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183/183

第183話 悪役なら最後まで領主でいる

 グランディア領。


 引き継ぎ計画が始まってから。


 少しずつ。


 俺の仕事は減っていった。


「……。」


 机を見る。


 以前なら。


 山のように積まれていた書類。


 今は。


 必要なものだけ。


「男爵様。」


 リリアが言う。


「少し寂しそうですね。」


「……。」


 図星だった。


「別に。」


「そういう顔です。」


「……。」


 昔なら。


 自分が必要とされないことを恐れていた。


 しかし。


 今感じているものは。


 少し違う。


 寂しい。


 でも。


 安心している。


「不思議だな。」


「何がですか?」


「必要なくなることが。」


「悪いことだと思っていた。」


 リリアは静かに聞く。


「でも。」


「今は?」


「……。」


「成功した証だと思える。」


 午後。


 街へ出る。


 以前のような視察ではない。


 ただ歩くだけ。


 店を見る。


 住民と話す。


「男爵様。」


 商人が声をかける。


「最近。」


「若い人たちが頑張っていますね。」


「ああ。」


「最初は心配でしたが。」


「今では安心しています。」


 その言葉。


 少し嬉しい。


 自分だけではなく。


 皆が次の未来を見ている。


 帰り道。


 交流学校の前を通る。


 子供たちが走っている。


「男爵様!」


 声をかけられる。


「また来てください!」


「ああ。」


 自然に答える。


 昔なら。


 約束なんて。


 簡単にはしなかった。


 守れない可能性を考えていたから。


 今は。


 明日が来ると信じている。


 夜。


 庭。


「男爵様。」


 リリアが紅茶を置く。


「最近。」


「よく笑いますね。」


「そうか?」


「はい。」


「昔の写真があれば比較したいくらいです。」


「……。」


 写真。


 この世界にもある。


 昔。


 初めて撮った時。


 表情が固かった。


 今なら。


 少し違う顔をしているかもしれない。


「リリア。」


「はい。」


「俺は。」


「ちゃんと変われたのか。」


 少し沈黙。


 そして。


「はい。」


 即答。


「でも。」


「別人になったわけではありません。」


「……。」


「昔のアルベルト様も。」


「今のアルベルト様も。」


「全部同じ人です。」


 空を見る。


 転生した日。


 悪役になると決めた。


 その自分も。


 今の自分も。


 否定する必要はない。


 その時。


 イリスが現れる。


「報告です。」


「またか。」


「最後の記録ではありません。」


「?」


「新しい記録です。」


 光が浮かぶ。


『グランディア領』


『新領主候補による初の単独運営』


『成功』


「……。」


 リリアが笑う。


「見届けましたね。」


「ああ。」


 イリスが続ける。


『アルベルト・フォン・グランディア』


『監督者から』


『支援者へ移行』


「……。」


 肩書きが変わる。


 でも。


 やることは変わらない。


 誰かを助ける。


 話を聞く。


 一緒に歩く。


「悪役には。」


「最後までなれなかったな。」


 リリアが笑う。


「でも。」


「最高の領主にはなれました。」


「……。」


 否定する理由は。


 もうなかった。

第183話を読んでいただきありがとうございます!


今回はアルベルトが「中心に立つ者」から「見守る者」へ変わる回でした。


最初は孤独を選んだ彼が、最後には誰かの成長を喜べる存在になっています。

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