第一話 Finding
第一話
砕けた窓から月の光が降り注ぐ。
少年は銃を携え、少女へと突き付ける。月光に照らされた銃口は黒く、そして鈍く光る。
少女はまっすぐに少年を見つめる。その視線に敵意はない。疑問、恐怖、そして不安。それだけが眼指しに込められていた。
「お前は……誰だ?」
その問いに答えはなく、少女はなおも少年を注視する。
少年は銃を構える手に力を込める。
「答えろ! 所属と名前、住民登録番号を言え!」
その大声にびくりとした様子で縮こまる。そして、恐る恐る口を開いた。
「わ、わたしは……」
彼の名は光間サトル(こうまさとる)。日本国正規軍ジュニアチームに所属する兵士である。
ジュニアチームとは齢20歳未満の戦災孤児を支援する組織の一つとして組まれた軍で、行き場を失った子供達を受け入れ、主に後方支援を行う軍隊である。
……というのは表向きの姿で、その真の姿は対オートマータ局地戦闘部隊である。
オートマータとはロベミライアが作り出した生体部品を用いたAI搭載型戦闘機械で、高い戦闘能力、自己修復能力、そして学習能力を持った強力な戦闘兵器である。
ジュニアチームの一部の部隊(三個小隊)はそれぞれαチーム、βチーム、γチームと名付けられ、日本軍の主戦力の一つとして日夜訓練を続けている。
彼はその中でもγチームの隊長という栄誉ある地位に付き、いくつもの任務をこなしてきた。
二丁拳銃を得意とし、中でも彼が自分でチューニングした清羽と巨獣の不格好な二丁拳銃を用いて戦う。
清羽は軽さを重視した銃で、速射砲と呼ばれる火器に分類される。弾丸の軽さを極限まで軽くし、銃を撃った際の衝撃を可能な限り小さくすることによって精密かつ迅速な射撃を可能とする武器である。一発の威力は軽いものの、通常の銃器の数倍の弾速および連射速度を持つ。
巨獣は清羽とは対象的に、重火器と呼ぶに相応しい銃である。特殊な榴弾を使用し、散弾の飛び散る弾を榴弾にしたような弾丸、超炸裂弾を発射することが可能である(ただし、爆発力は一般的な榴弾の数倍)。
また格闘も得意としており、下手な鈍器よりも高い攻撃力を誇る。打撃はもちろん、投げ、絞めなども得意としており、武装したオートマータ相手にも十分渡り合うことができるほどの実力を持つ。
特殊な体質で、生まれつき全身の臓器が左右反転している。
……そして雪舞う12月の某日、今日も彼は一つの任務を受けていた。
フォールスミッション(見せ掛けの任務)と呼ばれる任務で、その名の通り世間一般にジュニアチームが後方支援部隊であることをアピールする気楽なミッションである。
戦闘を一切伴わず、そして任務そのものも簡単かつ楽な任務な作戦で、チームの面々は特に緊張することもなく臨む。
今回の作戦は国籍不明の部隊に襲撃された研究所を捜索し、生き残っている研究員を救出したり、いくつかの指示を受けた物品の回収が主な任務だった。
「隊長、なに武器のチェックなんてしてるんすか。今回はお気楽ミッションっすよ」
γ部隊副隊長……近藤ヒロキが不思議そうにサトルの様子を見つめる。
「一応な。半壊したオートマータが残ってたりすると面倒だ」
サトルはマガジンへと一つずつ弾丸を込めながら答えた。
辺りでは部隊の面々が楽しげに談話をしたり、カードゲームを楽しんでいる。
「そんな武器のチェックばっかりしてないで、たまには女の子のチェックでもするべきっすよ。補給部隊のアミちゃんとかどううっすか? 結構可愛いし、性格もいいっすよ」
「そんなこと言っても無駄よ」
一人の少女の声が響く。どこからか二人の少女が二人の元へと向かっていく。
「サトルの恋人は銃だもん。そんなこと言ったって無駄よ無駄」
「11時32分、72度」
隣に並んだ少女がそう呟くとほぼ同タイミングでヒロキは銃を抜き、遠慮せずに引き金を絞る。
しかし、まるでその射撃を見越していたかのように少女は回避すると、きゃははと笑う。
