として返ってくるとは、思いもよらなかったのだ。


レヴィンはテーブルの前へと戻ってきた。

昏い灯りが彼の高大でありながら少し背の丸まった影を長く伸ばし、アンバーのベッドの脇へと投射する。不言の重圧感が室内を満たした。


彼は細い目をさらに細め、語調を突如として冷酷かつ現実的なものへと変えた。


「さて、温情の話はここまでだ。ここからが本題ですよ。」


彼は鉄杖で地表を軽く二度叩いた。


「君が今、この木小屋の扉を一歩外へ踏み出せば……駆魔公安から第一級排除対象として指名手配されるだけでなく、背後にいるあの神秘組織からも狂った追撃を受けることになる。その二重の絞殺の中で、君の命がいくつあっても足りんとは思わんかね?」


アンバーは彼の視線を受け止めた。身体の奥深くに痛みが残っていたものの、殺手としての冷冽と果断が瞳へと戻っていた。


彼女は静かにレヴィンと視線を交わし、まるで冷たい取引の契約を交わすかのように語る。


「私なんて元から日の目を見ない殺し屋よ。ボロ屑みたいな命一つ、どこへ行こうとどこで野たれ死のうと勝手でしょ。」


彼女は語調を変え、口元に自嘲的でありながら明艶な笑みを浮かべた。


「でもね……もし明日私が街頭で野たれ死んだら、あなたが今日私を助けた苦労が水の泡になるじゃない? 私、アンバーがこの世で一番嫌いなのはね……人様からの重い『借金』なのよ。」


言葉が落ちると同時に、アンバーの視線は無造作にテーブルの上に積み上げられた【公安人體実験機密文書】の山へと走った。その瞳の底に鋭利な光が閃く。


「レヴィン先生。あなたがこのタイミングで再び表舞台に姿を現したってことは……手元で何らかの闇の真相を追っているんでしょ? あなたの古き友の死因……そして、この街の背後がどれほど腐りきっているのかを……」


彼女は頭を上げ、金色の猫目の中に決絶の焔を燃え上がらせた。伝説の人物に対し、状況を顛覆させるだけの切札を自ら投げつける。


「行き場を失った私が、この『命の恩』を返さなきゃいけないって言うなら……レヴィン老いぼれ、これからの調査……私を一匹、加えてみないかしら?」

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