表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星喰いの王と、忘れられた魔女  作者: あーちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/128

消えた母親の顔

名前を思い出せても、顔を思い出せない。


 それは、どれほど寂しいことでしょうか。


 フェルカの村で、ユノたちは失われた名前を少しだけ取り戻しました。

 けれど、星喰いに奪われたものは、名前だけではありません。


 声。

 表情。

 ぬくもり。

 大切だったはずの人の顔。


 このページでは、ひとりの少女との出会いを通して、“家族の記憶を失う痛み”が描かれます。


 忘れたくないのに、忘れてしまう。

 思い出したいのに、顔だけがぼやけていく。


 その悲しみに、ユノたちは向き合うことになります。

フェルカの村に、朝が来た。


 山の向こうから薄い光が差し込み、霧の残った畑を淡く照らしている。


 昨日まで名前を失っていた村人たちは、互いの名を確かめ合うように朝を迎えていた。


「エマ」


「トマ」


「オルド」


「リナ」


 名前が呼ばれるたび、村の空気が少しずつ温かくなる気がした。


 けれど、すべてが元に戻ったわけではなかった。


 ユノは礼拝堂の前に立ち、村の様子を見ていた。


 井戸のそばでは、エマが息子のトマを抱きしめている。トマは何度も母親の名を呼び、そのたびエマは泣きそうな顔で返事をしていた。


 オルド老人は、記憶録に村人の名前を書き足している。


 忘れないために。


 また消えないように。


 誰もが必死だった。


 取り戻した名前を、両手で抱えているようだった。


「平和に見えるね」


 ミアが隣に立った。


 寝不足のせいか、目の下に少し影がある。


「見えるだけだろ」


 ユノは答えた。


 村にはまだ空白の爪痕が残っていた。


 家の壁に掛けられた家族写真の顔が、ところどころ白く抜けている。畑の一角には誰が植えたのか分からない花が咲いている。村人たちは名前を思い出しても、昨日何を食べたのか、誰と何を話したのか、ほとんど覚えていなかった。