「ありがと、ヒメ。それにしてもそのすぐ抜く癖をどうにかしないと昇進できないわよ」
「問題ない、抜くべき時と場合くらい弁えている」
未だ銃口から白煙を上げる銃を収めながらサトルは……β部隊隊長、篠川リンをにらみつける。
彼女は何事もなかったかのようにサトルの隣へ座る。相変わらず銃の調整を続けるサトルの射撃を正確に“予言”してみせた少女……烏丸ヒメは黙ったまま三人の様子を見下ろす。
相変わらず同じように談笑する少年達だったが、顔を寄せ合って話し始める。
「さすが隊長は化け物だよな……」
「いきなり銃を抜くサトル隊長も、それを避けてみせるリン隊長も……まさに人外だよ」
「その二人と付き合える副隊長たちもな……」
その耳元を銃弾が駆け抜ける。
「聞こえてるぞ?」
「あ、す、すみません!?」
サトルは再び銃口を拭い、ホルスターへと収めた。
「ホントに抜き時わかってるの?」
「任務には影響ない」
「そういう問題じゃないっすよ……」
再び銃を弄り始めるサトル。そんな様子に飽きれ果てるリン。結局自分も銃の整備を始めるヒロキ。相変わらず黙って立ちつくすヒメ。
こんな四人の様子は、この部隊では日常茶飯事であった。四人がこうしているとき、それは平和を象徴するもので、逆にこれ以外の状況は平和な状況ではないと言えるわけである。
サトルの腕時計が音を出して鳴り始める。それを聞いて、銃を片づけ始めるサトル。
「時間だ」
彼は手早く整備用の道具を片付けると、武器の類をホルスターやケースに収め、軽く準備体操を始める。
ヒロキも慌てて整備していたライフルを片付けると、今回の任務で携帯する短銃やナイフを装備する。
リサとヒメは既に準備を終えていたのか、特にすることもなく立ち上がる。
「行くぞ」
「ま、今回も大したことないんでしょうけどね」
「それでも行くっすよ」
「……」
彼女の名前は篠川リン。数少ない女性隊員で、それと同時にβチーム隊長を務める。
特殊な体質の持ち主で生まれつき筋肉の組成が特殊なため、重いものを持ったり、強い力を出したりすることができない。その半面素早い動きを得意とし、体を非常に早く動かすことができる。
そのため、反動の大きい銃器や、力の必要なブレードなどの武器を用いず、速さを最大限に生かせるナイフを得意とする。
彼女の持つ高周波ナイフ、銀狼は超高速で振動するヴィブロナイフである。高速で振動することによって高い切削能力を持つ。
「ヒメ、そっちはどう?」
「……ない」
リンは棚を漁りながらため息を付く。
「それにしても酷いわね。これだけ血だらけだと気持ちが悪くなるわ」
歩くたびに靴の裏が粘付くような感触。リンはその不快な気分をはぐらかすために思い切り血の塊を蹴り上げる。
それはべったりと壁に張り付き、奇怪な模様を描き出す。
「ひーめー! この任務、ホントやる意味あるの?」
「……」
ヒメは黙ったまま書棚に収められた本のタイトルを調べる。そこには彼女の探している物はなかったのか、次の書棚へと彼女は移る。
「ねえヒメ、聞いてる?」
「……私達は与えられたことをすればいい」
そう、ヒメは静かに答える。リンは血の染み付いたソファにどかりと腰を落とすと、手に持った書籍のページをめくる。
「そうね。任務に意味があろうとなかろうと、あたし達は黙ってそれをこなせばいいのよね」
しばらくの間、二人は黙って本のページをめくり続ける。
「ねえヒメ、ATPって何?」
「……アデノシン三リン酸。生体内化学反応のエネルギー伝達物質。解糖やクエン酸回路でADP(アデノシン二リン酸)から作られ、生体内の物質合成、吸収、成長、運動などの……」
「あー、ヒメに聞いたあたしが馬鹿だったわ」
パタンと本を閉じ、血糊を払いながらリンは立ち上がった。
「さ、次行くわよ。この部屋にはもう私達が探しているものもないみたいだしね」
ヒメは黙って頷いて本を書棚に戻す。
二人は一度後片付けを済ませると、書庫を後にした。
