第154話 悪役なら始まりの日を振り返る
グランディア邸。
夜。
珍しく。
誰も来ない。
誰からの手紙もない。
緊急連絡もない。
「……。」
本当に静かだ。
俺は屋敷の廊下を歩く。
昔。
この場所へ来た時のことを思い出す。
転生した直後。
自分が悪役貴族だと知った。
「……。」
あの時。
決めた。
嫌われる。
恐れられる。
それが。
この世界で生き残る方法だと思った。
部屋へ入る。
昔使っていた机。
そこには。
古い紙が残っていた。
『悪役計画』
「……。」
今見ると。
酷い内容だ。
領民に厳しくする。
部下を道具として扱う。
誰も信用しない。
完璧な悪役になる。
「……。」
しかし。
最初に雇った側近。
最初に話した領民。
最初に助けた人。
全部。
計画通りではなかった。
「アルベルト様。」
声。
振り返る。
リリア。
「まだ起きていたのか。」
「それはこちらの台詞です。」
「……。」
リリアは机を見る。
「懐かしいですね。」
「何が。」
「最初の頃のアルベルト様。」
「……。」
「怖かったですよ。」
「そうか。」
「はい。」
少し笑う。
「でも。」
「不思議でした。」
「?」
「冷たい言葉を言うのに。」
「いつも最後には誰かを助けていました。」
「……。」
否定しようとする。
でも。
できなかった。
「俺は。」
「悪役になるつもりだった。」
「はい。」
「なのに。」
「全部。」
「予定通りにはならなかった。」
リリアは笑う。
「それで良かったと思います。」
「……。」
窓を見る。
街の明かり。
昔は。
ただの領地だった。
今は。
帰る場所。
「リリア。」
「はい。」
「俺は。」
「本当に変わったのか。」
少しの沈黙。
そして。
「はい。」
即答。
「でも。」
「変わったというより。」
「本当のアルベルト様になったのだと思います。」
「……。」
意味を考える。
悪役という役を演じようとして。
逆に。
本来の自分を見つけた。
そんな気がした。
翌朝。
街へ出る。
子供たちが走っている。
商人が店を開ける。
人間も。
魔族も。
普通に暮らしている。
「男爵様!」
声。
振り返る。
「また何か?」
「違います!」
領民が笑う。
「ただ。」
「ありがとうございますと言いたかっただけです。」
「……。」
俺は少し困る。
「礼を言われるようなことは。」
「していない。」
領民は笑う。
「そう言うと思いました。」
その日の夕方。
屋敷の庭。
紅茶。
静かな時間。
「……。」
これが。
最初に望んだもの。
でも。
昔と違う。
隣には。
リリア。
少し離れた場所に。
セレナ。
騒がしい仲間たち。
完全な孤独ではない。
それでも。
静かだ。
「……。」
悪くない。
そう思った。
そして。
机の上。
最後の一通の手紙。
『世界管理システムより』
『最終記録』
「……。」
イリスが読む。
「内容。」
「確認します。」
少し間。
「アルベルト・フォン・グランディア。」
「あなたの物語は。」
「世界を変えた英雄の記録ではなく。」
「一人の人間が。」
「居場所を見つけた記録として保存されます。」
「……。」
俺は空を見る。
「それなら。」
「悪くない。」
十一章。
終わりへ近づいていた。
第154話を読んでいただきありがとうございます!
アルベルトが転生直後の自分と向き合う回でした。
「悪役になる」という目的で始まった人生が、最後には「自分の居場所を見つける物語」になったことが描かれています。
次回、十一章最終話へ向けて、アルベルトが今の仲間たちと過ごす時間を描きます。