 名前は戻った。


 でも、日々は戻っていない。


 それが星喰いの残酷さだった。


「リゼは?」


「礼拝堂の中。星涙石を調べてる」


「大丈夫かな」


「分からない」


 昨日、地下室で手に入れた小さな星涙石。


 それはルグナで手に入れたものより弱い光を放っていた。リゼによれば、フェルカの星涙石は完全な欠片ではなく、“記憶の雫”に近いものらしい。


 それでも、星喰いの霧を晴らす力はあった。


 ユノの力がそれを目覚めさせた。


 そうリゼは言った。


 鍵。


 自分がそう呼ばれる意味を、ユノはまだ受け入れきれていなかった。


「ユノ」


 礼拝堂の中からリゼが出てきた。


 手には星涙石を持っている。


「もう行けるわ」


「灰の王国へ?」


「ええ。オルドにもらった地図を見る限り、古い街道を北西へ進めば、三日ほどで灰の王国の国境跡に着く」


「国境跡?」


「千年前の国よ。今も王国として残っているかは分からない」


 ミアが肩をすくめる。


「先が長そう」


「始まったばかりよ」


 リゼは淡々と言った。


 その時だった。


 小さな声が聞こえた。


「旅の人」


 三人が振り返ると、礼拝堂の影に少女が立っていた。


 年は七つか八つくらい。


 黒髪を短く切りそろえ、両手で古い布人形を抱いている。服は少し大きすぎて、袖が手の甲まで隠れていた。


 少女は不安そうに三人を見上げていた。


「どうしたの?」


 ミアが優しくしゃがむ。


 少女は布人形をぎゅっと抱きしめた。


「お願いがあるの」


「お願い?」


「お母さんを、探してほしいの」


 ユノは胸の奥が冷たくなった。


 村人たちの記憶は完全には戻っていない。


 もしかすると、この少女の母親も。


「君の名前は?」


 ユノが聞くと、少女は小さく答えた。


「ノア」


「ノア。お母さんの名前は分かる?」


 ノアは頷いた。


「サリア」


 名前は覚えている。


 それだけで少し安心した。


 だがノアは続けた。


「でも、顔が分からないの」


 ミアの表情が変わった。


「顔……?」


「うん」


 ノアは布人形を見つめる。


「お母さんがいたのは覚えてる。名前も覚えてる。声も、少しだけ覚えてる。でも顔が……どうしても思い出せないの」


 少女の声が震えた。


「昨日から、村のみんなに聞いてるの。でも誰も、お母さんの顔を覚えてないって」


 ユノは言葉を失った。


 名前は戻った。


 でも顔が戻らない。


 それは、どれほど苦しいことだろう。


 会いたい人の名前を呼べるのに、その顔だけが分からない。


 ミアがそっと聞いた。


「お母さんは今どこにいるの?」


「分からない」


「いなくなったの?」


「たぶん」


 ノアは首を傾げた。


 その仕草が、ひどく痛々しかった。


「いなくなったことも、ちゃんと覚えてないの。ただ、朝起きたら家にいなくて。でも、前からいなかったような気もして。でも、この人形はお母さんが作ってくれたの」


 ノアは布人形を差し出した。


 古い人形だった。


 綿が少しはみ出し、片目のボタンが取れかけている。けれど大切にされているのが分かった。


 人形の服の裏側には、小さな刺繍があった。


 ――ノアへ。サリアより。


 ユノはそれを見て、胸が締めつけられた。


 母親は確かにいた。


 この人形を作り、娘に渡した人が。


 その愛情だけは、まだ消えていなかった。


 リゼが人形を見つめる。


「この人形に、記憶が残っているかもしれない」


「本当か?」


「強い想いが込められた物には、持ち主の記憶が宿ることがある」


 ノアの顔に希望が灯った。


「お母さんの顔、分かる?」


「保証はできない」


 リゼは正直に言った。


「でも、試す価値はあるわ」


「お願い!」


 ノアは必死に頭を下げた。


「お母さんの顔を思い出したいの。忘れたままなんて嫌なの」


 ユノはリゼを見た。


 リゼは少しだけ目を伏せた。


「星喰いに触れた記憶を覗くのは危険よ」


「危険って?」


「記憶の穴に引きずられることがある」


「でも、できるんだろ」


「あなたはすぐそう言う」


「見捨てられないだろ」


 リゼはため息をついた。


「分かったわ。ただし、覗くのはあなた」


「俺?」


「鍵の力がある。私よりも記憶に触れやすい」


「また俺かよ」


「嫌ならやめる」