彼の名は近藤ヒロキ。γチーム副隊長を務め、化け物揃いの隊長副隊長の中では比較的普通の部類に入る。
非常に目が良く、視力検査では測定不能(視力20.0以上)という値を弾き出すほど。
近接戦闘において特に並外れた技能を持っているわけではないが、彼の真の実力が生かされるのは遠距離からの援護に入ったときである。
非常に精密な射撃を行うことができ、夜間でも星の光さえあれば照明なしで数百メートル離れた対象でも狙撃してみせる。
そんな彼の得意武器は当然のことながらライフル。弾芯にタングステンを使用した通常弾と劣化ウランを使用した劣化ウラン弾を使い分ける。彼の愛銃、精霊は強力なスコープを搭載した超長距離射撃用のライフル。一般の兵にはとても使いこなせるようなモノではないが、彼が扱えば数キロ離れたピンの穴でさえ正確に狙撃することが可能である。
「たいちょ~……この研究所って何を研究してた研究所なんすか?」
「新型の兵器を開発していたそうだ。どんな兵器までかは知らんがな」
サトルは本のページをめくりながら答える。彼が目を通している本は遺伝子工学の本。
「ここ、なんでこんなに人間に関する本が多いんすか?」
そう言いながら、ヒロキはミトコンドリアについて記述された本を放り投げる。
「さあな」
大体の本の内容を頭に収めたのか、サトルは本を本棚に戻す。そして次の本を取り出し、再びページをめくり始めた。
ヒロキは本をめくることに飽きたのか、椅子に腰かけたまま背伸びをする。
「それに、運び出されるように言われた本はどれも百合について記述された本全て……。兵器と百合って、何の関連があるんすか」
「知らん」
本の中に百合についての記述が見当たらないことを確認すると、サトルは本棚へ本を戻した。
「お前もサボっていないで探せ」
「じゃあ、俺は向こうの部屋を調べるっす。この部屋は隊長に任せるっすよ」
そう言って、研究室から去ろうとするヒロキの襟元をサトルはがっちり掴む。
「待て。そっちはラウンジだろう?」
「だからラウンジの方に何かないかと……」
「それなら、隣の書庫を探せ、な?」
そう言って、サトルは隣の書庫へと繋がるドアを指さす。
「う……わかったっす……。探せばいいんすよね、探せば」
そう、彼は不服そうに言いながら隣の部屋へと歩いていった。
彼女の名は烏丸ヒメ。βチームの副隊長を務める寡黙な少女である。
身体能力や、扱う武器は並みの兵士と何ら変わらない。むしろ低いと言った方が正しいだろう。
そんな彼女が副隊長を務めている理由は他にある。
彼女の眼は三秒先の世界を見ることができる。つまりはプレコグニション(予知能力)を扱うことができるのだ。
前述したように、彼女が見ることができるのは三秒先まで。つまり、素早い判断力と優れた知能を必要とする能力である。
もちろん、彼女にこの二つは備わっている。その頭脳も副隊長に任命された要因の一つだと言えるだろう。
「……」
彼女は黙ったまま、本のページをめくり続ける。リンなど飽きてしまって勝手に紅茶を飲んでいる。
「ヒメー! 一緒に紅茶飲もうよー!」
「駄目……。まだ終わってない」
彼女はそうぼそりと呟くと、再び本へと目を落とす。
リンは退屈そうに紅茶を飲む。何か菓子でもあれば完璧なのだが、残念なことにそういった類のものは準備されていないようだ。
「ひーめー! いいじゃん調査なんてさー。どうせフォールスミッションなんだからさぁ」
ヒメは名前を呼ばれても完全に無視を決め込み、黙々と本を読み続ける。
「ちぇ、せっかくヒメの紅茶も入れたのに……」
ようやくヒメもリンのしつこい勧誘に折れたのか、本を持ったままリンの前に座る。
「ささ、熱いうちにぐーってさ!」
言われた通り、ヒメは冷める前に一口飲む。
「……ぬるい」
紅茶の入れ方か、それとも紅茶の温度か。どちらかは不明だが、彼女は本を置いて簡易給湯室となっている書庫の一角へと立つ。
