第零話 Killing
この作品は、ところどころバイオレンスな表現があります。
血飛沫などが苦手な方はご注意ください。
Unlimited Slaughter
21XX年、12月
『何が起こっているんだ!?』
「ぐあああッ!」
『鎮静ガスを使用しろ! 研究員を巻き込んでもいい! ともかくヤツを止めるんだ!』
真っ赤な液体が白い花を濡らす。それは、可憐な白百合の花。真っ白な蕾の真っ白な花。
鉄のナイフが真っ赤な百合を散らす。花弁は引きちぎられ、無残にも飛び散って消えていく。
惨苦と叫喚に満ちた花畑を一人の少女が駆ける。
彼女の手には血濡れのナイフ。真っ赤になって刀身が見えなくなっても、なお彼女はそれを振るい続ける。
「鎮静ガス、効きません! ATP精製機関の効果で呼吸をする必要がないためかと……」
『それなら麻酔銃を撃て! ヤツを止めるんだ!』
「あ、当てられるわけがありません! こ、ここは地獄です!あ、あの化けも……ぎゃああああぁぁぁぁぁぁッ」
通信機を持った男が無残にも撥ね飛ばされる。彼の腕は通信機を掴んだまま宙を舞い、その化け物に踏み砕かれる。
少女は一通り獲物を狩り終わると、一度立ち止まって辺りの様子を窺う。
風もないのに花畑が揺れる。百合の花がさわさわと、何かが触れたかのように揺れる。
「……生命反応、感知」
すぐさま彼女の体が跳ねる。それは一瞬でそれの頭上に飛ぶと、まっすぐに左胸を腕が貫く。
その白衣の男は悲鳴を出す間もなく地へ堕ちる。赤い噴水を噴き出しながら、赤い百合の花に埋もれる。
「……」
彼女は黙ったまま立ちつくす。もはやそこには狩るべき対象は存在しなかった。
手に持った血濡れのナイフから血の滴が垂れ落ちる。それは血だらけの土壌に吸い込まれ、そして消えていく。
次の瞬間、そこには彼女の姿はなかった。
倒壊した研究所で彼は少女と出会う。
「お前は……誰だ?」
「答えろ! 所属と名前、住民登録番号を言え!」
少女は震えながら辛うじて自分の名を告げる。
「わ、わたしは……」
次回、第一話 Finding