 ユノはノアを見た。


 少女は布人形を抱きしめ、泣きそうな目でこちらを見ている。


 ユノは息を吐いた。


「やる」


 ミアが不安そうに言う。


「無理しないでよ」


「分かってる」


「絶対分かってない顔」


「分かってるって」


 四人はノアの家へ向かった。


 村の端にある小さな家だった。


 中は綺麗に片づいている。


 暖炉のそばには小さな椅子が二つ。食卓には木の皿が二枚。壁には白く抜けた絵が飾られている。


 それはおそらく、母娘の絵だった。


 けれど、大人の女性の顔だけが真っ白に消えていた。


 ノアはその絵を見上げる。


「ここに、お母さんがいたはずなの」


 ユノは絵を見た。


 少女の隣に立つ白い影。


 輪郭はある。


 けれど顔がない。


 その空白が、恐ろしいほど悲しかった。


 リゼは食卓の上に人形を置いた。


 そして星涙石を取り出す。


「ユノ、人形に触れて。目を閉じて、ノアの母親の名前を呼んで」


「サリア、だな」


 ノアが頷く。


「サリア。お母さんの名前」


 ユノは人形に手を置いた。


 布は柔らかく、少し温かい気がした。


 目を閉じる。


「サリア」


 最初は何も起きなかった。


 暖炉の音。


 ミアの息遣い。


 ノアが不安そうに衣擦れする音。


 それらが遠くなる。


 リゼの声が聞こえた。


「もう一度」


 ユノは深く息を吸った。


「サリア」


 星涙石が光った。


 次の瞬間、ユノは知らない台所に立っていた。


 いや、ノアの家だ。


 でも今より明るい。


 窓から朝日が差し込み、食卓には焼きたてのパンが置かれている。


 小さなノアが椅子に座り、足をぶらぶら揺らしていた。


「お母さん、早く!」


 ノアが笑っている。


 その声は今より幼い。


 ユノは息を止めた。


 暖炉の前に、女性がいた。


 黒髪を肩で結び、エプロンをつけた女性。


 背中を向けている。


 きっとサリアだ。


「急かさないの。熱いからね」


 優しい声だった。


 ノアが言っていた、少しだけ覚えている声。


 ユノは女性の顔を見ようと回り込む。


 だが、顔が見えない。


 そこだけ白くぼやけている。


 まるで濃い霧がかかっているようだった。


「くそ……」


 ユノは手を伸ばした。


 その瞬間、景色が揺れた。


 別の記憶へ飛ぶ。


 夜。


 ノアが熱を出している。


 サリアは濡れた布を額に当て、眠らずに看病していた。


「大丈夫。お母さんがいるから」


 顔は見えない。


 でも手の温もりは分かる。


 声の震えも。


 娘を失いたくないと祈る心も。


 また景色が変わる。


 春の畑。


 サリアがノアに花冠を作っている。


 ノアが笑い、サリアも笑う。


 けれど顔は白い。


 笑っているはずなのに、表情だけがない。


 ユノは胸が苦しくなった。


「見せろよ……」


 また景色が変わる。


 今度は礼拝堂。


 サリアがオルド老人と話している。


「村の人たちが、昨日のことを忘れています」


「記録を残そう」


「でも、記録も薄くなっているんです」


 サリアの声には恐怖があった。


「もし私が忘れられたら、ノアはどうなるの」


 オルド老人は何も言えない。


 サリアは布人形を抱きしめた。


「この子だけは、ノアのそばに残したい」


 景色がまた揺れる。


 黒い夜。


 サリアは家の中でノアを抱きしめていた。


 外には白い霧が出ている。


 窓の外に、黒い羽根の外套をまとった人物が立っていた。


 ユノの心臓が跳ねた。


 フェルカの地下で見た影。


 黒い羽根の者。


 そいつが、サリアの家の前にいる。


『星は、記憶を求めている』


 外套の者が言った。


『強い愛ほど、よく燃える』


 サリアはノアを背に庇った。


「この子には触れさせない」


『ならば、お前が差し出せ』


 黒い霧が家の中に入り込む。


 サリアが苦しそうに膝をつく。


 ノアは泣き叫んでいる。


「お母さん!」


「ノア、見ちゃ駄目!」


 サリアは震える手で布人形をノアに押しつけた。


「これを持っていて。お母さんを忘れそうになったら、この子を抱きしめて」


「嫌! お母さん!」


「大丈夫」


 サリアの顔はやはり見えない。


 でも声は笑っていた。


 泣きながら笑っていた。


「あなたのこと、愛してる」