「どうせあたしは紅茶入れるの下手ですよー」
口をとがらせてむくれるリン。ヒメは黙ってポットへとお湯を移し、一度捨ててからもう一度お湯をポットへ入れた。そして、茶葉をポットへ入れると、ゆっくりと浸出させる。
それを二つの新しいカップに注ぎいれるとテーブルへ戻り、リンに差し出す。
「うん、ありがと」
そう言ってリンはカップを受け取る。もう一つは自分の前に置き、本を読みながらゆっくり香りを楽しみながら口に含む。
「紅茶は95℃以上でないと葉が開かない」
「そうは言っても、面倒なんだもん。それにあたしみたいな馬鹿には紅茶の味の違いなんてわからないし」
そう言って、熱い紅茶をゆっくり飲む。
本を読み終わったのかヒメは本を一度書棚に戻すと、次の本を持って席へと戻る。
「こうやっていつまでもずっと紅茶を飲んでいられたらいいのにね」
「……」
リンの言葉に対しての答えはなかったが、確かにヒメは首を縦に振った。
そして時が経ち、夜へと近付きつつあった。
長い時間本ばかり読んでいたためかサトルは首を振って肩を鳴らす。ごきごきと小気味のいい音が鳴った。
「少し休むか」
サトルは本を本棚へ戻すと、隣の部屋にあるというラウンジへと向かう。
おそらく研究員用だと思われる無料の自動販売機のボタンをプッシュする。紙コップが落ちてきて、こぽこぽとコーヒーが注がれる。
熱いコーヒーを少し口に含ませ、彼は顔を歪めた。
「不味い……」
彼にとって苦味も酸味も甘味も中途半端。どれもこれもが中途半端過ぎて、一つの形に成りきれていないとでも表現すればよいのだろうか。
「飲むにも値しないな」
そう言って彼はその中身を流し台にぶちまけると、コップを潰してごみ箱へと放る。
「……ふぅ」
かつては大きな窓がはまっていたであろう窓枠は無残にも歪められ、それを破壊した存在がいかに強力な力を持っていたかを物語っている。
彼は窓枠に張りついている窓を軽く叩いた。床へとまっすぐ落ちていったガラスの欠片は、堅いリノリウムの床にぶつかると、粉々に砕け散った。
「ッ!?」
サトルはとっさに物影へと隠れる。ガラスが砕け散った瞬間、確かに何者かがはっという風に息を吸い込む音を聞いたのだった。
彼の視界の範囲内には誰一人いなかった、にも関らず呼吸の音が聞こえたということは誰かが隠れているということである。
獣の呼吸音ではない。人と獣のそれでは明らかに違いがありすぎる。ゆえに、彼が聞いた音は誰か隠れている者のものだと断定できる。
「誰だッ!」
彼が大きな声で怒鳴ると、またしても息を吸う音を耳にする。それと同時に、がちがちという、何か硬いものががこすれあうような音も聞こえてくる。
彼はゆっくりと体を出すと、身を屈ませたまま音の発生源へと忍び寄る。腰に差されていた自動小銃はすでに彼の手の中にあった。
月光が……白い頬を照らす。
両手を口でふさぎ、目に一杯の涙をため込み、がたがたと震えながら蒼白な表情を浮かべる一人の少女がそこにはいた。
純白の長髪。羽毛のように柔らかで、まさしく天使の羽を髣髴させるそれを携えた少女は、同様に真っ白な肌、そして装束を身にまとっていた。だが、それはもはや血が染み込んでおり、とてもではないが着れたものではなかった。
手には銀のブレスレット、ほかにはアクセサリーらしいものは見当たらない。
「お前は……誰だ?」
肩をびくりと震わせて彼女はすくみ上がる。月光は彼女の悲壮な表情を明るく照らすが、それを見ても彼は語尾を強めて尋ねる。
「答えろ! 所属と名前、住民登録番号を言え!」
ぽろぽろと大粒の涙を流し始める少女。サトルはやれやれという表情を浮かべ、まっすぐに構えていた自動小銃を床に置き、両手を頭の上に回した。
「俺はお前に危害を加えにきたわけではない。任務でここを訪れただけだ。研究員を見つけた場合の対処については聞いていないが、おそらく保護するよう言われるだろう」
