山田と新教会3
「おい、これで全部か?」
「ええ。選りすぐりの精鋭達ですよ。奥にはまだ控えておりますが、あなた達には十分すぎるでしょう」
横を見ると、サザーラントがゲーガンを睨みつけている。
「これがあなた方のやり方ですか? こんなことをして何になると言うのだ!」
「説明するだけ無駄でしょう。余計なことは考えず、武官は武官らしく戦争だけしていればいいんですよ。おわかりいただけましたか?」
おわかりいただけましたかって、あのビデオみたいだな。3つに1つは全然わからないヤツな。たまにウワッ! ってなるけど……
「さあ、もう十分でしょう。王国には『教会を襲った狂人と勇敢に戦って散った』とでも報告しておきますよ――」
辺りに身の詰まった何かが潰れるような音が響いた。音の発生源の方を見ると、見たことのない武器で、僧兵の頭を一撃の下に叩き潰した狂人がいた――
「これ精鋭か?」
「くっ! 全兵を集めなさい! この者達を確実に葬るのです!!」
ゲーガンの指示と同時に、物陰から更に多数の僧兵が姿を現した。吹き抜けの上部から、こちらを狙っている弓兵も窺える。
「我が拳にあるのはただ制圧前進のみ!!」
俺は周りを威圧しながら、技も何もなく、ただただ叩き潰す。上から狙ってくる弓兵には、引き千切った僧兵の頭を投げつける。聖帝ヤマダーに逆らったものは降伏すら許されんのだ!!
数分も経たない内に僧兵の手が止まり、1歩、2歩と後退していく。
「何をしているのです! 早く、あの狂人を殺しなさい!!」
だが、恐怖が伝染した兵に戦意を戻すほどの指揮能力をゲーガンが有しているはずもなく、「化け物だ……」「あんなのがいるなんて聞いてないぞ……」と、逃げ出す兵も現れ始めた。
「に、逃げるな! ――ッ!」
俺はゲーガンの顔を鷲掴みにし、持ち上げる。徐々に力を込めていき、頭蓋の軋む音が聞こえ始める。それでこう言うんだ。汚ねえ花火だ、と……
「そこまでにしろ。これ以上、子供に凄惨なものを見せるな」
サザーラントが俺の腕を掴み、制止する。そういや忘れてたな。
子猫の様子を窺うと、戦いの気に当てられたのか「お前もまさしく強敵だった!」と、七つの傷を持つ男みたいな顔になっていたので、後で中野に預けておこう。
「馬鹿め! こっちには人質がいるんですよ!」
ゲーガンが死ぬまでに一度は言ってみたい小悪党の台詞ランキング上位を叫んだので視線をやる。人質? マイケルかな? まあ別にいいか……
「人質は拙者ではござらんよ! 口に出てるでござる!」
おや、マイケルでござる。無事だったでござるか。
「孤児院の子供3人、先程の混乱に乗じて救出させてもらったでござるよ」
「それに教会の帳簿、出納帳も預からせてもらったでござる。法王庁への献金、教会の維持費、教会の枠を超えた金額を王国から集めているでござるな? この2点は枢機卿団へ報告させてもらうでござる」
「法王庁に国が介入するとは、それこそ越権行為ですよ。それにその子供達は保護しているのです。何か勘違いされているのでは?」
「お前、さっき人質がいるとか抜かしてたじゃねえか」
む。見知らぬオッサンが急に話に入ってきた。誰、コイツ?
「ぐっ……レトリバー王……」
「国を治めてるモンの前で、人ん家のモン人質に取った何て抜かして言い逃れできねえぞ?」
「まあ、金はもうしょうがねえ、くれてやるよ。だが、ガキ人質にしたのは許さん! サザーラント! コイツ牢屋にでもブチ込んどけ!!」
「はっ!!」
「法王庁とは俺が話といてやるから、お前は檻ん中でゆっくりしてろや。ナシついたら出してやるよ」
えー、これ、王様? 輩じゃん。ヤバくね?
「お前等も迷惑かけたな。アイツ等が手ぇ出すまで動けなかったんだわ。嫌がらせぐらいじゃ、のらりくらりと逃げられちまうからな」
王と目が合う。なかなか厳ついオッサンだな。
「おう、お前がヤマダか。一度会ってみたかったんだよな。王都で暴れまくってるらしいじゃねえか、衛兵から苦情きてんぞ?」
「構ってくるアイツ等が悪い。俺は散歩しているだけだ」
「ハッハッハッ! そりゃ散歩の邪魔しちゃいかんわな! その内、また会うだろ、じゃあな!」
レトリバー王は豪快に笑いながらそのまま帰って行った。マイケル達は人質救助してたのか、大変だったんだなー。
「まあ、法王庁は色々とあるでござるよ。それよりお疲れ様でござる。取り敢えずは一件落着でござるよ」
「ああ、それより中野はいるか?」
「近くにいると思うでござるが……」
俺は頭にしがみついていた猫をそっと渡す。
願わくは彼が修羅の道を歩まんことを――