 黒い霧がサリアを包む。


 ユノは叫んだ。


「やめろ!」


 しかし記憶の中のユノには何もできない。


 手を伸ばしても、霧を掴むことはできない。


 サリアの身体が薄れていく。


 黒い羽根の者が静かに言った。


『母の顔を喰らえば、子は愛の形を失う』


 サリアは最後の力でノアの額に口づけた。


「ノア」


 その声だけが、はっきり響いた。


「あなたは、私の光」


 次の瞬間、サリアの顔が白く弾けた。


 記憶が崩れる。


 ユノは暗闇に落ちた。


 闇の中で、黒い羽根の者が立っている。


『鍵』


 ユノは身構えた。


「お前は誰だ!」


『王の名を探す者』


「星喰いの仲間か!」


『星喰いは飢えだ。仲間など持たぬ』


「じゃあ何なんだよ!」


 黒い羽根の者は笑った。


『忘却の先にしか、救いはない』


「ふざけるな」


『覚えているから苦しむ。愛したから失う。ならば最初から、何も覚えなければいい』


 ユノは歯を食いしばった。


「それは救いじゃない」


『いずれ分かる。鍵よ。お前が最も忘れたい記憶に触れた時、その言葉をまだ言えるか』


「俺は忘れない」


『今はそう言うだろう』


 黒い羽根の者の姿が霧に溶ける。


『灰の王国で待っている』


「待て!」


 ユノは手を伸ばした。


 その瞬間、強い光が差した。


「ユノ!」


 ミアの声。


 ユノは現実に引き戻された。


 ノアの家。


 食卓。


 布人形。


 目の前には、泣きそうなノアがいる。


 リゼがユノの肩を掴んでいた。


「息をして」


「……っ、は……!」


 ユノは大きく息を吸った。


 全身が汗で濡れている。


 頭が割れそうに痛い。


 ミアが心配そうに覗き込む。


「大丈夫!?」


「ああ……たぶん」


「たぶんって何!」


 ユノは布人形を見た。


 人形の胸元が淡く光っている。


 そこに、小さな銀色の糸が浮かんでいた。


 リゼが言う。


「記憶の糸よ。サリアの想いが残っている」


「顔は……」


 ノアが震える声で聞いた。


「お母さんの顔、見えた?」


 ユノはすぐに答えられなかった。


 見えなかった。


 記憶の中でも、サリアの顔は白く消えていた。


 その事実をどう伝えればいい。


 ノアの目には、必死な希望が浮かんでいる。


 嘘をつけば、その場だけは救えるかもしれない。


 けれどそれは違うと思った。


「ごめん」


 ユノは正直に言った。


「顔は、見えなかった」


 ノアの表情が崩れた。


「……そっか」


 小さな声だった。


 泣くのを我慢している声。


 ユノは続けた。


「でも、声は聞こえた」


 ノアが顔を上げる。


「声?」


「ああ。サリアさんは、君を守った。黒い羽根のやつから。自分が消えるかもしれないのに、君だけは守ろうとした」


 ノアの手が人形を強く握る。


「お母さん……」


「最後に言ってた」


 ユノは胸の奥に残る声を、丁寧に思い出した。


「ノア。あなたは、私の光」


 その瞬間。


 人形が強く光った。


 銀色の糸がほどけ、空中に小さな光の粒が集まる。


 ノアは息を呑んだ。


 光の粒は、少しずつ人の形を作った。


 完全ではない。


 顔もまだぼやけている。


 けれど、そこには確かに女性の影が立っていた。


 黒髪を肩で結び、エプロンをつけた女性。


 サリア。


 ノアは震える手を伸ばした。


「お母さん……?」


 光の影は答えない。


 ただ、ノアの前に膝をつくように揺れた。


 そして、ノアの頬に触れる仕草をした。


 触れられたわけではない。


 でもノアは大粒の涙をこぼした。


「温かい……」


 リゼが静かに言った。


「顔は戻らない。でも、想いが形を残したのね」


 ノアは人形を抱きしめながら泣いた。


「お母さん……お母さん……!」


 光の影は少しずつ薄れていく。


 最後に、ノアの人形へ溶け込むように消えた。


 部屋には静けさが戻った。


 ノアはしばらく泣き続けた。


 ミアも目元を拭っていた。


 ユノは拳を握ったまま、黒い羽根の者の言葉を思い出していた。


 母の顔を喰らえば、子は愛の形を失う。


 許せなかった。


 名前を奪うだけでは足りず、顔まで奪う。


 愛された記憶の輪郭まで奪おうとする。


 そんなものを、救いと呼ぶなんて。


「ユノ」