その様子を見て少女はようやく、それでも恐々と口を開く。
「わ、わたしは……わたしはユリ……ユリです……」
「名字は?」
彼女はぷるぷると首を横に振る。
「わ、わかりません……」
「所属は? 登録番号は?」
同じように首を横に振る少女。サトルは大きなため息をついた。
腰に差された通信機を手にとると、彼はそれに向かって喋り始める。
「一階ラウンジにて所属不明の少女を保護」
しばらくすると、クリアな音声が通信機から流れてくる。
『少女? まさか生き残り?』
「かもしれません。ともかく指示を」
しばらくの空白の後、返答が帰ってくる。
『あなたはその子を連れて戻ってらっしゃい。あなたの部隊はヒロキにまとめてもらって。それから、リンちゃんかヒメちゃんを連れてきてちょうだい。女の子が一人必要になるでしょうから』
「了解」
サトルは通信機と床に置いた銃を腰に戻すと、少女の方へと手を差し伸べる。
「立てるか?」
「は、はい……」
少女は彼の手を握ると、ゆっくり立ち上がった。
「怪我はないか?」
「あ……えと……いたた……」
少女はふらふらと揺れながら近くの机に手をついた。サトルは慌てて駆け寄ると、彼女の体を支えた。
「足が……少し……」
足にはどこでつけたのか、軽い切り傷があった。サトルは腰のバックパックから消毒液やガーゼを取り出すと、消毒液をガーゼに染み込ませた。
「少し染みるぞ」
「え、あ、そんな、いいですよ!」
サトルは彼女の言葉も聞かずに足の傷を手当する。当の少女は顔を真っ赤に染めてうつむく。
最後に止血判を当てて包帯を巻くと、彼は立ち上がる。
「終わったぞ」
「あぅ……えっと……その……」
少女は赤面しながらも、何かの言葉を紡ぎ出そうと必死に言葉を探す。
やがてその言葉を探し出したのか、小さな声で少女は呟いた。
「あり……がとう……ございま……す……」
「礼には及ばん。これも職務の内だからな」
彼女はそっと歩こうとする。どうやら、歩くには問題ないようだ。
「さっきはいきなり銃を向けて悪かったな」
サトルは腰のホルスターに銃をしまいながら言った。少女はふるふると首を横に振る。
「こ、こっちこそいきなり怖がってすみません……」
「銃を向けられれば恐ろしいのは当然だ。俺でもメンテナンス以外では銃口を覗きたくない」
「あ、怖かったのは銃の方じゃなくて……えと……その……」
少女はサトルの方をちらちらと見ながら答えに詰まる。
「サトルだ。俺の名は光間サトル。ジュニアチームγチームの隊長だ」
「えっと、サトルさんの声が怖くて……すみません」
少女はぺこりと頭を下げる。そんな律義さにサトルは面食らう。
「おいおい、謝るようなことじゃないだろう。大声を張り上げたのは俺の方だ。俺こそ怖がらせてすまなかった」
サトルも少女に頭を下げる。
少女はやがて顔を上げる。サトルもほぼ同時に顔を上げた。それからしばらくして、少女は笑い始めた。
「あははは、二人で頭下げるなんて……」
「何かおかしいか?」
「いえ、でもあんなに怖かった人がこんなに面白い人だなんて……」
サトルには少女にとって何が面白いかを理解することができず、しばらくの間考え込む。そんな彼の様子を見て、少女は再び声を出して笑った。
「あはは、笑いすぎですね、わたし」
「む、俺には何が面白いのか理解できん」
「面白いんじゃないんです。でも、なんかおかしくって……」
少女はしばらくの間、笑い続ける。サトルは机に腰かけて腕を組んで真面目に考え込んでいた。
任務を終えた彼らは帰宅の路につく。
シャワー室でヒメは血だらけの少女の髪を洗ってやっていた。
「あの……その……」
ユリはヒメの手を止めようとするが、ヒメは頑として髪を洗う手を止めない。
「駄目、命令だから」
髪を洗い終えたユリはヒメに連れられて一つの部屋へ向かう。
そこにはサトルと彼の師匠でもあり、育ての親でもある芝中ミサトが待っていた。