 リゼが小さく呼んだ。


「黒い羽根の者に会ったのね」


「ああ」


「何と言っていた?」


「灰の王国で待っているって」


 リゼの赤い瞳が鋭くなる。


「やはり、次の目的地は灰の王国ね」


「そいつ、王の名を探す者って言ってた」


「王の名……」


 リゼは唇を噛んだ。


「魔女狩りの騎士団が、なぜ星喰いの王の名を探しているの」


「千年前の騎士団なんだよな?」


「本来なら、もう存在しているはずがない」


「でもいる」


「ええ」


 リゼは苦しそうに目を伏せた。


「過去が、まだ終わっていないのね」


 その日の昼、ユノたちはフェルカを発つことになった。


 村人たちは集まり、それぞれの名前を紙に書いてユノたちに渡してくれた。


 エマ。

 トマ。

 オルド。

 リナ。

 サリア。

 ノア。


 そして、まだ完全には思い出せない者たちの空白の紙も。


「いつか名前が戻ったら、ここに書くんだ」


 オルド老人はそう言った。


「だから、わしらも忘れぬようにする。君たちの名前も」


 ユノは頷いた。


「ユノです」


「ミアです」


「リゼ」


 村人たちは三人の名前を繰り返した。


 まるで祈りのように。


 ノアは最後にユノへ駆け寄った。


「ありがとう」


「俺は、顔を戻せなかった」


「でも、お母さんが私を愛してたこと、思い出せた」


 ノアは布人形を抱きしめて笑った。


 涙の跡が残った笑顔だった。


「顔はまだ分からないけど、温かかったことは分かる。だから、大丈夫」


 ユノは胸が詰まった。


 強い子だと思った。


 小さな身体で、失われたものを抱えながら、それでも立っている。


「いつか、取り戻す」


 ユノは言った。


「サリアさんの顔も。消えた記憶も」


 ノアは頷いた。


「うん。待ってる」


 ユノたちは村を出た。


 フェルカの人々は、三人の背中が見えなくなるまで名前を呼んでいた。


「ユノ!」


「ミア!」


「リゼ!」


 その声は、山道に長く響いた。


 ミアは歩きながら涙を拭った。


「私、駄目だ。こういうの弱い」


「俺もだよ」


「リゼは?」


 リゼは少し考えた。


「……胸が痛い」


「それ、悲しいってことじゃない?」


「そうなのかしら」


「たぶん」


 リゼは自分の胸に手を当てた。


「千年経っても、こういう痛みは消えないのね」


 ユノはリゼを見た。


「消えなくていいんじゃないか」


「痛いのに?」


「痛いってことは、忘れてないってことだろ」


 リゼはしばらく黙った。


 やがて、小さく言った。


「あなたは時々、残酷なほど真っ直ぐね」


「褒めてる?」


「少しだけ」


 空は曇っていた。


 星は見えない。


 けれどユノの鞄の中には、二つの星涙石があった。


 ルグナの欠片。


 フェルカの欠片。


 そして、ノアの母親の想いが宿った小さな光。


 すべてを取り戻すには、あまりにも小さい。


 けれどゼロではない。


 ユノは前を向いた。


 灰の王国へ。


 黒い羽根の者が待つ場所へ。


 星喰いの王の名の欠片が眠る場所へ。


 消えた母親の顔を取り戻すためにも、進むしかない。


 忘れない。


 ノアの涙を。


 サリアの声を。


 愛する人の顔を奪われる痛みを。


 その痛みこそが、ユノたちを前へ進ませる光になるのだと、今は信じたかった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


 このページでは、ノアという少女と、消えてしまった母・サリアの記憶を描きました。


 名前は覚えている。

 声も少しだけ覚えている。

 けれど、顔だけが思い出せない。


 星喰いが奪うのは、命だけではありません。

 大切な人を大切だと思えた証までも、少しずつ削っていきます。


 ユノはサリアの顔を完全には取り戻せませんでした。

 けれど、サリアがノアを愛していた記憶だけは、人形の中から呼び戻すことができました。


 そして、黒い羽根の者が灰の王国で待っていることも明らかになります。


 次のページは『魔法使いの条件』です。

 旅の中で、ユノは自分の中に眠る“鍵”としての力と向き合い始めます。

 そしてリゼは、魔法とは何か、魔女とは何かをユノたちに語ることになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